御前会議当日
それから数日後の御前会議当日。城には貴族たちが集まってきていた。馬車が続々と城門をくぐる。そんな中、ルクナ公爵の馬車も城門をくぐった。
「あれはルクナ公爵の馬車では!?」
「まさか、あの方も出席なさるのか!?」
公爵の馬車を見た貴族たち、特に王の政治に反対意見を言うことの多い者たちは青ざめた。年若い王ならば年長であることを理由に押しきることもできるが、公爵相手ではそうもいかなかった。
「ルクナ公爵様、ようこそおいでくださいました」
馬車からおりた公爵に出迎えの騎士が敬礼する。公爵はいつもの男装姿で髪を高く結い上げていたが、その服は正装だった。
「御前会議までまだ少し時間がありますが、いかがなさいますか?」
「そうですね。後宮にご挨拶に行くことにします」
騎士の問いかけに答えた公爵がそのまま歩き出す。騎士は慌てて公爵のあとを追った。
「公爵様、僭越ながら、護衛をさせていただきます」
「護衛?わかりました」
自分より公爵のほうが強いことを自覚している騎士が申し訳なさそうな顔をして言う。公爵はその様子に小さく笑った。
「護衛だと言うのなら堂々としていなさい」
「申し訳ありません。しかし、自分は公爵様より弱い自覚があるので」
「それでも、あなたは護衛の任を賜ったのでしょう?あなたが自信なさげにしていると、あなたを護衛に任じた人も軽んじられますよ?」
公爵の言葉に騎士はハッとしたような顔をして背筋を伸ばした。その表情はさっきまでと違い堂々としたものだった。
「それでよろしい」
公爵はにこりと微笑むとそのまま城に入り、後宮に向かった。
公爵の訪れを知らされた後宮では王妃を始め妃たちが応接室に集まっていた。
「公爵様の馬車を見た貴族たち、さぞ顔を青くさせたことでしょうね」
「ここからその様子が見られないのが残念ですわ」
カリナとエリスの辛辣な言葉にイリーナとユリな、そして王妃が苦笑した。侍女たちはこの応接室には入れていない。だから王妃も妃たちもリラックスしていた。
「失礼いたします。ルクナ公爵様がいらっしゃいました」
王妃の侍女が部屋に入ってきて公爵の来訪を告げる。王妃と妃たちは嬉しそうに微笑んで立ち上がった。
「失礼いたします。王妃様、妃の皆様、ご無沙汰しております」
公爵が部屋に入ってくる。優雅に胸に手を当てて挨拶をした公爵に王妃と妃たちも挨拶を返した。
「お久しぶりです、公爵様」
「お変わりないようで安心しました」
「公爵様にお会いできるのを楽しみにしておりました」
「そのようにおっしゃっていただけて光栄です。最近は陛下の周りが騒がしいご様子。しばらく王都に滞在して御前会議に出席するつもりです」
公爵の言葉に王妃たちは嬉しそうに微笑んだ。
「公爵様が御前会議に出席なされば、陛下も心強いことでしょう」
「こちらにも遊びにいらしてくださいね?」
「はい。皆様のお顔を見ると私も嬉しいので、お邪魔でなければ、お伺いさせていただきます」
「邪魔だなんてとんでもありませんわ」
「毎日でもいらしてほしいくらいですわ」
王妃や妃たちの言葉に公爵は穏やかに微笑んだ。
「そろそろ時間ですので失礼します。皆様、仲良くお過ごしくださいね」
「御前会議、頑張ってくださいね」
王妃や妃たちに見送られて公爵は応接室をあとにした。
御前会議は城内の会議場で行われる。開始時間が近づくにつれ、会議場には貴族や大臣たちが集まってくる。議場の護衛には親衛隊がつく。議場の入り口で出席者の確認をしていた。親衛隊の騎士はルクナ公爵を見て背筋をのばした。
「ルクナ公爵エカテリーナだ」
「はい。中へどうぞ」
騎士にうなずき公爵が議場に入る。その瞬間、貴族たちや大臣たちの目は公爵に釘付けになった。
「ルクナ公爵がご出席とは珍しいですな」
皆が遠巻きにする中、声をかけてきたのはギルドア侯爵ガルマだった。
「ギルドア侯爵。お久しぶりでございます。久しく御前会議に出ていませんでしたが、貴族としての責務を果たそうかと思いまして。しばらく王都の屋敷に滞在するつもりでおります」
公爵の言葉に聞き耳をたてていた貴族たちがざわめく。公爵は気づかないふりをして笑みを浮かべた。
「ほう、しばらく王都に滞在なさるとあっては、陛下もさぞ心強いでしょうな」
「さて、私などがいかほどの力になるかもわかりませんが」
笑みを浮かべて言う侯爵に公爵も笑みを返す。その光景だけで家督を継いだばかりの若い貴族たちは青ざめていた。
「おや、これはこれはルクナ公爵様ではありませんか」
何やら不穏な空気をものともせずに公爵に声をかけたのはユリアの父であるユステフ伯爵だった。
「ユステフ伯爵。お久しぶりです」
声をかけられた公爵が伯爵を見て微笑んだ。
「先日はご息女のユリア様が陛下と共に我が領地においでくださいましたよ」
「そうですか。娘は元気そうでしたか?」
公爵の言葉に伯爵が嬉しそうな顔をする。気軽に会うこともできないため、娘の近況を聞けることは伯爵にとって嬉しいことだった。
「お元気そうでしたよ。陛下とも仲睦まじく。確か、キース様の護衛についていたのはご子息だったと思いますが」
「ええ。息子のギルバートも親衛隊として随行しておりました。キース様の護衛だったというのは今初めて聞きましたが」
にこにこと微笑みながら話す伯爵は娘と息子のことを嬉しそうに話すどこにでもいる父親のようだったが、周りで聞いている貴族たちは妬ましげな顔をしていた。私利私欲を優先させたい貴族たちからすれば、娘は妃、息子は親衛隊という伯爵の現状は羨ましいものだった。
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