17話Sランク商人との商談

「こちらにりますが何をする気で?」


 案内された敷地を見ると、ワタルは宝部屋アイテムルームからログハウスを敷地にドンと土煙を起こしながら置いた。

 その様子を見ていたテンガの部下は腰が抜ける程驚愕しており、反対に黒猫は興味津々に目をキラキラと輝かせワタルを見ていた。


「早く早く入るにゃ」


 まるで、幼い子供の様にバッとワタルの腕を掴みビューんと家の中に入ってしまう。


「えっ、ちょっ、待って!ぎゃぁぁーー」


 獣王テンガに勝ったとは思えない程、簡単に黒猫に腕を引っ張られ、中に浮いた。

 そして、中に浮いた勢いで家に入ったので、ドンガラガッシャンと音が響き、まだ外にいる皆は苦笑いを浮かべていた。


「いったたたっ、く、黒猫(怒)」

「にゃっははは、ごめんごめん。許してにゃん♪」


 全然反省してねー。グリムが苦労する訳だ。


「ワタルー、凄い音がしたけど、大丈夫なの?」


 皆がぞろぞろと入ってフランとセツナが側に来て、体を触ってくる、ちょっ、何処を触って....あぁーん、変な声が出そうになった。


「うむ、何処もケガはしてないようじゃな。念のため、軽く回復魔法を掛けておいたから大丈夫じゃろう」


 おお、さすがフラン、仕事が早い!

 ログハウスに入って数分経った頃、トントンと扉をノックの音が聞こえ扉が開いた。


「おぉ、部下の説明では要領を得ないんでな。直接来てみたが....これは凄いな!」


 獣王テンガがログハウス内を見渡すと、見たこと無い家電に興味津々である。

 最初のフラン達と同じ反応でワタルはクスッと思い出し笑いをするのであった。


「なにー、この家をワタルが作っただと!」


 獣王テンガはワタルも自分やフランと同じ戦闘バカだと思っていたらしく、戦闘の他に建築等も出来るとはと驚愕を禁じえない。


「おい、何か失礼な事を考えていないか?テン坊よ」


(こういう時に勘が鋭くて困るの)


「め、滅相もない。魔王よ」


 若干冷や汗をかいている。一応、王なのに情けない。まぁ、相手が世界最強の魔王だから仕方がないと言ったら仕方がないのだが。


「それにしても、我が城よりも居心地が良さそうじゃの。暫くはここにいるのか?」

「まぁ、とりあえず戦争が終わるまでは。その後はまだ解りませんね」


 うむむむむっ、考えこむ獣王テンガ。


「ここを拠点にしたらどうだ?」


 獣王テンガの提案にワタルより先にフランが拒否したのである。


「同じ所に居続けてもつまらんだろう。その提案は却下じゃ」


 ズーンと凄く落ち込む獣王テンガを見たワタルはフランにある提案を出来ないか話した。


「フラン、ちょっと」


 ワタルはフランの耳元に口を近づけ、ゴニョゴニョと話すと最後にはご機嫌になり皆の所に戻る。


「テン坊よ。今直ぐには無理だが、この家とそなたの城とを行き来できる様にしてしんぜよ」


 ぐわっ!と落ち込んでいた事が嘘の様にキラキラと満面な笑顔となっていた。


「ワタルに感謝するんだな。ワタルがそなたのために方法がないか聞いてきたんだからな。有り難く思えよ」


(ワタルがご褒美くれるからって言うから仕方なくじゃな)


「ワタル....いや、ワタル殿ありがとうー」


 ガバッとワタルに抱き付こうとしたが、ワタルはそれを避ける。


「何故避けるのだ。ワタル殿」


 男同士で抱き付き合いたくないやい。嫌がってるのに、何度も抱き付こうしてきて気持ち悪い。特に顔が....


「ワタルが....嫌がってるだろうが」

「ヴぉろげろげ¥#!?」


 フロンのハイキックがバキッと獣王テンガの顔面に見事クリーンヒットしてぶっ飛んだ。


「ワタルー、大丈夫かの?」


 やっぱり抱き着かれるなら男よりも女だよね。男同士で抱き付くなんて誰得?な感じ....いや、腐女子とゲイなら喜ぶか。


「大丈夫だよ。マジ助かった」


 フランで癒されてる時にバンと扉が開いた。


「失礼、私は獣王様の執事をしておりますセバスと申します。こちらに....いましたね。皆様にご迷惑を」

「「「「いえ、全く」」」」


 フランのハイキックによって未だに延びてる獣王テンガにセバスは近付き片足を掴んで持った。


「では、皆様失礼致します」


 延びてる獣王テンガを何も無い様に引きずってバタンと扉が閉まった。


「ふぅー、まるで台風が過ぎ去った様だな」


 未だに抱き着いてるフランの頭を撫でながら和んでいたのである。


「いつまで、抱き着いてるのよ」


 セツナがワタルの腕を引っ張りフランから引き離す。どうやら、外で引き離した仕返しらしい。

 でも、セツナでも癒されるのは間違いないので頭をモフモフする。あぁ、獣人だからなのか触り心地が気持ちいい。

 セツナをモフモフしているとワタルの裾をチョンチョンと引っ張られたので、見ると腰に携帯してる刀状態の桜花ロウカが頭と腕だけ刀から生やしてショールな光景があった。ある意味、ホラーかもされない。


