貴女よ、さようなら

「記憶ってすぐ消えるよね、もう小学校で何をしてたかなんて忘れちゃった」

雪の日の教室で貴女は言う

「そのうち中学のことも忘れて、大学にでも行ったら今のことだって忘れるんだ」

外ではチラチラと雪が降り始め、天気予報の通り、降り積もるかもしれない

「……」

「傘持ってきた?」

黙りこくった貴女に私は問いかける

「持ってきた」

「なら、帰ろうよ」

この言葉に貴女は私に一瞥をくれてから窓の外を見た

「どうせ、今日のことも忘れちゃうんだろうな」

「やなの? 忘れるの」

「ううん、どうでもいいから忘れるとか、酷い人みたいだから」

「そんなことないんじゃない。なんかの本で頭の中の記憶には容量があるって、

 増えたら、いらない記憶は消えるって言ってたよ」

「今、この時も忘れていいの」

「ん、だって〇〇ちゃんと一緒にいた、て覚えておけばいいと思うし、だったら雪の降る教室の   

 窓から喋ってたでもいいんじゃないかな、立派な思い出だと思う」

「そうか、そうなのかも。でも、〇〇ちゃん、忘れたらごめん」

貴女は寂しそうだった。そんなに忘れてしまうのかな

酷い人なのかな。そうは思わない。貴女は、とてもいい人だと思う

「いいよ、私が覚えてる。日記つけてるし」

「すごいね」

私は、すぐ止めちゃう。と貴女は言った

そしたら、この記憶は私だけのものになって貴女の中では消えてしまうのかな

「私が覚えているよ」

「……うん、ありがとう」


今思えば、彼女は何か記憶の障害があったのかもしれない。

あれから同窓会にも顔を出さず、行方知れずになった貴女。

ちゃんと日記には名字も名前も書いてある。

永遠に会えないのだろうか、会える日がくるのだろうか。

貴女よ、さようなら

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