22話夜の王子と模擬戦・前編

 吸血姫ルリ・ブラッドがワタルの嫁三人目に加わる事に決まったのだが━━━━


「どうしても納得できないが、夜がワタルの嫁になる事を認めてやっても良いじゃろう。ワタルが決めた事だからな」


 吸血姫ルリに対してフランはツンツンみたいだ。


「あぁん、そんな顔した魔王も可愛いわね」


 急にフランに抱き着き、体全体をモフモフとしている。

 抱き着かれたフランは一見嫌がってるが満更でもないように見えて微笑ましい。まるで、姉妹だな。姉がルリで妹がフランかな。


「止めろ!ワタルも見てるじゃろ━━━━あぁん、ちょっ、どこを触って....止めろって言ってるじゃろ」


 ドカッボカッ


 フランの堪忍袋が切れ、ルリの腹にフランの蹴りがクリーンヒットし加えてアッパーが顎に見事に当たると空中に舞い、テラスからルリが落ちてしまった。


「ふぅ~、やっと、片付いたのじゃ」

「....あれ、大丈夫か」


 ここのテラスの高さは四階なのだ。普通は助からないだろう。

 だが、相手は人間ではない。正確には違うが吸血鬼ヴァンパイアなのだ。


「痛いじゃない!魔王よ」


 ご覧の通り無傷だ。


「ちっ、死んでいなかったか。夜」


 マジで殺すつもりだったのか舌打ちをする。


「ほっ、大丈夫でしたか?ルリ様」

「ワタルは優しいの。それに我の事はルリと呼んでくださいまし。もう、その....我はワタルの嫁なのだから」


 二人の形成しつつあるが邪魔が入った。


「おい、妾達について来るのは良いが、まだ片付けておく問題が残ってるが良いのかや?」

「ちっ、良い雰囲気なのに邪魔するなや」

「何か言ったか?」


 何か文句でもあるのかとフランはルリを睨む。


「いえ、何でもありません」


 ワタルでもフランに睨まれると怯むので仕方ない。


「それで問題とは?」

「お主はここの女王なのじゃろう?離れても良いのか?」

「その事なら王の後継者なら決まってますが、周りから反対の声があり、そこでワタルにお願いがあるのです」

「ん、なんだい?」


 嫁からの頼みだ。どんな難題でも引き受けるつもりだ。


「その者と模擬戦をやってもらいたいのです。ワタルの実力は先の獣王との戦いで証明されています。そのワタルと戦い実力を証明出来れば周りも納得しましょう」


 ルリの頼みでワタルは夜の王後継者になる者と模擬戦をやることになった。

 ルリの忠告で「本気を出された方が良いですよ。相手は我の後継者なのだけら」と言われたが、最初は相手の力量を視るために様子を見ることにするのだが、この考えが間違いだと気付くのである。


「ここが模擬戦を行う闘技場でございます」


 案内された闘技場に入ると、こんなにこの城には吸血鬼がおったのかと驚愕した。吸血鬼の中に何故かセツナ達がいた事が最も驚いた。


「ワタルよ、お待たせしたの。こいつが後継者のタナトスじゃ」

「ご紹介授かりましたタナトスです。勝つつもりで挑みます」

「あぁ、何処からでも来い!」


 初対面だが、会ってみてわかった。コイツは強いと━━


「おや、良いのですか?獣王と戦ったみたいにしなくても」

「ん、これが一番使い慣れてるのでね」

「では、これより夜の女王様ルリ・ブラッド様のご子息タナトス・ブラッド様VS朝の王・獣王様に勝利したワタル様の模擬戦を開始いたします。両者、準備はよろしいか?」


 コクンと二人は頷いた。


「始め!」

「「「ワタル~、頑張って!!」」」


 応援に来てるセツナ達、いつの間にかフランが加わりワタルに声援送る。

 手元にはワタルの名前が書かれた団扇や扇子を持っており、ワタル自身は恥ずかしから止めて欲しいと思った。というか何処でそんな物を手に入れた?

 唯一の男であるグリムが恥ずかしくしてるが、フランとセツナが怖いので仕方なくやってる感じである。


「あははははっ、愉快な人達だ。あの魔王や狂狼が随分と丸くなったものだ」

「恥ずかしい限りです」

「では、そろそろ始めようか。観客からブーイングが鳴る前に」


 両者構えてお互いの出方を探っている。

 ワタルは刀状態の桜花ロウカを水平に中段に構えると、そのままタナトスに向かって走りだした。


桜花ロウカ行くぞ」


(シクシク、マスターの扱いが最近雑な感じがします)


 あ~、こんな時にいじけてる。


「悪かった。これが終わったら何か好きなことしてあげるから」


(本当ですか?わかりました。約束ですよ)


「はぁ~、桜流一刀術・第三の瞬の型・菫」


 ブーンとタナトスの目の前にワタルが放った剣撃迫ってる。


(くっ、速い!)


 間一髪でタナトスは後ろに反らし少し前髪を切った程度ですんだ。


「流石は吸血鬼ヴァンパイアと言ったところか。よく反応できたもんだ」

「こちらも驚いてますよ。人間の筈なのに獣王様を倒すとは何かの冗談だと思いましたよ」

「うふふふっ、次はこちらから行きますよ」


 タナトスは自分自身の左手首を鋭い爪で切り落とした。

 もちろん、大量に血が噴き出し、それを上空に向けるとある変化が起こった。

 噴き出した血が細かい粒になり空中で静止してるのである。


(あれはヤバい!)


 最初、タナトスは自殺行為したのかと思ったワタルだが、どんな攻撃か理解した途端、回避と防御の行動をとった。あれは何処に逃げても避けられないのだから。何故なら━━━


「避けられますかな?血粒時雨」


 空中で静止していた大量の血が鉛の弾丸の雨が降り注ぐ様にワタルを襲った。

 桜花ロウカでカキンカキンと鉛の弾丸と化した血液を弾いていくが、数が多過ぎて弾いていくに連れ捌ききれなくなってきた。


「くっ!」

「ふっははははっ、降参したらどうだ」


 傷だらけになっていくワタルを見て降参を勧めるタナトス。


「くっ、まだだ。防の型・椿」


 桜花ロウカの刀身が伸び扇風機の様に回転させ弾いていくのであった。

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