鉱山での神事

 早めの夕食を終えて一休みした王たち一行はカスツール子爵とその息子とともに神事が行われる鉱山に向かった。神事が行われる場所まではなんとか馬車で行けるが道は悪く、ガタガタと揺れる馬車での移動にユリアとカイルは移動だけでぐったりしてしまった。

「ユリア、大丈夫か?」

「は、はい。すみません…」

「カイルも、少し馬車で休んでいるか?」

「そうします」

顔色の悪いユリアとカイルを馬車に残し、護衛も馬車のそばにおく。王とキースは子爵たちとともに採掘現場に入った。


 採掘現場には中央に大きな焚き火が焚かれ、松明があちこちにおかれて明るくなっていた。そこに普段採掘現場で働いている屈強な男たちが集まっている。すでに酒盛りは始まっており、皆が楽しそうにワイワイ騒ぎながら酒を飲んでいた。

「おお!領主さま!それに陛下と王弟様だだ!」

カスツール子爵や王たちに気づいた男たちが歓声をあげる。子爵は慣れた様子で男たちの輪に入った。

「みんな、酒は足りているか?」

「もちろんです!」

「お妃様はご一緒じゃないんですか?」

酔った男が陽気に笑いながら尋ねると王は苦笑しながらうなうずいた。

「妃は馬車にいる。ここにくるまでで疲れてしまったようでな」

「ああ、ここまでの道はガタガタしてるからな」

「お妃様にはキツいよな」

王の言葉に男たちが口々に納得したように言う。王とキースは男たちが用意した椅子に腰をおろした。

「今年も事故なく採掘ができてよかった。これもこの山の神様のおかげだ。しっかりお祀りして感謝を申し上げよう」

「おおー!」

子爵の言葉に男たちが歓声をあげる。採掘場への入り口には祭壇が設けられ、酒や肉、果物などと一緒にこの山から湧き出る水が入った壺がが並べられていた。


「あちらは楽しそうね」

馬車で休んでいたユリアは時間が経つにつれて徐々に大きくなってくる賑やかな声で体を起こした。松明に明るく照らされた場所で男たちが賑やかに酒を飲んで楽しんでいる。その中に王の姿を見つけてユリアは微笑んだ。

「ユリア様、大丈夫ですか?」

ぼんやりと外を眺めているとジルが声をかけてくる。ユリアは小さく微笑んでうなずいた。

「大丈夫です。あの、どうして男の人しかいないんですか?」

賑やかに酒を飲んでいるのは全員男に見える。どうして女がいないのか尋ねると、ジルは「ここで働いているものしかいませんから」と言った。

「この神事は採掘現場で働いている者しか参加できません。採掘は重労働ですからね。男しか働いていないから女性がいないんですよ」

「そうなのですね。ああ、だから皆さん体が大きいんですね」

「腕力だけなら我々より強そうですよね」

クスッと笑って言うジルにユリアは微笑んでうなずいた。

「何かお飲み物をお持ちしましょうか?」

「いえ、大丈夫です。もう少し大人しく横になっていますね」

まだ完全に揺れの酔いが治まっていないユリアは横になるとため息をついた。

「ユリア様、大丈夫ですか?」

横になったユリアに声をかけてきたのは同じく横になっているカイルだった。

「ええ、だいぶ楽になりました。カイル様は大丈夫ですか?」

「僕はまだ少し気分が悪いです」

苦笑しながら言うカイルはまだ顔色が悪かった。

「馬車に酔うなんて初めてです」

「私もです。こんなに揺れるとは思いませんでした」

ぐったりしながら言うカイルにユリアもうなずいた。


 真夜中近くになり、祭壇の周りに松明が集められる。神事に参加している男たちは祭壇の前に並んで座ると、カスツール子爵が祭壇に行き一礼する。子爵は祭壇に供えられた壺を開けるとグラスに中の水を入れて男たちに配った。男たちは一礼してグラスを受けとると一息で飲み干し一礼する。それはこの山から生まれた水を飲み、山の命を分けてもらうという神事だった。

 その神事が終わると再び男たちは酒盛りをする。酒盛りは朝まで続くそうだが、子爵と王たちはそれには参加せずに屋敷に戻ることにした。

「ユリアとカイルはすっかり眠ってしまったようだな」

馬車に戻るとユリアとカイルは毛布にくるまって眠っていた。連日の疲れもあったのだろう。王とキースはふたりを起こすことなく馬車に乗り込んだが、屋敷に戻る途中の揺れでふたりは目を覚ましてしまった。

「陛下、キース様、眠ってしまってすみません」

「せっかくあそこまで行ったのに何も見れませんでした」

ユリアは申し訳なさそうに、カイルは残念そうに言う。そんなふたりを抱き寄せながら王とキースは微笑んだ。

「疲れてもいるだろう。気にしなくていいよ」

「またこの祭りにくる機会もあるさ」

王とキースの言葉にユリアとカイルは苦笑しながらうなずいたが、揺れる馬車にまた酔ってしまってぐったりしてしまった。

「ここは道が悪いのが難点だな」

「次は馬で来たほうがいいかもしれませんね」

ぐったりして話すこともままならないふたりに苦笑しながらキースが言うと、王もそれがいいとうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る