奏と笑顔と太陽と

『またゲーム? 負けてしまえ!』

「ん? 違うよ、なんか病院で死人が出たって」

『事件?』

「んーー、こないだ空港で倒れた外国の人らしいけど」

『それが騒がれてんの?』

「うん…その人が人殺したとかぁ、なんかそんな話」

『まじかっ!』

「まじみたい」

関空かんくうじゃないよね?』

「うん東京だったよ、確か」

『最近、物騒だよねぇ。脱獄とかもあったよね』

「あぁ、あった。それこっちだよね」

『捕まったっけ?』

「うん、かなり逃げ回ってたけど捕まったはず」

『で、この人は?』

「いや、わかんない。で見てる」

『とりゃ!』

「あ、おいコラッ!」

『フハハハハハ。携帯は私のものだぁ』

「そんなキャラでしたっけ?」

『返して欲しい?』

「うん、まぁ」

『じゃ、今週の日曜日!』

「なんだよ」

『競馬場、行こ!』

「ん?」

『前、一回一緒に行こって言ってた』

「あぁ言ってた」

 競馬場。好きで毎週末通ってる訳でも、たまに通ってる訳でもない。ましてや、馬券にのめり込んでいるなんてことも一切ない。

 小学生の頃から高校まで乗馬をしていて、そのままインストラクターの道を歩んでいた経験から、馬が好きだった。

 競走馬が好き。競馬というスポーツも好き。学生時代は、競馬場で着ぐるみのアルバイトをしていた時期もある。

 そんな経緯から、携帯で競馬のレース動画を見たりするのだが、以外にも、画面を覗き込んでくるほど興味を持ってくれた奏。

 そこで、デートスポットとして提案していたのを、しっかりと覚えていたようだ。

 あの迫力は、目の前で体感する価値があるし、それ以外にも楽しいスポットがある競馬場。アミューズメント施設みたいなものだと、個人的には感じている。

『お弁当、作るから』

「実家に帰るっつってなかった?」

『気が変わりました!』

「んん、まぁそれなら言いけど…」

『じゃ決まりね』

「携帯」

『ひとさん、これ気付いてない!』

 そう言って指差したテーブルの上には、プリンが二つ用意されていた。

「おぉ、セブンのプリン!」

『崇め奉れ! しからば返してやろう』

 なんだかテンション高めで、満面の笑みを浮かべている奏。凄い楽しそうだ。

 正直、本気を出せば取り返せるんだけど、なんとかギリギリのラインで、取れないでいてあげるか・・・

『にゃーーー!』

「かえせー!」

『連れてけ! 崇めろ!』

 うん、嬉しそうだ。でもやっぱ本気出そっと。

 ちょっと本気で距離を詰めると、慌てる奏。すかさず腰へ手を回して、そこからクルンと優しく一回転。足を掛けて、ゆっくりベッドに押し倒す。

『うおぉぉぉぉ!』

 いっちょ上がりっすよ。へへへん。

 さて、どうしてくれようか・・・こちょこちょの刑だな。

 奏は、脇腹にめっぽう弱いのである。

『アッハハハハハ、アッハハハハハ』

 形勢は逆転した。今夜も奏の笑い声が響き渡る賑やかな我が家。

「おにぎりだけなのか?」

『ぶ、不器用ですからッハハハハ』

「ダメだ、玉子焼きとかも入れろ」

『うわッハハ、わ、わかったからッハハハハ』

「コーヒーは? 入れる?」

『・・・いいの?』

「いいよ」

 今夜も「バルス!」って聞こえてきそう。笑。

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