【短編】モンス・トレイルの鐘は鳴りやまない

黒瀬環

モンストレイルの鐘は鳴りやまない

 街のどこにいても、その音は届いた。

 石畳を踏む蹄にも、露台に並ぶ青果にも、濁った溝水にも、等しく降りそそぐ。

 朝は人を起こし、昼は怠惰をたしなめ、夜は祈りの代わりに空を震わせる。

 ――モンス・トレイルの鐘。

 王都から半日ほど離れた港町アルティエに、やけに背の高い鐘楼が一本だけ立っている。

 町の誇りであり、また戒めだった。

 港では、羅針盤の硝子が潮で曇る日がある。

 そんな日は、人々は鐘の方角と風の匂いで北を知った。

 曇った硝子の向こうで、風がいつも鐘のある方へ流れた。


 その鐘の高台で、かつて二人の子どもが出会った。

 一人は紺の上衣に銀糸の刺繍をほどこした少年。

 名をセドリック・ド・ヴァルナ。

 古くから続く有爵家ヴァルナ家の跡取りである。

 もう一人は、薄い亜麻色の髪を風にほどく少女。

 名をエリシア。

 行商人の娘として生まれ、父を病で失ってからは母と二人、粗末な屋根の下で暮らしていた。


 出会いの日、エリシアはいつものように高台の外縁に座り、柵から身を乗り出して港を眺めていた。

 帆柱の列が並ぶ先に海。

 海の向こうは見えない。

 見えないからこそ、想像できた。

 エリシアには、景色を見るたびまず北を探す癖があった。

 屋根の影、帆の向き、塔の影の伸び方――ささやかな手掛かりを拾い集めて、心の中の針をそっと北へ戻す。


「危ない」

 背後で少年の声がした。

 振り返ると、刺繍の袖を風が持ち上げる。

 少年は柵へ駆け寄り、無作法にエリシアの肩を掴んだ。

「落ちるところだった」

「落ちないよ。ここはわたしの特等席なの」

「……特等席?」

「港のいちばん奥も、山道の白い折り返しも、鐘の中の暗い梁も、ぜんぶいっぺんに見える席」

 少年は肩から手を離し、紫がかった瞳に興味と困惑を交互に映した。

「君は?」

「エリシア。そう言うあなたは?」

「セドリック……。セド、でいい」


 それから二人は、鐘の内部を歩き回った。

 木の梁を数え、古い落書きから昔話をでっち上げ、響きの違いを足音で確かめて音楽を作った。

 高台の石床の隅には、かすれた星形の刻印があった。

 昔の職人が遊び心で彫った、拙い方位印。

 二人はそれを見つけては、どちらが北か言い当てる遊びを繰り返した。

 暮れていく空の色が石壁をうっすら茜に染めた頃、セドは言った。

「今日のこと、家には言えない。ぼくは……下町の子と遊ぶなって言われてる」

 エリシアは肩をすくめて笑った。

「わかった、誰にも言わない。ここで会うのは、わたしたちだけの秘密にしよう」

「本当に?」

「うん。セドリックが困るなら、なおさら黙ってる」

「助かる。ありがとう」

 鐘楼の高台に笑い声がふわりと輪を描き、やがて鐘の口の暗がりへ沈んでいく。


 以来、二人はひっそりと逢瀬を重ねた。

 王都の学師が巡回にやってくれば、セドは学んだことを誇らしげに語り、エリシアは港の噂や下町の歌を教えた。

 身分制度は町の空気のように濃かったが、鐘の高台だけは薄かった。

 上も下も区画線が引けない場所。

 夏、海風が強い日は、鐘の胴に体を預けると震動が胸に伝わった。

 そのたびエリシアは言った。

「鐘って、鳴らすから鳴るんじゃないよ。鳴りたいときに勝手に鳴るんだ」

「勝手に?」

「風のほうが鐘を鳴らすの。人が鳴らすふりをするだけ」

 首を傾げたセドは、やがて頷いた。

「それ、好きだ。ぼくたちがここで会うのも――きっと風のせいだ」


