11

「ここから王都が一望できるんだ」

ロゼとヴァイスは馬車で王都から少し離れた丘の上に来ていた。

緑に覆われた見晴らしの良いその場所の、川向こうに王都が広がっている。

「素敵な景色ですね……」

都の中心にそびえている二つの塔は王宮だろうか。白い壁の並ぶ王都の向こうには山々が聳えているのが見える。


「あの山の麓がノワール家の領地だったな」

ヴァイスが指差した。

「……そうですね」

領地に行ったのは五歳の時きりで記憶もおぼろだったが、確かにあの事故の起きた湖は山のすぐ側だった。

「ロゼは領地の街に出かけたことはある?」

「いいえ……」

「そうか」

ふいにヴァイスはロゼの顔を覗き込んだ。

「その割には街歩きに慣れているようだったが」

「え……」

「今日行ったのは、普通の貴族は行かないような、平民が行く場所ばかりだ。だけどロゼは平民の中に入っても平気そうだったな」

穏やかな笑みを浮かべてヴァイスはロゼを見つめた。

「平民の食事も美味しそうに食べてたし、雑多な通りを歩いても楽しそうだった」

「……ええと……」

「ロゼは他の貴族令嬢みたいに澄ましていないし、街に溶け込んでいるが平民には見えない。不思議だな」

ヴァイスに疑う様子はなく、だだそう思っているようだったが――ロゼは胸の苦しさを覚えて顔を伏せた。


「ロゼ?」

「あの……ヴァイス様。私……嘘なんです」

「嘘?」

「ずっと領地で伏せっていたというのは……違うんです」

「……どういう事だ」

伏せたロゼの頬に手を添えると、ヴァイスはその顔を上げさせた。

「私は……十三年間、別の世界で生きていたんです」


ロゼはヴァイスに自分の身に起きた事を語った。

五歳の時に魔力の暴発で別の世界に飛ばされてしまった事。

向こうの世界では貴族ではなく、平民として暮らしていた事。

そして二ヶ月ほど前に突然この世界に戻ってきた事。

それからランドに言われた自身の魔力の事。……もしかしたら、また別の世界へ飛ばされてしまう可能性がある事も。


「――そんな事があったとは……」

口を挟む事なくロゼの言葉を聞いていたヴァイスは、話し終えたロゼの身体を抱き寄せた。

「君がこの世界に帰ってこれて良かった」

「……ヴァイス様……」

「ロゼと出会えなければ……自分にこんな心がある事を知らなかった」

ロゼの頬を撫でるとヴァイスは撫でた部分にキスを落とし――びくりと震えたロゼの身体を抱きしめた。


「ロゼ。俺の妻になってほしい」

ヴァイスの腕の中でロゼは目を見開いた。

「初めて会った時から惹かれていた。君だけなんだ、触れたいと思うのも……愛しいと思えるのも」

「ヴァイス様……」

「ずっと俺の傍にいてほしいんだ」


ロゼは顔を上げた。

紫水晶のような瞳が――愛おしそうにロゼを見つめていた。

「……私……も……」

瞳に引き込まれそうになりながらロゼは口を開いた。

「ヴァイス様と……ずっと、一緒に……いたいです」


ヴァイスは嬉しそうに目を細めるとロゼの身体を離した。

そして、ロゼの前に跪いた。

「ロゼ」

左手を取ると、その薬指にはめられている指輪の紫水晶に口づけた。


「俺の全てをかけて君を守る。君がどこへも行かないようこの世界に繫ぎ止める楔となろう」

指輪と同じ色の瞳がロゼを見上げた。

「ロゼ。俺と結婚してほしい」


「――はい……」

頷いたロゼの瞳が潤んだ。

「ヴァイス様……」

「ロゼ。愛している」

目の前の胸へと飛び込んできたロゼをヴァイスは強く抱きしめた。

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