18話 豪華絢爛・魚介編

 Sランク商人マイスター商会であるキャットテール商会の会長キャロとの商談交渉は上手くいき、別れた後はブラブラと路地裏をワタルは進むのである。


「やっぱり大通りよりも路地裏の方が掘り出し物がありそうだしな」


 適当に散策していると魚屋を見つけ、近くに寄ると大きく油がのった鮭に似ている魚がデデーンと鎮座していたので聞いてみた。


「すみません。この魚は?」

「これかい。ルクスのメスだよ。珍しく揚がったんだよ。値は張るが美味しいよ。買うかい?」


 元の世界で料理人だったので、そこそこ食材の目利きは良い方だと自負している。

 ので、このルクスという鮭に似た魚が相当質が良く「絶対買え」と料理人の血が騒いでいる。


「はい、買います。後、それとこれを頂きます。いや~、掘り出し物でした」

「嬉しいね。この国の近くにライアと言う港街があるから、そちらの方が種類豊富で俺の兄妹が魚屋兼料理屋開いてるからよ。

 もし、ライアに行く機会が合ったら寄ってみてよ。俺の名前はトトで、ライアにいるのが妹のララって言うんだ。よろしくな」


 掘り出し物を見つけた上に良い情報を手に入れたぞ。この戦争が終わったら早速行って見るのも悪くないな。


「ただいま....うお、二人共」


 ログハウスの扉を開けた瞬間、フランとセツナに抱き着かれた勢いで転倒しそうになるが、なんとか踏ん張る。

 抱き着いてきた二人を見ると、不機嫌な表情でやはり置いてきぼりした事を怒ってらしゃるみたいだ。


「くんくん....何か女の匂いがする」

「本当だね。するね」


 犬かこいつら!え、両腕をガシッとホールドして何処に連れて行く気?ヤバい逃げられない!


「あ、桜花ロウカはここに置いていくね」


 あ、最後の頼みの綱が....

