090話 爆弾魔の大砲


 リアは戦闘不能になったが、そのかわりモーゼス議長の能力の詳細が分かった。


「モーゼス、お前は周囲5メートル以内のものしか、爆弾に変えられない。タネさえ分かれば、簡単に対処できそうだな」


 いま、モーゼス議長はラミリィの矢を迎撃するために<爆弾魔ボマー>の能力を使った。

 だから、俺たちの周囲に爆弾のトラップは無い。


 だが、自分の能力をひけらかしたモーゼス議長には、まだ余裕があった。


「ふむ、先ほど君は私が追い詰められたから能力を開示したと言ったな? それは違うよ。これは、君への敬意だ。我が能力を見破った褒美として、教えてあげたのだ。せっかくクイズを解いたのに、答え合わせもなしに殺されてるのは理不尽だろう?」


 モーゼス議長は言いながら、瓦礫がれきを拾った。

 そしてそれを俺たちに向かって投げつける。


「ラミリィ! 撃ち落せっ!」


「は、はいっ!」


 ラミリィは素早く矢を放つ。

 だがラミリィの弓の腕で、向かってくる瓦礫がれきを的確に撃ち落とすことはできなかった。

 矢の嵐が瓦礫がれきを弾くよりも、瓦礫がれきが爆発するほうが先だった。


「時限爆弾かっ!!」


 俺はとっさにラミリィをかばう。

 <魔法闘気>があるので、俺は多少の爆風ならばノーダメージだ。


「カイさんっ! ごめんなさい、あたしっ!」


「謝る必要はないし、謝るにしても後だ。こいつ、想像以上に強い!」


 実際に対峙するまで、俺はモーゼスをただの政治家だと思っていた。

 だがこいつ、戦い慣れている。

 自分の能力の長所と短所を理解したうえで、戦闘を優位に運ぶセンスがある。


 そのモーゼスもまた、俺を見て驚いていた。


「君のそれは、<魔法闘気>か。なるほど、どうりで攻撃が通じてないわけだ。まさかこの街に私の他にも魔族崇拝者がいるとはな」


「俺は別に魔族を崇拝してるわけじゃないぞ」


「君の話に興味はあるが、ここで死んでもらう。仲間をかばって、どこまで耐えられるかな?」


 モーゼス議長は瓦礫がれきを大量に抱え込んでいた。

 そして、そのうち1つを無造作に空中に放り投げる。


「投げた瓦礫がれきを俺が打ち返せないとでも思ったか?」


「面白い、やってみたまえ。<爆弾魔の大砲ボマー・カノン>」


 モーゼスがそういうと、瓦礫がれきがモーゼスの近くで爆発した。

 爆風を受けた瓦礫がれきは、勢いよく俺に向かって射出される。


 それはまるで、大砲だった。

 勢いよく飛来する瓦礫がれきは、俺の顔をかすめて一瞬で背後へと飛んでいく。

 そして背後で大きな爆発が起きた。


「いまのは……大砲の火薬みたいに、瓦礫がれきを爆風で一気に射出したのか……!」


 瓦礫がれきをすぐに爆発する時限爆弾に変えて爆風を起こす。

 そして勢いよく射出された瓦礫がれきをすぐさま接触起爆型の爆弾に変える。


 瞬時に<爆弾魔ボマー>の能力を2回発動した複合技のようだ。


「ふむ、外れてしまったな。この技は命中率が低いのが欠点だ。だが、そこのお嬢さんのおかげで、面白い着想を得た。当たるまで続ければよいのか。単純だが合理的な解決法だな」


 モーゼスはそう言って瓦礫がれきを一斉に投げた。

 ゾクリと、嫌な予感がした。


 モーゼスの<爆弾魔の大砲ボマー・カノン>は、爆風で射出するぶん、狙いは正確ではないようだ。

 だが、モーゼスはその欠点を補うすべを、ラミリィの<早打ち連射・一斉攻撃>から学んでいる!


