いつもの日常
ユリアが帰ってきた翌日、急ではあるけれどと王妃から茶会の誘いがあった。他の妃たちには事前に知らせてあったようで、ユリアの帰りに合わせて開かれるようだった。
「ユリア様、まだお疲れなのではありませんか?」
昨日帰ったばかりなのにとメイが心配そうに尋ねる。ユリアは微笑むと首を振った。
「いいえ、せっかくのお誘いだもの。出席させていただきます」
ユリアの返事を聞いた侍女が一礼して退室する。ユリアは早速メイにドレスの用意を頼んだ。
「ユリア様、今日くらいはゆっくりなさればいいのに。王妃様も、少しお気遣いくださってもいいと思うのですが…」
「私は大丈夫よ。無理はしないから心配しないで?」
心配そうに言うメイにユリアはクスクス笑いながら着替えをした。実は昨夜、今日お茶会があることをユリアは他の妃たちから聞いていたのだ。だが、朝から準備していたのではメイに怪しまれる。だから使いがくるまで知らないふりをしていた。昨夜は王妃に会えなかったため土産を渡せなかった。王妃に渡そうとガラス人形をそっと忍ばせ、ユリアはお茶会に行くために部屋を出た。
王妃の温室に行くといつもの侍女が入り口で待っていた。
「ユリア様、ようこそお越しくださいました」
「少し遅れてしまいましたか?」
「いえ、皆様先ほど参られたばかりです」
侍女の言葉に安心してユリアは温室に入った。
「失礼します。遅くなってしまって申し訳ありません」
「ユリア様、急なことで申し訳ありません。お疲れではありませんか?」
出迎えてくれた王妃が気遣うように声をかける。ユリアはにこりと笑うと首を振った。
「大丈夫です。王妃様、よろしければこれを。お土産にと思って」
そう言ってユリアがガラス人形を差し出す。王妃はそれを受けとると嬉しそうに微笑んだ。
「まあ、可愛らしい。リュカのガラス人形ですね?ありがとうございます」
王妃の言葉にユリアは安心したように微笑んだ。王妃に案内されてユリアも席につく。先にきていた3人に挨拶をすると早速お茶会が始まった。
「ユリア様、各地のお祭りはいかがでした?」
「今回はリュカとコクト、それからサージャの町に行かれたのですよね?」
「はい。どこもとても楽しかったです。私、サージャの領主様が陛下の叔母上様だということを知らなくて、とても驚きました」
ユリアの言葉に王妃と妃たちはクスクス笑った。
「あのお方は色々とすごかったでしょう?」
「はい。とても素敵な方でした。公爵様は今度の御前会議に出席なさるそうで、しばらく王都に滞在なさるそうです。皆様によろしくとおっしゃっていました」
ユリアの話を聞いた王妃たちは「あらまあ」と驚いて嬉しそうに微笑んだ。
「公爵様が王都にいらっしゃるのは久しぶりですね」
「楽しみですね」
「本当に」
「公爵様がいらっしゃったらお茶会を開きましょうね」
口々に楽しみだと話す王妃と妃たち。その瞳はまるで少女のように輝いていた。
「御前会議が終われば離宮に避暑に行くことになるでしょう。皆様、それぞれご準備くださいね?」
「はい。今年はユリア様もご一緒ですから楽しみですわ」
王妃の言葉に妃たちがうなずき、エリスが言う。ユリアも「私も楽しみです」と言って微笑んだ。
久しぶりのお茶会はあっという間にお開きの時間になってしまった。王妃も残念そうにしながら続きは秘密の部屋でと微笑む。ユリアは妃たちと共に温室を出ると待っていたメイの元に歩み寄った。
「メイ、迎えにきてくれてありがとう」
「いえ。このままお部屋にお戻りになりますか?」
首を振って尋ねるメイにユリアは少し考えた。
「いいえ、少し散歩をしていきましょう。ずっと馬車だったから、体を動かしたいわ」
ユリアの言葉にメイはうなずいて日傘を差し出した。ユリアはありがとうとそれを受けとると日傘を指してゆっくり歩き始めた。
「あら、あれは…」
歩き始めてすぐ、ユリアは前から歩いてふたり組に目を止めた。ひとりはユリアの兄であるギルバード、もうひとりは視察中ユリアの護衛をしていたジルだった。
「こんにちは」
「これはユリア様、昨日ぶりですね」
ユリアが声をかけるとジルがにこやかに挨拶をする。ギルバードは小さく微笑みながら会釈をした。
「視察中はありがとうございました。今はおふたりともお仕事中ですか?」
「仕事ですからお気になさらずに。今もふたり仲良く巡回中ですよ」
ジルの言葉にユリアはクスクス笑った。
「お仕事お疲れさまです」
「ユリア様はお散歩ですか?たしか今日は王妃様のお茶会があったと思いますが」
「ええ。お茶会はさきほど終わりました。部屋に戻る前に散歩をしていたんです。ずっと馬車での移動でしたから、体を動かしたくて」
「馬車も疲れますからね。適度に体を動かすのは大事ですよ」
にこにこと笑いながら言うジルにユリアは微笑みながらうなずいた。
「ありがとうございます。お仕事中に引き留めてしまってすみません」
「いえいえ。ユリア様と会えてギルバートも喜んでいますから」
「おい!?」
「あら!」
ジルの思わぬ言葉にギルバートが驚いてジルの肩を掴み、ユリアは目を丸くしてクスクス笑った。
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