「マスター、ご迷惑でなければ私の頭も撫でてください」


 獣王テンガの試合で使用した寒桜モード以降、女の子らしい事をしたい様でワタルの料理以外には、ほぼ無感情だったのが色々と興味を持ったのである。


「あぁ、マスターに撫でらると気持ちいいです」


 端から見たらシュールな光景だがな。子供が見たら泣きそうだ。

 それを側で見てるセツナもシュールすぎて引いてるぞ。

 暫く、満足するまで撫でていたら刀に戻りマスターのワタル自身も安心してしまった。


「あ、そうだ。夕飯の買い出しに行ってくるから待っててくれ」

「「一緒に行くー」」


 二人きりでワタルとデートするチャンスにフランとセツナが睨み合う。


「私に譲りなさいよ」

「妾は魔王じゃぞ。ここは上司に譲るのが礼儀じゃろ」

「恋に上下なんて関係ないよ」

「「なによ。ヤル気....」」


 ポカポカと漫画でヤル様な煙が舞う子供のケンカを繰り広げてる。

 決着が付かないので、ワタルに勝敗を決めさせようと周りを見るがワタルがいない。


「「ワタルはどっちが....あれ、ワタルは?」」

「にゃっははは、面白いにゃ」

「ワタル殿なら二人が言い争いしてる内に出て行ったぞ」


 ガランガランと開けられた扉をフランとセツナは見て「「えぇぇぇーーー!!そんな」」と叫ぶのであった。


「ふぅー、脱け出せて良かった。後が怖いが仕方がないか。どっちか選ぶなんて出来ないし」


 脱け出したワタルは一人で買い出し兼探索をするため、路地裏に入っていく。


「お兄さ~ん、そう、そこのお兄さんだよ♪」


 呼び止められ振り向くと一見、猫の獣人の様だが尻尾が二股に別れている。

 おそらく、黒猫と同じ獣妖族で尻尾が二股だと猫又だろう。黒猫もそうだが、猫の獣妖族の女性は着物が多いのか?


「ん、何か用か?」

「いや~、お兄さんって獣王様に勝利したっていう人間でしょ。噂になってるよ♪」


 まぁ、あの場には一般人もいたらしいし、噂くらいにはなるかな。


「それで、君は?」

「私はSランク商人マイスターのキャッツテール商会会長キャロと申します」


 キャロはお辞儀をすると、自分のギルドカードを取り出し本人だと示す。

 ギルドカードは偽証不可能で本人以外利用不可なので本人で間違いないだろう。


「そ、そんな偉い人が俺に何か用があるのか?」


 獣人なので、ハッキリと年齢は解らないが、こんな若い娘が亘の故郷・日本で言うところの大企業の社長なのだ。緊張と驚愕で変な汗をかいてしまっている。


「そんなに緊張しないで。確かワタルと呼ばれていたわね。ワタルと獣王様がしてた遊戯を売って欲しいの」


 おそらく、麻雀の事だろうが何故知ってる?あの場には俺とフランに獣王テンガしかいなかったはずだ。


「何故知ってる?あの場には三人しかいなかったはずだ」


 キャロはしまったと顔を押さえネタバラシをしてくれた。


「少しは頭が廻るようね。私には特殊なスキルがあるのよ。千里眼というんだけどね」


  な、なにー、千里眼といったら遠方を覗き見するやつだよな。男のロマンみたいなスキルだ。

 もし、千里眼を覚えたら....覗き見だろ、覗き見だろ....他に使い道が思いつかん。


「その千里眼で見たのか。それなら、これがあの時やってた物だ」


 ごそごそと宝部屋アイテムルームから麻雀卓と牌を出した。


「おぉー、確かにこれです。譲ってくれ....」


 ワタルが麻雀以外にも将棋、オセロに囲碁等のテーブル遊戯を一通りキャロの目の前に出したので、最後まで言葉が出なかった。


「わぉ、こんなにあるのですか。素晴らしいです」


 興味津々に見て、ブツブツと何か呟いている。


「売るのは良いですが、俺から提案があります」

「おぉー、何ですか?」

「ただ売るのでなく、アイディアを売るので売上の何割か貰えませんか?」


 ワタルから意外な提案をされ、驚愕するが直ぐ様、考えがまとまり答えが出たのである。さすが大企業の社長である。


「そ、そのアイディアとは?」


 よし、乗ってきた。


「例えば、囲碁と将棋ですが、俺の故郷では材質や名のある職人が作れば高級品になります。後は、大会を開催するとかしてプレイ人口が増えれば自然に売れる訳です」


 ワタルの説明にキャロは頭の中で計算をした。


「面白いですね。良いですよ....それで、これでどうですか?」


 キャロは算盤でシュッタンタンと計算した値を見せ交渉する。


「え、こんなに良いんですか?」

「はい、そ・の・か・わ・り」


 キャロがワタルの胸辺りを指でなぞる。何か怖い感じがする。


「ウチの商会にまたワタルのアイディアを売って、ご贔屓にして欲しいのよ。ワタルもFランクだけど商人マイスターなのよね。

 たまに、いるのよ。ワタルみたいにランク低いけど、金儲けできる商人マイスターが現れるんですの。

 ワタルの商人マイスターのギルドカード見せてくれない。ギルドカードは口座の役割もしてるので、カードの番号が分ければ何時でも送金出来ますの」


 そういうお話ならこっちから願って叶ったりである。だが、こちらの世界でまさか口座があるなんて思わなかった。


「ギルドカードを持って『オープン』と唱えれば口座の残金や相手のカード番号が分かると送金出来ますの。私の番号も教えますので、何か必要な物があれば、キャッツテール商会をご贔屓にお願いしますの」


 ワタルは長い間、ビジネスパートナーになりそうなキャロにある物を渡した。


「これはなんですの?」

「これは携帯電話と言いまして遠方からでも通話、つまり話すことが出来るマジックアイテムと考えて頂ければと」

「へぇー、便利ね。ありがと。チュッ」


 不意討ちで口にキスされ、呆然するワタルであった。


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