063話 さまよう少女の帰る場所


 勇者パーティーとの共闘が決まった後、俺たちはひとまず解散となった。

 リアたちのほうは、今後について色々と話し合わないといけないらしい。


 そうして大賢者の転移魔術でサイフォリアの街に戻ってきた俺達は、ようやく一息ついた。


「それにしても、今日は驚いたな。まさか妹のリアが勇者になってたとは」


「あたしはカイさんと出会ってからは、毎日が驚きの連続ですけどね。えへへ……」


 ラミリィが気恥ずかしそうに言った。


「大変なら、依頼クエストを受ける頻度を減らそうか?」


「ご、ごめんなさいっ! そういう意味で言ったわけじゃないんです! むしろ、ロリーナさんのためにも早く成り上がって、じゃんじゃんダンジョンを攻略してやるぞーって気持ちでいっぱいです! 活力絶好調ですよ!」


「それならよかった。最近、ちょっと元気がなさそうだったからさ」


「それはその……カイさんが気軽に他の女の人と……いえ、なんでもありません!」


 そんな俺達のやり取りを見て、ロリーナが呆れていた。


「妾が言うべきことではないのじゃが、カイはもう少し甲斐性かいしょうというものを出したほうがよいかもしれんのう」


「ななな何を言ってるんですか、ロリーナさん! カイさんはパーティーのリーダーとして、本当によく働いてくれてるじゃないですか! そんな、これ以上何を求めるっていうんですか!」


 慌てふためくラミリィの話を聞いて、ふと気づいた。


「あれ、パーティーのリーダーって俺なの?」


「「「えっ」」」


 仲間たち一同に、困惑の眼差しを向けられてしまった。


「いやまあ、やれと言うのならやるけどさ」


「カイ、おぬし変なところで抜けてるやつじゃのう。そういうことなら、改めてお願いしようかの。カイ、このパーティーのリーダーを務めてくれんか?」


「あたしからもお願いします!」


「魔物がリーダーってわけにはいかねえからな。カイ、よろしく頼むぜ」


「うん、分かったよ」


 そうして、俺はパーティーのリーダーになった。

 弓使いのラミリィに、死に戻りのロリーナ、そして<死の銀鼠デス・オコジョ>のディーピー。

 風変わりなパーティーだけど、皆いいやつらだ。


「そうじゃ、リーダーにさっそくお願いがあるのじゃけれど、よいかのう」


 ロリーナが気恥ずかしそうにお願いをしてきた。

 照れているロリーナとは珍しい。


「何かな」


「その……前はあんなことを言ったが。妾も、おぬしらの宿に一緒に泊めさせてもらいたいのじゃが……」


「ああ、そんなことか。もちろん構わないよ」


「えへへ、これからはロリーナさんとも一緒に暮らせるんですね!」


「一緒に暮らす……か……。その、もうひとつ、皆にお願いがあるのじゃが……」


 ロリーナはそこまで言って、黙ってしまった。


「もー、なんですかロリーナさん! 恥ずかしがらないで、言ってくださいよー! 言うのはタダですよー!」


「う、うむ……前にも言ったように、妾には昔の記憶が無くてのう。故郷がどこだったかも分からぬ。帰る家なんて、どこにも無かったのじゃ。その……だから……なんというか……」


「どうしたんだ、らしくないな。遠慮せずに言ってくれよ」


「ああ、もうっ! ずっと寂しかったんじゃ! だから、おぬしらの居るところを、妾の帰る場所と思ってもよいか?!」


 俺とラミリィは、2人して目をぱちくり。

 まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったのだ。


「当たり前だろ。俺たちは仲間なんだから!」


「えへへ、そう言ってもらえるなんて、嬉しいです! ずっと一緒ですよ、ロリーナさん!」


 ラミリィはロリーナを力強く抱きしめる。

 ロリーナは照れくさそうにしていたが、まんざらではなさそうだった。


 そうして俺たちは、帰路についた。

 この道の先には、俺たちの帰る場所が待っている。



「あ、そうだ。ロリーナが加わったから、これで俺たちもパーティーに名前をつけられるようになったんだ」


「そういえば、そういう話でしたね! 色々ありすぎて、すっかり忘れてました!」


 人類が3人以上いないとパーティーに名前をつけられないのを理由に、前にギルドで断られたんだ。


「んー、でも、どんな名前がいいんでしょうね。そうだ、ここはカイさんがリーダー権限で決めちゃってくださいよ!」


「よし、そうだな。リアたち勇者パーティーが大根だったから、それにならって<にんじん丸>ってのはどうだ!」


「素敵な名前ですね! 候補のひとつに入れておくとして、皆で考えましょうか!」


 柔らかな態度で却下されてしまった。

 他の皆も頭をひねり始めたあたり、俺の案は通らないだろう。


「そうじゃ、妙案が浮かんだぞ」


 ロリーナが何かを思いついたようだった。


「カイ、おぬしの<魔法闘気>はのう。妾からは揺らめく紫色の炎に見えるのじゃ。そして<魔法闘気>を乗せて放たれたラミリィの矢の雨は、まるで紫色に輝く流星群のようじゃった。名は体を表すと言うからのう。そこから名前をつけさせてもらおうぞ」


 圧倒的な破壊力を持つ<早打ち連射・一斉攻撃>は、俺とラミリィの協力技とも言える。

 それを元にロリーナが名付けるというのなら、文句の言いようがない。


「<煌く紫炎の流星群ヴァイオレット・シューティングスター>! それが、妾たちのパーティーの名前というのはどうじゃ!?」


「おお、なんかかっこいいです! にんじんよりもいいですね!」


「俺は構わないんだけど、あとはディーピーが納得するかどうか」


 俺がディーピーをチラリと見ると、興味なさそうに話を聞いていたディーピーが答えた。


「好きにしな……って言いたいところだが、悪くねえな。お前らは知らないだろうが、マーナリアは魔族の中でも七色大公・紫色爵コンスル・ウィオラーケウムという爵位を持つ者でな。あー、覚えなくていいが、ともかく紫色にゆかりがある人物なんだ」


「つまり、名前に紫が入ってるから気に入ったと」


「ま、そういうこった」


「じゃあ決まりだな。今度冒険者ギルドに行った時に登録しよう。俺たちの名前は、<煌く紫炎の流星群ヴァイオレット・シューティングスター>だ!」


 こうして俺たちの元に、新たな仲間のロリーナが加わった。


 まだ無名の俺たちだが、<煌く紫炎の流星群ヴァイオレット・シューティングスター>は、やがてこの世界に名を馳せるパーティーにまで成り上がっていくことになる。



 さまよう少女のあてのない旅は終わった。

 これから始まるのは、呪いに虐げられた少女が、奪われた全てを取り戻す物語だ。


 きっとこれからは、ロリーナが憂鬱メランコリーに悩まされることもないぐらい、せわしない日々が待ち受けているだろう。



/ 3章 さまよう少女のロリーナ・メランコリック・完

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