第三十二章 暴れ姫
第二の
マリアが意識を取り戻したと聞いて、俺は陽子と一緒に王城に再び赴いてた。
「この前は、不甲斐ないとこ見せちゃって悪かったわ」
「気にすんなよ。俺だって、マリアが助けてくれなかったら、あのままやられてただろうし」
それにしても、土壇場で発動したあの力だったり、この右手の指輪だったり、本当になんなんだろうか。『管理者』も漠然とした説明しかしなかったし、正体が不明過ぎる。
「でも、アタシの力がもっとあれば…」
「くよくよすんなって。お、着いたぞ」
城の離れにある茶会用の小屋に到着すると、扉の前でマリアが待っていた。
「……来たかよ」
「ああ。体の方は、もう大丈夫なのか?」
「んなこたァ、どうでもいい。それより教えろ」
「なにをだよ」
この高圧的な物言いと冷たい態度。マリアのようでマリアじゃない。これは……。
「お前この
尋ねようとした途端、俺の視界は180°グルンとひっくり返った。
反射的に閉じた目を開けると、マリアの吸い込まれそうな綺麗な
「なにするのよ、マリア。蓮から手を放しなさい!」
「うるせェ、女剣士。
「その下品な荒々しさ。確かに、あのマリアとは違うみたいね」
「クソ天使のこたァ、いーんだよ。それより、どうなってんだ。やたらめったら力が湧いてきて仕方ねぇ」
どういうことだろう。天使のマリアが抑え込んでいた力でもあったのか。俺を投げ飛ばしたのも結構な膂力だった。
「まー、好都合だけどよ。好きに暴れられる力が欲しかったんだ」
「マリアはお姫様なんだろ。そんな好き勝手にしていていいのかよ」
「あ? オレの勝手だろうが。この国は退屈なんだよ。それとも、てめぇがオレの相手をしてくれんのかよ」
歯を剥き出し、凶暴な笑みを浮かべながら俺の胸ぐらを掴んで、その端正な顔を近づけてくるマリア。とりあえず距離感がバグってるのをどうにかして欲しい。
マリアの白く細くしかし力強い手を、そっと引き剥がして返す。
「お前とは戦わないよ。俺はな」
「どういう意味だ、そりゃあ」
「もう一人のアンタが、アタシに喧嘩売ったのよ。決闘しようってね」
「ふぅん……?」
そう。そういう話が出ていたはずだ。
陽子も自分の力を高めたいと思っているみたいだからいい修行になるし、ここでこっちのマリアの能力を確認しておきたくもある。
「暴れたいなら、正々堂々やろうぜ」
「……テメェ、変なヤツだな」
「そうか? お前には言われたくないけどな」
「やっぱボコしてやろうか!?」
などと怒るマリア姫(?)を宥めていると、中庭を通ってリエスと王さまがこちらにやってきた。
「やぁ、すっかり元気に、というか元に戻ったようだねマリア」
「……おかげさまでなァ。そっちもまだくたばってなかったかよ」
「もうっ、またそんな態度を取って! お姉様は素直になるといいのですよっ」
「ほっとけよ、アリエス。それに親父のことを信用してねぇんだオレは。ウソだらけだからな。知ってんだろ」
「ですからその態度をっ」
なんだか三人の間には妙な空気が漂っている。単純に仲が悪いってわけではなさそうだけど。
「…まあいいでしょう。マリア、せいぜい稀人の方達に迷惑をかけないようにしてください」
そう言い捨てて、王さまはどこかに立ち去って行ってしまった。
なんだかなあ。父親が娘に掛ける言葉ではないのはもちろんだが、王が臣下に告げる物にしても中途半端さとモヤモヤが残る。
「では、わたくしもこれで失礼するのですよ」
「そういえば、リエス。前の決闘の話、本格的に進めてもらっても構わないか?」
「ええ、問題ないのです。けれど、今のお姉様と戦うのは、その……」
まぁ明らかに凶暴性が増しているし、心配にもなるか。
「大丈夫。陽子のことなら心配ない。そう簡単には負けないさ」
「オイオイ自信満々じゃねぇか。テメェの女だろ。勢い余ってぶっ殺しちまってもいいのかよ」
「だ、だれがだれの女よっ! ふ、ふん。今のうちに大口叩いておきなさいお姫様。ボコボコにしてやるわ!」
うーむ、陽子とマリアの間で見えない火花が飛び散ってる気がする。けど、陽子が満更でもなさそうなのはなんなんだ。
ともあれ。
リエスの協力により、改めて、陽子対マリアの決闘が取り行われる運びとなった。
日にちは、明日の正午。場所は王都中央闘技場だ。
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