"talent"


 あの子にできないことはない。そう思っていた。


 でも現実にはあの子よりもすごい人は存在して、そんな人たちに囲まれればあの子だって有象無象の一人なのかもしれない。ただ、それでも自分にはあの子を見つけることができる。あの子の声を、間違えたりしない。だからこそ―――。


 「なにも分かってない。ここじゃない・・・・・・」


 自分ならもっと上手くできる。そう思った。


 その思いが、これまで目指そうともしてなかった夢への一歩となったのだから、人生とは分からないものだ。


 すぐに両親へと相談すると、思っていた通り喜んでくれた。ついにその才能を生かす気になってくれたのか、と。


 自分はきっと恵まれているのだろう。目指したいと思ったことに対する才能があって、それを応援してくれる環境がある。それが分かっているからこそ、本気で夢を追っていこうと思えた。



 ―――灼熱の太陽が輝く青い夏空の日から始まった、夢への道。制服の衣替えがあって徐々に気温の下がってきた秋になっても、自分の中の情熱は一向に冷める気配がない。


 「あれから少しずつ情報も増えてきてるけど・・・・・・」


 マスメディアの発達したこの時代、情報の拡散スピードは距離など通り越した次元にある。とはいっても情報量もあふれかえっているため、そこに埋まった情報が世間の注目を浴びるのは難しくもあるのだろう。あの子のことは毎日調べているが、まだまだ目指すところに届きそうにないのも仕方がないと思える。


 それでも、あれから何度か送られてきたあの子からの宅配物をチャックすると確かに前進していることが分かった。それを心の燃料にしているからこそ、自分も頑張れているのだ。



 『人生は最初に配られたカードで勝負するしかない』


 そんな言葉を聞いたことがある。


 生まれた環境、能力、才能。そこから自分の進みたい道、もしくは進むことができる道を選んで長い道のりを歩いていく。


 他人のカードと比べて苦しいと思うか、きっぱりと認めて開き直り自分だけの人生を楽しむか。きっと二つに一つなのだろう。


 ただ、カードをすべて把握している人なんてほんの一握りの人間のはずだ。ほとんどの人間は自分の才能や能力に気づく機会を与えられないまま生きている。ゲームの世界ならステータスを確認すれば済むことであっても、現実にはそんなシステムなど備わっていないのだから。


 そして、才能がある道に進むことがすなわち幸せに直結するわけでもない。上には上がいることを知って挫折することだって少なくないのだ。


 だからこそ、思う。人生に正解などありはしないのだと。


 時の運や人の運、そしてそのときどきの感情。不確定な要素が影響を与えるのだから、当たり前のことかもしれない。


 とまあ、長々と続けてきて何を言いたいのかというと。


 「・・・・・・まさかこんなことになるなんて」


 人生、何が起こるか分からないということだ。

 

 運も実力のうち。これも才能だというのなら、自分はきっと恵まれすぎているのだろう。

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