第32話:今が別れめ、いざさらば02


 実は四季には一子が見えている。


 生前ではなく死後の現在進行形にて。特別なことではない……とは誤謬だが、黒冬四季には当然のことだった。


 ゴーストが居る必然、世界にはオカルトが満ちている。一子はその一片だ。特別珍しくもなく、知る人間はよく知ってもいる。四季……黒冬家はそれを生業としていた。


 曰く、


『退魔の家系』


 胡散臭いが他に表現のしようもない。鬼や変化を討つオカルトに対するアンチテーゼ。四季はその血統だった。必然ゴーストである一子の姿は見えている。成仏させる方法も持っている。ただソレが正しいことなのか。そこで躊躇が発生していた。


「俺の立場は散々だな」


 登校してきた零那は四季に愚痴った。


「何がでしょう?」


「いやさ」


 零那は嘆息するより他に無い。


「ワンコが死んで、ビッチが刺され、ビブリオが意識不明ときた。色んな意味で祟られてるんじゃないか?」


 論理的帰結だ。気疲れもしようというもの。


「原因は分かりますか?」


「ワンコじゃね?」


「えー……」


 不満そうな一子だった。


「今でも想ってますか?」


「ああ」


「死んだ実感も?」


「湧かないな」


「ですよね」


「四季ちゃんはどうなんだろ?」


 一子が尋ねるがあえて四季は無視した。


「お前はよく無事だな」


 零那は四季に皮肉を投げかけた。四天王悉くの不幸。一人残った四季が安全とは零那も言えないし思えない。


「鬼に対する処方はしておりますので」


 それが四季の言葉だった。


「委員長はゴーストの存在を信じるのか?」


「さてどうでしょう?」


 クスッと笑われた。


「鬼ね。言われてみれば一子は妖怪みたいものか」


 あまりの非礼に、


「なんでだよ~!」


 一子が首を掴んでガックンガックン。揺さぶられる零那の頭部。


「補足しておきますと鬼と妖怪は違いますよ」


「そなのか?」


「ええ」


 四季は尋ねる零那に頷いた。


「鬼は古くはおぬと呼び、死者を指す言葉でした」


「おぬ……」


「ほら、やんごとなき御方が崩御為されると『お隠れになる』と表現されるでしょう」


「だぁなぁ」


「要するに」


 一呼吸。


「人が神秘性を持つと鬼と呼び、その他が神秘性を持てば変化と呼ばれます。前者は幽霊や憎しみから人を襲う丑寅の鬼であったりしますし、後者は付喪神に代表される物品が妖怪化した変化と見られますね」


「詳しいんだな」


「ワン」


「色々ありまして」


「で、ワンコは妖怪ではなく鬼と?」


「人が為った神秘はそう呼ばれますね」


「じゃあ豆でもぶつければ良いのか?」


「どうでしょう?」


 クスリと笑う四季だった。


「結局お前はどうなんだ?」


 これは一子への問い。


「そう言われても」


「だよな」


 そも一子は自身がゴーストだと言う意識も無い。自覚はあるが、それは世界との対照性による摺り合わせだ。

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