097話 勇者リア・リンデンドルフ⑦
向かう先は、サイフォリアの街。
<
「く、来るぞっ!!」
槍を構えていた衛兵の1人が、一歩たじろいだ。
胸のうちに抑え込んでいた恐怖が、ほんの
けれども、現れてしまった恐怖は、
「む、無理だ……、こんなの止められるわけがねえ……!」
衛兵たちの心理状態を表すように、一斉に並べられた
だが、それを
この世界、この時代、この土地において。
衛兵とは冒険者になる才能が無かった者たちが就く職業だ。
戦いに向いた”天啓”を持たぬからこそ、彼らは同じ槍を並べる。
衛兵が冒険者と違うのは、彼らはこの街で生まれ育った者であることだ。
破壊の
魔物の足音が大きくなるにつれ、衛兵たちの恐怖も大きくなる。
腰が引けて、もはやしっかりと槍を構えることすら出来ない。
それでも彼らがこの場に踏みとどまるのは、自分たちの守りたいものが、背後にいると分かっているからだ。
「逃げなかったか。なんだよ、かっこいいじゃねえか」
そう呟いたのは、勇者パーティーの1人、<大盾のアーダイン>。
衛兵たちよりも
<
「みんな、いつも通りでいくよ。パーシェンの代わりは、勇者様の魔術で補うから」
最後尾に陣取る聖女プリセアが、<風精霊の花言葉>を使ってパーティーの面々に呼びかける。
勇者パーティーのリーダーは勇者だが、聖女が司令塔の役割を担っている。
歴代の聖女の中では、という前置きはつくが、プリセアの神聖魔術はそれほど強くはない。
神聖魔術が秀でていないという欠点を、プリセアは自動治癒の<
「<
勇者リアが魔術で炎の壁を作り出す。
賢者ほどではないが、勇者というジョブは魔術の才能にも秀でている。
半端な魔物は、その炎の壁に触れるだけで焼け死んだ。
だが、津波のように迫る魔物の群れは、魔物の
「<
炎の壁を突破した魔物たちを、無数の火の玉が次々に襲う。
その光景はもはや、魔物たちが焼死のために突進する
ここまでの芸当だけでも、並のパーティーなら
けれども、リアが歴代最強の勇者と言われる
本来は白兵系の最強職である勇者には、魔力の総量が術師系のジョブより少ないという欠点がある。
リアには、その欠点が無いのだ。
「勇者様、ちょっと倒しきれなくなってるみたい。火力を高めてもらっていい?」
聖女プリセアが、
けれどもリアは、こともなげに応えた。
「分かった。<
魔物へと飛んでいく火の玉の数が一気に5倍になった。
「うん、いい感じにウェルダンだよ! しばらくはそれでお願い」
はたして、5個同時に魔術を行使できる魔術師が国内にどれだけいるだろうか。
魔術の同時発動は、1つ増やすごとに消費する魔力量が倍になると言われている。
5つ同時なら16倍。
通常の16倍の消費魔力で中級魔術を連発し続ける。
それが可能な魔術師となると、世界を探しても見つかるか分からない。
けれども、リアならそれができる。
精霊剣カレイド・ボルグを用いて、魔力が残っている自分を連れてくる。
自身の分身を並行世界から連れてこれるリアなら、魔力消費を無視して、いくらでも魔術を連発できるのだ。
事実上、無尽蔵の魔力を持つ勇者リア。
それこそが、リアが歴代最強と言われている理由だ。
「おい、見ろよ……」
「すげぇ……。魔物たちが片っ端から火だるまになっていく……」
「あれが勇者パーティーか……! すげぇ、<災厄の魔物>を倒しただけあるな!」
「いける、いけるぞ! この街は助かるんだ! 勇者様バンザイ!」
恐怖にかられていた衛兵たちが、一斉に活気づく。
とはいえ、本当はリアは<災厄の魔物>に負けている。
精霊剣カレイド・ボルグの能力が使えるかは、本人の精神状態によって左右されるからだ。
平行世界の自分を呼び出す代償に、その並行世界を滅ぼすカレイド・ボルグという魔剣は、使うたびに使用者の精神を
使い手のリアが戦う意志をなくした時、カレイド・ボルグはリアに応えない。
だからこそ、兄のカイが死んだと知って自分の戦う理由を無くしたリアは、<災厄の魔物>にアッサリと敗北したのだ。
当時、よそ者の勇者パーティーに助けを求める者がいなかったのも、勇者パーティーが<災厄の魔物>に負けた理由の一つである。
助けを求める声を直接聞かなければ、リアは勇者モードにならない。
受付嬢のサイリスは勇者パーティーと対面したとき、自分の不正を隠すため、リアに助けを求めなかったのだ。
けれども、今は違う。
人々の助けを求める声に応えようとするリアの勇者モードは、何があろうと目的を達成するまでは解除されない。
どれだけ精霊剣カレイド・ボルグを使おうが、リアは戦う意志を失わない。
人間がリアに、助けを求める感情を向けている限り。
リアは無尽蔵の魔力を生み出し続ける。
ゆえに、その人智を超えた力を、人々は歴代最強と称した。
その特徴が、魔族と呼ばれる者たちに酷似していると気づいた者はいない。
そしてきっと、これからも現れることはないだろう。
勇者と魔族、その両方と仲良く出来る存在など、いるはずがないのだから。
ともかく、<
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