23話夜の王子と模擬戦・後編

 どうにかタナトスの血粒時雨を防ぎきったワタルは桜花ロウカを地面に突き刺し、ゼェゼェと疲れたようだ。


「ほぅ、あれを防ぎきったとは。ますます面白い人間だ。ワタルよ」

「ゼェゼェ、お褒め頂き光栄です。ですが、今の内に攻めなくても良いのですか?」

「ん、手負いの獲物を狩ってもつまらないだろう。それと同じだ」

「ゼェゼェ、そうですか。後悔しないと良いですね」


 ワタルは話てる内に呼吸を調えて次の一手を考えた。


「ふぅ、桜花ロウカ『形態変化』イメージは....そう、小太刀四本....夜桜モード....それに『闇反ダーク・アンチ魔法』"闇纏ダークオーラ"」


 桜花ロウカが小太刀四本に変化し、ワタル自身には闇属性のオーラが全身に覆い、首には地面に付きそうな程長いマフラー状のオーラが伸びてる。

 普通の闇魔法なら他の魔法で威力を弱めたり相殺出来るが、闇反ダーク・アンチ魔法は魔法完全耐性を持つ事に同じである。


「ふっ、力が溢れてくるようだ。桜花ロウカ行くぞ」


(マスターの仰せのままに)


「おっ、さっきよりは楽しめそうだ」


 タナトスはまだ自分自身の左手首を切り落とし"血粒時雨"をワタルに向けて発射した。

 ワタルは小太刀を地面に一本突き刺し、後ろ斜め上に一本投げると空中で止まった。


「桜流小太刀四刀術第四・防の型"黒椿"」


 地面と空中の小太刀間の空間が割れると"血粒時雨"を全て飲み込んだ。


「ほう、素晴らしい。もっと楽しませて下さい」


 わざと挑発してくる。


「はぁぁっ、第六・特の型"黒薔薇ブラックローズ"」


 ワタルは右手に持ってる小太刀一本をタナトスに向かって投げる。


「おっと、ただ投げるだけとはつま━━━━なっ!!」


 ワタルが投げた小太刀が途中から鞭の様に方向転換してタナトスの左腕を斬り付けたのである。

 投げた小太刀を良く見るとワタルの右手にあるもう一本の小太刀と黒いオーラで繋がっており、まさしく先に刃が付いた鞭である。


「くっ、何とも面白い技を使う。なら、これならどうする?"血飛沫の刺槍ブラッディ・ニードル"」


 タナトスが最初に放った"血粒時雨"の血溜まりから鋭い突起がワタルに向かってくる。まさかの完全な不意討ちで、ワタルの予想外な攻撃である。

 誰もがタナトスの勝利を確信してしまったのだが、まだ終わってない。ワタルの周りに三角錐状の黒い障壁が覆い守ったのだ。


「さ、さすがに焦ったぞ」


 急いで小太刀を戻すと地面に正三角形になるように小太刀を三本刺し、もう一本をその真上に投げ空中に止まった。

 そして、小太刀同士が線を結ぶように障壁を張ったのである。


「おぅ、これも防ぐか。貫いたと思ったのだがな。残念だ」

「ハァハァ、良く言う。なーにが残念だ。楽しくてしょうがない目をしてるではないか」


 タナトスは言葉とは裏腹に口角が上がっており、目が笑っている。この戦いが楽しくてしょうがないみたいだ。


「ふっはははは、良いぞ。そうでなくては、楽しくない。ふむ、小細工が通用しないとなると....次は肉弾戦にするか」


(何が小細工だ!危険過ぎだろ。だが、近接ならこっちのものだ)