 季節はいくつか巡り、二人が背丈と声を変えた頃、別れが来た。

 セドが王都の学院へ留学する話は、思っていたより突然だった。

「すぐ戻るよ。二年……いや、もっと早く」

 セドは帯の内側から、筆記具を削るための小刀を取り出した。

 刃先で石面を軽くなぞりながら言った。

「ここに印をつけたら、方角を見失わずに待っていてくれる?」

 エリシアは頷いた。

「待つよ、この鐘と一緒に」

 約束の合図に、二人は石面に小刀で“北向きの矢印”を刻んだ。

 互いの掌を合わせる高さに、小さな印が冷たく光った。

「北は一つ。針は迷っても戻る」

 セドがそう言うと、エリシアは「それ、好き」と笑った。


 ――約束は、風より長くは続かなかった。

 セドは戻らなかった。

 二年どころか十年が過ぎた。

 王都で戦が起こり、学院が徴兵の管轄に入ったと噂された。

 ヴァルナ家は勢威を増し、老当主は病に伏したとも聞いた。

 エリシアは待った。

 けれど待つだけでは生きられない。

 母は病み、薬は高く、下町の暮らしは冷たかった。

 彼女はある日、自分の身体を売る場所の扉を押した。

 そこは女たちが笑い方を覚え直し、名を捨て、客の名を拾う場所。

 そこで彼女は別の名――ルゼットを名乗った。

 だが、女将のブランシュは、エリシアの母と顔見知りだった。

 最初は断ったが、路上や口入れ屋に流れるよりはここで守るべきだと判断し、店の側で三つの約束を自分に課した。

 借金で縛らないこと。

 罰金を科さないこと。

 稼ぎの一部は封緘した袋にして本人名義のまま預かり、いつでも渡せるようにしておくこと。

 さらに夜番の合間に読み書きと計算を教えると自分が約した。

 ブランシュは言った。

「ここは綺麗な場所じゃない。でも、外よりはましにできる。これはあんたに守らせる約束じゃない。あたしが守る約束だ」

 その夜から、ブランシュは帳場の隅に小さな蝋燭を一本灯した。

 エリシアが部屋へ入るたび、芯が短くなるのを見つめた。

 知らぬ男に身体を赦さねばならないことを思うたび、胸の奥が鈍く痛んだ。

 彼女は入れ替えの合図を早め、無理な客には静かに釘を刺し、名簿の印を自分の指で一つ消した。

 儲けは減ったが、減らせる痛みは減らすと決めたのだ。

 気高い男たちが時々、軽蔑と欲望を同じ皿に載せてやって来た。

 鐘は相変わらず鳴った。

 鳴るたびにルゼットは、自分の名――エリシアの名と、あの青年の名を思い出し、胸の奥で小さく折り畳んだ。

 折り畳んだ紙はやがて薄くなり、文字は消え、ただ手触りだけが残った。


 十年目の夏の終わり、港に悪い風が吹いた。

 客の一人――オトマールという酒商人が、ルゼットの部屋で突然、首に腕を回し囁いた。

「……一緒に死なないか。俺の借金はどうせ返せない。お前も、もう疲れただろう?」

 酒の臭い。

 乾いた笑い。

 突き出された短剣。

 ルゼットは瞬時に背を引き、指先で灯を弾き、暗闇を作って扉の隙間に滑り出た。

 廊下で誰かが叫び、誰かが笑った。

 彼女は駆けた。

 石畳を、細い横道を、露台と露台の影をすり抜けて。

 息が上がると、胸の奥で別の名が呼ばれた。

 ――エリシア。

 足は勝手に、町でいちばん高い場所を目指した。

 鐘楼。

 モンス・トレイル。

 いつかの席。


 鐘楼の扉は押せば開いた。

 螺旋階段は狭く、足音が木の梁に跳ね返る。

 後ろから、オトマールの喘鳴と罵声。

「逃げても無駄だ、狐め!」

 ――逃げるのは、いつまで続く?

