コクトの祭り
昼食が終わると王たちは祭りに出掛けた。
リュカの町同様、広場にたくさんの店が出て人々が集まっている。王たち一行の席も設けられていた。
「陛下だ!陛下ー!」
王が広場に行くと気づいた子どもが声をあげる。それにつられて人々から歓声が沸き起こった。
「まあ、すごいですね」
「そうだな」
驚くユリアにクスクス笑いながらうなずいて王が手をあげ民衆に応える。王は民衆の前に立つと穏やかに微笑んだ。
「今年はコクトの祭りに来られたことを嬉しく思う。このひとときを皆と共に楽しませてもらう」
王の言葉が終わると同時に歓声が沸き起こる。王はそれに手を振って応えるとユリアの隣の席に座った。
「ここもたくさんお店があるのですね」
「そうだな。祭りを見にくるよその町の者たちもいるからな。特に祭りのときはコクト石が少し安く売られる」
「ではコクト石がたくさん売られているのですね」
ユリアがそう言うと王は微笑みながらユリアを見つめた。
「ユリアもコクト石がほしいか?」
「綺麗ではありますけど、特別ほしいとは。高価なものですし」
「なるほど。ユリアは欲がないな」
ユリアの言葉に王はクスクス笑った。
広場の中央に道化師の格好をした人たちが入ってくる。ユリアとカイルはそれを見ると目を輝かせた。
「あれは何ですの?」
「あれは様々な芸を見せてくれる旅芸人です。今年はたまたま我が領地に来てくれました」
ユリアの言葉にカスツール子爵が答える。旅芸人と聞くと王は「ほう」と目を向けた。
「私も旅芸人は久しぶりに見る。楽しみだな」
旅芸人たちは王たちの席に一礼すると、賑やかな音楽を奏で始めた。いくつものボールをくるくるとお手玉したり、大きなボールに立ってバランスをとりながらいくつもの瓶をくるくる回したり、細いロープの上に立って踊ったり。旅芸人たちが芸を披露するたびに人々は歓声をあげ、ユリアやカイルも喜んで手を叩いた。
「見事だな。座長は誰だ?」
王が尋ねるとすぐに親衛隊隊長のライルが広場におりていった。
ほどなくしてライルは若い男を連れて戻ってきた。
「陛下、この者が座長だそうです」
男は王たちの前にくると膝をついて頭を下げた。
「思ったより若いな。思いがけず楽しませてもらった。我が妃と甥も喜んでいた」
「もったいないお言葉でございます。少しでもお楽しみいただけて幸いでございます」
王の言葉に若い座長は頭を下げたまま礼を言った。
「あの、旅芸人と聞きましたけど、あちこち行かれるのですか?」
ユリアが声をかけると、座長の男は頭を下げたまま答えた。
「そうです。国内を回ることが多いですが、国外に行くこともあります」
「まあ、外国にまで…」
座長の言葉にユリアは驚いた顔をした。
「お前たちはすぐにこの町を発つのか?」
ユリアの様子を見た王が尋ねると、座長は首を振った。
「この町には1週間ほどいる予定です」
「では、明日の午前中、領主の屋敷にきてはくれないか?妃はまだ色々と聞きたいらしい」
「陛下、よろしいのですか?」
明日もすぐに発たなければならないかと思っていたユリアが驚いて尋ねると、王は微笑みながらうなずいた。
「明日はそれほど出発を急がない。大丈夫だよ」
「ありがとうございます。あの、座長さんの迷惑でなければ、もっと色々なお話が聞いてみたいです」
嬉しそうなユリアの言葉に王は微笑み、座長は深く頭を下げた。
「迷惑などということはございません。明日の午前中、何人か連れてお邪魔させていただきます」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ユリアが微笑みながら言うと、座長は丁寧に礼をのべて王たちの御前から下がった。
ユリアとカイルはリュカの町のときと同じように広場におりて少し買い物をした。王とキースも途中で一緒になる。買い物をしたり旅芸人の芸を見たり、そして町の人々を直接話をしたりと楽しいひとときを過ごした。
「陛下、そろそろ屋敷に戻りましょう。夜もあることですし」
4人が広場から席に戻ると子爵が声をかける。王は時間を確認するとうなずいた。
「ユリア、一旦屋敷に戻って休もう。夜、鉱山での神事にも行くからね」
「わかりました」
王の言葉にユリアがうなずく。4人は子爵と共に屋敷に戻った。
「何か軽くつまめるものをご用意しましょうか?それとも、夜まで仮眠されますか?」
「そうだな。何かつまめるものがあるとありがたい」
王の言葉に子爵はうなずいてすぐに部屋に持っていくと言った。
キースとカイルも王とユリアの部屋にともにくる。4人は部屋に入りソファに座るとホッと息を吐いた。
「ユリア、カイル、疲れてはいないかい?」
王の労るような言葉にふたりはにっこり笑ってうなずいた。
「大丈夫です。とても楽しかったです」
「鉱山での神事というのはどういうことをするんですか?」
ユリアとカイルの興味津々といった様子に王はクスクス笑った。
「鉱山の神事は採掘場所に酒や料理、鉱山の湧き水を供えて一晩中飲み明かすんですよ」
カイルの問いに答えたのはキースだった。
「飲み明かす?お酒をですか?」
キースの言葉にユリアが驚いた顔をする。キースはクスクス笑いながらうなずいた。
「そうです。一晩中飲み明かし、賑やかに過ごすのです。確か日付が変わる頃に供えた水を皆で飲むのがメインの神事ですね」
「それが神事なんですか?」
尋ねたカイルにキースはうなずいた。
「鉱山から湧き出る水を飲むことで鉱山の命を分けてもらうのだそうだ。そして、鉱山の神は賑やかなのがお好きだそうだよ」
その言葉にユリアとカイルは顔を見合わせて驚いた表情を浮かべた。
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