 空き部屋の扉が開く。まるで地獄の門だな。


「「楽しい楽しい拷問の始まりだね」」


 バタンと扉が閉まるとワタルの悲鳴が響き渡った。


「ねぇ、グリム、あの三人っていつもあんな風なの?」

「あぁ、あんな感じだ」


 グリムと黒猫はワタルが連れて行かれた部屋の扉を見ると「「平和だねー」」と呟いた。

 三人は部屋から出てくると、フランとセツナは肌が何故かツヤツヤと輝いてる一方、ワタルは某漫画の様に白く燃え尽きていた。


「にゃっははは、ワタルは大丈夫かにゃ?」


 ワタルに黒猫が近付くと顔を挙げると悲鳴をあげて後退った。


「ひぃ、ごめんなさいごめんなさい。もう、しません」


 脅えきったワタルを見ると黒猫も不安になった。


「一体何をしたんだにゃー?」

「「え、知りたいの?」」


 ブルブルと首を振った。もし、知ったら....トラウマになるだろう。


「はっ、俺はいったい....何をしてたんだ?うぅ、思い出そうとすると頭が痛い」


 本当に何があったんだ?気になるが知ったら....あの世行きかもしれない。


「ワタルは疲れて寝てただけだよ」

「そうかい。あ、もうこんな時間だ。急いでご飯作るから待ってて」


 特に気にすることなく、キッチンに引っ込んだ。

 本人が気にしてないなら、今日の事は話題にしないと心から誓うグリムと黒猫である。話題にしたら、自分の身が危ないと本能が訴えている。


「は~い、出来たよ。テーブル空けて」


 ワタルは出来上がった料理を次々と運んでくる。まずは、テーブルの真ん中に大皿が二皿置かれ、一皿目はルクスのカルパッチョつまり、鮭のカルパッチョである。

 二皿目はアオスター(牡蠣)のフライにタルタルソースとオイスターソースの二種類のソースを掛けてある。

 そして、人数分クルス(鮭)の親子丼を用意した。若干作りすぎ感はあるが、大食漢がいるから大丈夫だろう。


「おぉ、今日は豪華じゃないか?良いのかこんなに」

「あぁ、食べてくれないと困る」


 目の前の並んである魚介料理に黒猫が涎を垂らして今か今かと待っている。やはり、猫なので魚は大好物である。


「食べて良いのかにゃ。良いのかにゃ。じゅるり」

「では、食べようか。いただきます」


 ワタルが手を合わせて言うと他の皆もそれに合わせた。


「「「「「いただきます」」」」」


 最初に食したのはルクスの親子丼である。


「ツブツブの卵と切り身にご飯が良く合うにゃ。モグモグ....ワタルって料理も上手なんだにゃ」

「ふっふふーん、妾のワタルなんだから当たり前じゃろう。前の世界では料理長を勤めていたんじゃ」


 黒猫は感心してるが、料理長ではなく副料理長ですけどね。

 セツナが先にフランがワタルの事を自慢したから、悔しいのだろう、フランの事を睨んでいる。

 フランはそれに対してセツナの方を向き笑っている。女の戦いって怖いわー。ブルブル。

 普段は息がぴったりで仲良いんだけどな。


「ワタル殿、この貝の揚げ物美味しいです。白と黒のソースがあいますな。サクサクっモグモグ」

「あ、ずるーい。ワタシも....サクっ....う、ウマーーイ。何これ旨すぎる。今まで生きてて良かった」


 皆には絶賛であるが、フランとセツナが悩んでいた。


「うぅー、妻として料理くらいは出来たいが、ワタルの料理には一生勝てないと断言できる。勝てるイメージが全く浮かんでこないのじゃ。セツナもそう思うじゃろ?」

「女よりも男の方が料理上手ってなんか凹むのよ」


 そう言ってても食べる速度は遅くならないのである。


「これはカルパッチョと言ったか、まさか生の魚を食べるとはと思ったが、これはこれでさっぱりして美味しいな。それにしても、お金は大丈夫なのか?こんなに豪勢で」

「はい、思わぬ収入がありましたので」


 出掛けた先でキャロの出会いと出来事を簡潔に話した。


「ほぉー、Sランクの商人マイスターと契約を結んだと凄いな」


 キャロの名前が出ると、フランとセツナはムスーと不機嫌になるが直ぐに元に戻る。不機嫌の間はワタル自身理由が分からずブルブルと震えていた。

 話してる間に皿の中身は空となっていた以前に一欠片も残っていなかった。


「ふぅー、満腹だにゃー。もう、食べられないにゃ」


 ごろにゃーと黒猫が背伸びをした際に胸がポヨンと弾んだが、残念だか判断出来ないがポロリは無かったようだ。


「お片付けは妾がやるからの。ワタルは休んでおれ」

「あ、ずるーい。私もやるよ」


 空の皿を持ってフランとセツナはキッチンに入って行った。


「ありがとう。フランとセツナ、ご褒美として冷蔵庫にデザートが入ってるから、食べていいよ」

「「分かった」」


 デザートと聞いた黒猫はワタルの背後に回り後ろから抱き締めて甘える様な声を出す。


「ワタシには無いのかにゃー。それともワタシとい・い・こ・と・す・る」


 ワタルの背中に黒猫の膨満な胸がポヨンポヨンと形を変形しながら当たっている。


「く、黒猫止めてくれ」

「おやおや、止めてと言うけど、体は正直だにゃ。にゃっははは」


 何のことだか分からないと惚け続けるが、黒猫が一向に離れようとしない。気づいてくれ、この背後から来る殺気や寒気に気づいてくれお願いだ。


「むぅー、仕方ないにゃ。ここは諦めるにゃ」


 黒猫が離れると同時に背後から感じた殺気や寒気は消え「ほっ」と安堵した。


「うっまい、はむ....トロトロに自分がとろける様に美味しい!」

「はふー、何これ。プルプルでトロトロで、口に入れた瞬間消えるよ」


 フランとセツナがデザートとして食べてるのはワタル特製のプリンである。

 この世界には甘い物も娯楽と同じかそれ以上に少ないので、この二人が夢中になるのも無理はない。

 もしかしたら、デザート等甘味の料理を売ったら儲かるかもしれない。

 まぁ、そういうのは追々考えるとして、大量生産するとなると一人では不可能だからである。一人でやるとすると精々小さな店舗になるだろう。


「「はふー、ごちそうさま」」


 カランと空になった容器にスプーンを置いた。とても、満足そうにプリンと同じくトロトロと蕩けたように二人共だらしなく椅子に座っている。


「ワタルー、ワタシも食べたいー」

「もう、食材も無くて我慢してくれ。今度作ってやるから」


 ワタルは黒猫の顎を撫でてやると、普通の猫の様にごろにゃんと気持ち良くなってきたようで、ワタルの太腿の上で寝てしまったのである。

 黒猫が起きる様子が無いので、ワタルはその場で立つと予想通りに黒猫は床に落ちた衝撃で痛がっていた。


「今日は何か疲れたからお風呂に入ってくる」

「「じゃー、妾(私)も」」

「却下」


 そのまま、お風呂場に向かうと後ろからブーイングの声が聞こえてくるが無視して向かう。黒猫はまだ痛がっているようである。

 もちろん、誰も入ってこないように鍵を掛けて入るのであった。

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