 生き続けるって、逃げ続けるのと同じ?

 答えはない。

 鐘は時刻を知らせる予定もなく、ただ黙っていた。


 高台の扉を押し開けたとき、風が髪を攫った。

 夕暮れ。

 港の帆柱が黒く立ち、オレンジの空が古い屋根に溶ける。

 その手すりの傍らに、男が一人、立っていた。

 黒い外套に銀糸。

 幼い日の刺繍の記憶と重なるが、その肩は広く、眼差しは硬い。

 男はゆっくり振り返り、名を呼んだ。

「――エリシア」


 時間が、鳴りもせず鳴った。

 彼女は一歩、足を止める。

「……誰」

 わかっていた。

 声が先に思い出した。

 けれど、確かめたかった。

 胸の深いところ、折り畳んで薄くなった紙の手触りに指を伸ばしたかった。

 男は微かに笑い、名乗った。

「セドリック・ド・ヴァルナ。……北を目指して、戻ってきた」

 エリシアは一歩だけ下がり、手すりに指をかけた。

 離そうとして、離せなかった。

 そのとき、階段の奥からオトマールが躍り出た。

 短剣を振り上げ、獣のような息で叫ぶ。

「返せ!俺の女を返せ!」

 セドは外套の内から紋章板――ヴァルナ家の双獣の印――を取り出し、低く告げた。

「ここでの暴挙は、ヴァルナ領臨時代官として私が制止する権限にある。州憲第十三条と治安布令に基づき、現行犯を拘束する。オトマール・ビュース、武器を捨てろ」

 短剣がためらった一瞬、セドは半歩踏み込み、手首を払って刃を落とす。

 鐘楼の影から現れた衛士が二人、素早く押さえ込んだ。

「代官署へ連行し、正規の裁を受けさせろ」


 衛士に引きずられながら、オトマールは誰にともなく呟いた。

「関税が跳ね上がって店が飛んだ。家も失った」

 オトマールの消え入りそうな声音に、セドは憂いを秘めた瞳を浮かべた。


 罵声が遠ざかる。

 夕風が入れ替わる。

 セドはようやく、エリシアへ向き直った。

「遅くなった」

「内乱のあいだ、学院の士官候補として辺境守備に拘束されていた。父の病没で家督と代官任命の手続きが重なり、王都を離れるのにさらに年を要した……まあ、言い訳、だな。でも、本当に戻りたかった」


 それきり二人はしばらく黙っていた。

 鐘の胴の影が落ち、風だけが通る。

 エリシアは腕を抱き、肩の震えをおさえた。

「十年、ね」

「ああ」

「わたし、待つのをやめたの。待つより、生きる方を選んだ」

「知っている」

「知ってる?」

「戻る前に、町の記録を読んだ。君の住まいも、働く場所も」

「じゃあ……全部、知ってるの?」

 セドは頷き、言葉を探すように息を整えた。

「君がどれだけ働いたか。母君にどれだけの薬を買ったか。夜、どれだけ一人だったか。 ――そして、君が今もここに来ることだけは、知らなかった。知りたかった」

「ここは、わたしの席だもの」

「ぼくの席でもある」


「セド」

 十年ぶりに名を呼ぶ。

 舌がその音の形を思い出す。

「わたしは穢れてる。あなたの家名に似合わない。あなたの手を汚す」

 セドは首を振った。

「穢れ、とは誰が決める?君自身か、それとも君より上にいるつもりの誰かか。君が今日まで生き延びたこと――それは、どれほどの者ができるだろう。心に残った闇は闇のままでいい。ここには鐘がある。鳴らせば、音はすべてを均す」

「均す?」

「高いところと低いところの違いを、いっとき忘れさせる。 身分をなくすことは一朝一夕では叶わない。けれど、ぼくは領の決定権を持った。上から壊すことも、下から支えることもできる。 君には、傍らにいてほしい」

