『天才』と凡人と

「あのかたは、どうして我々を頼って下さらないのでしょう」

 遠ざかるその背に、小さく呟いた。

「っは。そりゃ、あいつが『天才』だからだよ」

「あのかたが、天才なのは知ってますけど……。それでも、一人ですべて請け負うなんて、無茶だと思います」

 私が敬愛するあのかたを天才の一言で片付けた挙句、どこか嘲笑うようなその響きに、思わず語気を強めてしまう。

「だと思うなら、手伝いでもなんでも、自分から進言すればいいんじゃないのか」

「それは……大丈夫、だとしか、言っていただけないもので」

「ふーん。……お前さ。『天才は、凡人が殺す』って、知ってるか」

 興味がなさそうに息を吐き、一つ呼吸を置いて彼が切り出した。

「なんですか、いきなり」

「……。だから、あいつは殺されたのさ。『凡人』に」

「それは、どういう意味で」

「その先は、自分で考えろ。『凡人』」

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