第22話 興奮と後悔

 時刻は午後3時。本日の取引は終了し、大きく混乱した大納会が終わった。


 スマホの画面で動かなくなった株価を見ながら、俺は大きく息を吐いてベッドに倒れこんだ。

 凄い一日だった……。興奮はまだ冷めておらず、昨日はほとんど寝ていないのに頭が冴えわたっている。


 結局この日、サクセスバイオの株価は1080円で取引を終えた。1080円で全部売っていれば利益は18万円。けれど俺は、100株たりとも売らずに1500株をすべて持ちこした。

 買いたい人が多いから株価は上がった。ってことは、1200円までは戻るはずだ。1200円で売れたら、利益は36万円。一か月の給料を軽く超えちまう。


 勝負だ! 勝負は続行だ!!


 しかし、時間の経過とともに興奮は冷めていく。夕食をすませたころには、俺は自分の判断のヤバさに気づき始めていた。


 さすがに、1500株を全部持ちこすのはマズいだろ……。


 学生時代のバイトから今に至るまで、地道にコツコツ貯めてきたなけなしの250万円のうち150万円を証券口座に入れたけど、ちょっと多すぎると思ってたよな? だからいきなり全部は使わずに、最初は30万円くらいから始めようって計画だったろ? なのに興奮のあまり、いきなりサクセスバイオに150万円全部突っ込んじまった。


 それに今の状況を考えてみろよ。テロが起きたんだぞ? 緊急事態なんだぞ?


 もしも第二第三のテロが今夜にでも起きたら、アメリカ株はまた暴落する。サクセスバイオの株だって巻きこまれる。

 そうなったら、今の利益が消し飛んで損失になるかもしれないんだぞ?


 それに、サクセスバイオ自体がボロボロの会社なのは知ってるよな? もしも倒産して株が無価値になったら、150万円が吹っ飛ぶんだぞ?


 冷静な自分からの問いかけに俺はすっかりビビっていた。


 ああ、今すぐにでも売りたい。18万円の利益を確定したい。いっそのことプラマイゼロでもいい……。

 けれど、それは叶わぬ夢だった。東京証券取引所は、12月31日から1月3日まではお休み。どんなにサクセスバイオの株を売りたくても、1月4日までは待たなきゃならない。


 1月4日まで、どうか世界が健やかでありますように……。

 俺は神様に祈るしかなかった。無宗教だけど。

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