 エリシアは涙まじりに笑った。

「告白、なの?」

「告白だ」

「遅いんだもの」

「遅かった」

「十年、鐘はずっと鳴ってた。あなたの代わりに鳴ってた」

「なら、今は二人で鳴らそう」

 セドは鐘の梁に手を置く。

 エリシアも隣に並び、手の甲が触れた。

 夕陽が鐘の縁を薄く縁取り、影が石床に重なる。


 その夜、娼館で針路が切り替わった。

 巡回が強化され、若い見習いの娘に乱暴に手を伸ばした客を、エリシアが庇って押し返した。

 もみ合いで卓上の燭台が倒れ、敷物に火が移った。

 帳場の砂桶で素早く消し止められた。

 廊下の一部は煤けたが、けが人はいなかった。

 門前に衛士が封書を掲げ、赤い封蝋の紐が戸口に斜めに張られた。

 セドが代官署の布告書を携えて到着したのは、その混乱の只中だった。

「本日より、借金による私的拘束を違法と定める。 違約金名目の拘束も同じだ。 監督は暫定監査局へ移す。三十日で恒久化する」

「休業中は女将ブランシュに転業支援の小口補助を給すること。 使用人の寝所はそのまま保護し、移行先が決まるまで退去を迫らないこと」

 読み上げられた文言に、女将は長い沈黙ののち、疲れた目で頷いた。

「……火はついたね。うちの敷物にも、町の仕組みにも」

 エリシアは見習いの肩を抱きながら言った。

「わたし、辞めます。名は、エリシアに戻します」

 女将は帳場から封緘の袋を取り出した。

「預かってた分だよ。あんたの名のまま置いておいた。 いつでも渡せるようにね」

 ブランシュはしばらく黙り、視線を落とした。

「蝋燭で、あんたの夜を数えてた。 ほんとは、一本も灯したくなかったよ」

 女将は短くため息をつき、エリシアの手を握った。

「行きな。道に迷ったら、北を探しな。前に進むなら、 それでいい――あんたの母さんが、よくそう言ってた」

 エリシアは目を丸くし、それから強く頷いた。

 その夜、彼女は娼館を出た。

 夜風が頬に触れ、音のない鐘の余韻が確かにあった。


 翌日、町には告示が出た。

 娼館に課せられていた過重な保護税が当面停止、独占的営業権の廃止、路地の巡回強化――。

 賛否は渦を巻き、酒場では怒号と称賛が交互に響いた。

 露台の陰で塩商会の男が舌打ちし、衛士の背を数えた。

 それでも昼の鐘はいつも通り鳴り、夕の鐘は少し長く鳴った。

 エリシアは宿の小部屋を借り、昼は市場の帳場で字と計算を覚え、夜は灯下で簡単な読み書きを子どもに教えた。

「わたし、選ぶよ。自分の名で」

 窓の外から、遠い鐘の余韻が届く。

 胸の奥の薄い紙は、もう折り畳めなくなっていた。

 通りの角では、元の娼館が洗濯と仕立ての店『北の間』として看板を上げた。

 ブランシュは蝋燭ではなく昼の灯を数え、帳場の机で子どもに字を教えていた。


 数日後、エリシアは昼休憩に鐘楼へ向かった。

 途中、果物屋の女主人が杏をひとつ手渡し、「新しい領主によろしく」と笑う。

 高台には誰もいない。

 風だけがいる。

 柵に近づき、港を見渡す。

 昔と同じ席。

 足元の石面には、北向きの小さな矢印の刻印が残っていた――十年前の約束の痕。

 エリシアはその矢印を指先でそっとなぞった。

 冷たさが、胸の奥の針をわずかに動かした。

 ゆっくりと足音が上ってくる。

「早いね」

 振り向けば、セドが立っていた。

 頬に疲れの影。

「午前は揉めた。午後も揉めるだろう」

「じゃあ、いまは呼吸だけしていきなよ」

 二人は柵に寄り並び、杏を分け合った。

 甘酸っぱい汁が指に光る。

「セド」

「うん」

「ありがとう。来てくれて。生きて、戻ってきてくれて」

「ありがとう。待っていてくれて。待つのをやめたあとも、生きていてくれて」


 鐘は、鳴らなかった。

 鳴らない時間のほうがありがたかった。