 モーゼスが投げた瓦礫がれきは順番に射出され、次々に俺たちを襲う。


「ぐわああぁぁっ!!」


 そのうちの何発かが直撃し、俺達は大きく吹っ飛ばされた。


 だが逆に考えれば、これはチャンスだ。

 今は爆発で起きた砂塵が舞っていて、モーゼスは俺たちの居場所が分からなくなっている。


「ここだっ!」


 その隙を突いて、一気に距離を縮める。

 砂塵を抜けた先に、モーゼスの姿があった。

 捉えた!


「そう来ると思っていたよ。だが、無意味だ」


 だが。

 俺の拳が届く前に、俺の体は爆風で吹っ飛ばされた。


「く、くそっ! もう少しだったのにっ!」


「もう少し? それは違うな。私の射程は5メートル。それより内側に近づいたものは、全て爆発する。この範囲には、何者も入れないのだ! 私の<爆弾魔ボマー>は最強のほこにして無敵の盾なのだよ!」


 近づけば爆風で吹き飛ばされ、矢は爆発で撃ち落とされる。

 まいったな、こいつ本当に強いぞ。


「俺も能力の開示をしよう。俺の”天啓”は<装備変更>。持ち物を瞬時に変える能力だ。射程は調べてないが、たぶん20メートルほど。他人にも使えるが、補助スキルの系統だから、その気になれば抵抗が可能だ」


「ほう、これは面白い。典型的なハズレスキルじゃないか。そんな能力を開示して、どうするつもりだ?」


 俺はモーゼスの質問には答えず、わざとらしくリアの様子をうかがった。

 リアはまだ気絶している。

 爆発した精霊剣カレイド・ボルグはリアから離れた場所に落ちていたが、壊れてはないようだ。


「自分の作戦を敵に教えるバカがいると思うか?」


「私の目の前にいるようだがね。読めたぞ、勇者の精霊剣カレイド・ボルグによる同時攻撃なら私を倒せると考えたのだな。そして、次は私の能力で勇者が聖剣を落としても大丈夫なように、<装備変更>で支援をするつもりか」


「さて、どうだかな」


 よし、まんまと乗ってくれた。

 これでモーゼスは、勇者が目覚めるよりも前に俺を倒そうとするだろう。


 だが、俺の目論見は少しだけ外れた。


「カイ君だったかな。嘆かわしいとは思わないのか? <魔法闘気>まで身につけたというのに、結局は勇者という選ばれた存在に任せるしかないことを」


「……どういうことだ?」


「君は、女神モルガナリアとやらを信じるかね? 我々に”天啓”を授けた、全知全能の神を名乗る女が、本当に我々を救う気があると思うか?」


「魔族崇拝の勧誘でもするつもりか?」


 俺の答えに、モーゼスは愉快そうに笑った。


「話に食いついたね。勇者の傷が癒えるまでの時間稼ぎをする算段かな? その策略にのってあげよう。なぜなら君は、これから私の話をもっと聞きたいと思うようになるからだ」


「神聖教団に全ての罪を打ち明ける気になったっていうなら、話を聞いてやるぜ」


「まあ待ちたまえ。そもそも私は魔族を崇拝しているわけではない。君も気づいているんだろ? 魔族は特定の感情を求めるがゆえに、うまく利用できると。君は<魔法闘気>を使える割に、使徒特有の情動が無いようだからね」


 言われてみれば確かに、事前の情報ではモーゼスは魔王の使徒という話だった。

 だがこいつからは、魔王やその使徒にあるような、絶望の感情を集めようという様子がない。


「…………」


「沈黙は答えだよ。私達は似た者同士だ、分かりあえる。君も自分の”天啓”に絶望したクチだろう? 私もそうさ。私の”天啓”が<爆弾魔ボマー>だと分かった瞬間、誰もが私を見る目を変えた。まだ何もしていないのに、実の親にさえ犯罪者扱いされたよ」


 そして、モーゼスは旧知の友に語りかけるように、俺に言った。


「私と手を組まないか? 魔族さえも利用して、我々を見下していたやつらに復讐してやるんだ」

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