 タナトスの肉弾戦の判断は後で誤りだと自覚する事になる。


「ふははははっ、行くぞ。ワタル」


 タナトスの背中から悪魔らしい翼が生え、左手首を血が滲み出る程度切ると血液が身長の倍ある鎌に変化した。


「くっ、はああぁぁああ」


 タナトスが血鎌を振り下ろし、それを小太刀でガキンと受け止め押し返す。


「ほぅ、パワーも申し分なし。久しぶりに楽しいぞ。

 それそれっ、どんどん行くぞ」


 ブゥンブゥンバッシュ....ガキガキン


「わははははっ、それそれそれ━━━おっ、やるじゃねぇか」


 タナトスの斬撃を受けながら、ワタルは自分の影に素早く小太刀一本を投げると吸い込まれ、タナトスの影からちょうど真後ろから飛び出たが避けられた。


 パッシン、飛んできた小太刀を掴む。


「ちっ、避けるなよ」


 不意討ちで命中するはずの攻撃だっただけに悔しがる。


「おらおら、どうした!防ぐだけじゃ勝てねぇよ」


 タナトス自身も実は内心で相当焦りがある。相手は下等生物の人間のはずなのに、ここまで自分の攻撃が防がれてる事にプライドがズタズタだ。

 だが、ワタルは強者なのは確かであり、この戦いが楽しいのもまた事実だ。

 この相反する気持ちに戦いの最中、葛藤してるタナトスである。

 ガキーンともう何回と数え切れない程タナトスの攻撃を防いでるワタルは左手の小太刀二本でタナトスの血鎌とバインド中に右手の小太刀を鞘に仕舞った。


「ん、どうした。諦めたのか?」

「いや、こうするのさ」


 ワタルの右手に絵筆と宙にパレットが浮いでいた。


「娯楽魔法・芸術系アート"色とりどりな属性魔術カラーズ・パレット"『赤の炎レッドファイヤー』」


 絵筆で赤の絵の具を周りに垂らすと、炎に変化し絵筆から炎が連なる。まるで炎の鞭の様である。


「なにっ!炎の鞭だぞ。そんなの聞いてないし、始めて見る魔法だ」


 血鎌から血盾に変化させ防御するが熱までは防げない。


「うお、熱っ!くっ、この━━━なにっ!」


 あまりの熱さにワタルから離れようと"血粒時雨"を放つが蒸発してしまう。元は血液なので蒸発するのは仕方ないだろう。


「くっ、このままでは熱さで焼けてしまう。仕方ない」


 タナトスの足下に黒い魔方陣が現れ、ドプンと黒い液体状の物がタナトスを包みこみ地面に潜ったのだ。


「ふん、逃げたか」


 魔法を解除して、タナトスの気配を探る。


「ふっはははは、喰らえ」


 ワタルの背後の影からタナトスが現れ血鎌でワタルの首を狙う。

 しかし、ワタルは待ってましたと用意していた魔法を発動した。


「"色とりどりな属性魔術カラーズ・パレット"『黄色の発光イエロー・ライト』」


 目が開けられない程の目映い光が会場を覆い尽くす。その隙にタナトスから離れるワタル。


「くおっ!目が....目が見えない!くっ、こしゃくな」


 タナトスは前方から殺気を感じ血盾を展開するが━━━


「"色とりどりな属性魔術カラーズ・パレット"『白色ホワイト光線レーザービーム』」


 絵筆からタナトスに白い光線が一直線に放たれ血盾を貫通し貫いた。


「ぐはっ、そんなバカな!鋼鉄の強度を誇る僕の血盾が砕かれただと」


 自分の体よりも技が敗れた事のほうが心配するタナトス。

 体は貫かれたが血を操る能力により傷がみるみると塞がっていく。


「ハァハァ、やっと目が見えるようになったわ。僕に手傷を負わせた事は褒めてやろう」


(儂とか言うような感じなのに一人称が僕か....似合わねぇ)


 などと思ったが口にはださずに黙っとく。


「次期夜の王にお褒め頂き光栄です。ですが、降参した方がよろしいのでは?」

「口が良いのか悪いのか分からぬわ」


 だって、わざと挑発する感じで話してるだから。


「まだ余裕そうなので行きますよ。"色とりどりな属性魔術カラーズ・パレット"『紫色の雷電パープルライトニング』」


 バチッバチッと絵筆から雷が流れタナトスに向かっていく。


「させるか。影の刺触手シャドウ・ウィップ


 ワタルの魔法をくい止めるために、タナトスの足下の影から無数の突起が付いた触手がワタルに向かっていくが━━━

 タナトスが発動した影の刺触手シャドウ・ウィップはワタルに届く寸前で消滅したのだ。

 実は色とりどりな属性魔術カラーズ・パレットを使う傍ら闇纏ダーク・オーラをずっと使っていたのである。

 本来は一つずつしか使用しないのが、この世界ミレイヌの常識だが、そんな常識はワタル(後、フランも)には当てはまらない。

 何故なら無限に近い魔力を持っているからである。まぁ、例外はあるが。

 話はずれたが闇纏ダーク・オーラ闇反ダーク・アンチ魔法の一つで自分以外の魔法を無効化する。なので、タナトスの影の刺触手シャドウ・ウィップは消滅したのだ。


「バッビビビビっ、バタンっビリビリ」


 感電して倒れるタナトス。

 やっぱり電気は防御無視出来ると勉強になったと思ってるワタル。

 審判員がタナトスが倒れた事により勝敗の判決を言おうとした瞬間、タナトスが立ち上がった。


「待て!まだやれる」


 プスプスと感電で焼け焦げており、切り傷ではない限り回復はしないようだ。


「ほぅ、まだやるのか。根性あるな」

「ぬかせ!ワタルお前なんかに負けてたまるか」


 体を動かそうとするが動かせず驚愕するタナトス


「か、体が動かせぬ!い、一体何をした!」


 無理矢理に動かそうとしたが、やはり動かせず焦る。


「タナトスお前の影にこ・れ・を刺した。影百合という技で相手の影に刺すことで動きを封じ込める。本来は話す事も出来ないはずだが、そこはお前の力が強いってことだな」

「くそっ!それが使えたなら始めから負け戦ではないか」


 ふざけんな!と言いたそうな表情にワタルは否定した。


「それはないさ。これを使わなかったではない。使う事が出来なかったのだ。タナトスお前は本能的なのか使う隙を見せなかった。それだけだ」

「くっ、降参する」


 ワタルは影百合を解きタナトスと握手する。

 わぁぁぁぁぁっと観客席から歓声と拍手が響き渡る。吸血鬼達もワタルとタナトス両者の実力を認めたようである。

 また、歓声の中にはワタルやタナトスに黄色い声、告白染みた声が紛れていた事は、それは別の話である。

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