 呼吸と鼓動の音が、鐘楼の空洞に静かに満ちる。

 やがて、遠くから子どもの笑い声。

 風が帆を叩く音。

 セドは言った。

「君の新しい仕事、支援できることがあれば言ってくれ。店主が君の名を侮辱しないよう、契約にも条項を入れさせる」

「わたしは、わたしの足で決める。あなたの隣に立つのも、わたしが決める」

「それでいい。……いや、それがいい」

 エリシアは小さく笑い、杏の種を指先で転がした。

「ねえ、鳴らす?」

「今日は、鳴らさないでおこう」

「どうして」

「鳴らなくても、鳴っているから」

 照れくさい言葉に、彼女は笑って肩をぶつけた。


 秋が来て、冬が来て、春が来た。

 改革は遅々としながら進み、反発は続き、支持も増えた。

 エリシアは夜の仕事を完全に手放し、昼は帳場、夕は孤児院の読み書きの手伝いを始めた。

 セドは会議と視察の間に鐘楼へ寄った。

 寄れない日は、鐘の音だけで彼女の居場所を確かめた。

 二人の間に交わされた言葉のなかで、約束は少しずつ沈んでいった。

 約束はもう、不在の代名詞ではなかったからだ。


 そしてある夕暮れ、祭の前夜。

 町は灯で満ち、露台には色布が揺れ、人々の顔に笑いの皺が増えた。

 鐘楼の下で子どもたちがかくれんぼをし、衛士がそれを見て頬を緩める。

 高台には二人。

 槌は手すりに立て掛けられている。

「セド。あなたの言葉、信じるのに時間がかかったよ」

「ぼくの言葉が下手だから」

「ううん。わたしの時間が必要だったの」

 エリシアは槌に手を伸ばし、すぐ離した。

「迷う日はあっていい。星が雲に隠れる夜もある。けれど、方角は消えない ……でも今日は、鳴らしたい」

「理由は?」

「わたしたちじゃない誰かのために。今日この町にいる誰かが、明日を怖がらないように」

 セドは頷き、槌を渡した。

「――合図を」

「三度、息を合わせよう。針が北に戻るみたいに」


「一つ」

 風が布を揺らす。

「二つ」

 港の方で歓声が上がる。

「三つ」

 ――打つ。

 音は、広がり、重なり、遠くへ行く。

 鐘楼の下で遊んでいた子どもが見上げ、露台の女が涙を拭い、酒場の男が黙った。

 音はそれぞれの胸の奥で、迷子になった針をそっと北へ戻した。

 エリシアは足元の矢印に目を落とし、その上に今日の音が薄い透明の層を重ねるのを感じた。


 セドがそっと囁く。

「エリシア」

「なに」

「愛している」

 彼女は目を閉じ、言葉を受け取り、胸の奥にしまった。

 折り畳まず、表紙もつけず、ただ開いたまま。

「――わたしも、あなたを」


 港の空に、鳥の群れが弧を描く。

 鐘は止まらない。

 町はその音で自分の輪郭を確かめる。

 高い場所と低い場所の違いを、いっときだけ忘れる。

 それでも、確かに世界は変わっていく。

 変えると決めた誰かがいて、支えると決めた誰かがいるから。


 いつかまた嵐が来るだろう。

 争いも来るだろう。

 けれど、二人は知っている。

 雲で星が隠れても、北は消えないことを。

 鐘の音があれば、針は帰る場所を思い出すことを。

 そして、何より――この町に生きる者が耳を澄ませば、そこに必ず帰ってこられる音があることを。


 モンス・トレイルの鐘は鳴りやまない。





 ***

 読了ありがとうございます。

『モンストレイルの鐘は鳴りやまない』番外をnoteで公開中。

 セド視点とブランシェ視点、X固定からどうぞ。

 ***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】モンス・トレイルの鐘は鳴りやまない 黒瀬環 @tokinotabito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