14話:昼食は食堂派?弁当派?

[キーン コーン カーン コーン]


 今日4度目のチャイムの音が聞こえる。

 昼食の時間。


 本来であれば、1人で飯を食って、そこから2人の友人と雑談をするが


 仮にも彼女がいる身であるので

 せっかくならばという気持ちもあり、花を教室まで誘いに行こうと思い


 席を立ちあがる。


 すると当然、後ろから目線を感じる。


 今の場合、そっちを向くと色々とまずい展開が想定できるので

 苦汁を飲み、教室の外へ向かおうとする。


 すると[ガラガラ]と教室の前の扉が開いた。


「ゆーたーくーん!

 お昼ご飯食べに行こー!」


 おい、どうした。


 そんな感じの性格でもキャラでもなかっただろ?


 どちらかといえば、それは幼馴染のポジションがすることではないのか。

 なんて、突っ込みをあくまで、心の中で入れる。


 思いのほか、普段よりイキイキしているし。

 どんどんキャラが色々ぶれている気がしなくもないが。


 ―もう遅い


 この役得に感謝をできるくらいまでいずれ成長することに

 期待しておいて、とりあえず今は従う


 というか、迎えに行きたかったので

 少し、役を奪われた感じがして、恥ずかしい...


「あ~分かった、行こう」


 毎度おなじみ、はっきりしない返事。


 後ろからの目線はより強くなるが、振り返ると、どうやらハジメがなだめている。


 あまり、香と花は仲が良くないっぽいので

 早めに行く方が良いだろう。


 ハジメがなだめている間に、花と一緒に教室を出た。


 ☆


 廊下は、当然ながらザワザワしている。


 男と歩いているというのもあるだろうし

 朝のこと登校が、噂になって広がっている様子も垣間見える。


『噂は本当だったんだ...』

『え、水田さんの横にいるの誰?』

『百合の花園に男は極刑きょっけい


 そんな声が、耳に入るわけだが

 まぁ、自分も外野から見れば同様の感情を抱くかもしれない。


 注目に関して言えば、今日の間に、既に慣れてしまったという所がある。


 本来数日掛けて慣れるところだと思うのだが

 ここまで、一日の中で色々と注目を摂取していると


 もう最早、慣れるしかない気がする。


「ねえ、食堂でいい?」


 俺より少し背が小さい花は斜め上を向くようにして、俺の顔を見て尋ねる。


 やはり食堂へ向かうのか


 まぁ正直な話、普段俺も食堂を利用するのでそれには同意できるが

 それ以外に、懸念すべき問題が思い浮かぶ。


 しかし、俺にとって、花の存在は大きい(逆らえない的な意味で)


「おっけ、りょーかい」


 半ばやり投げ気味に、そのことを了承して

 食堂へ向かい、歩き始めた。


 ☆


 ここは、今食堂である。


 生憎というか、なんというかやはり食堂は込み合っている。


 席はすべて埋まっていて、人がいっぱいになっている。

 繁盛なのは何ともいいことだが。


 この場合、その繁盛も不都合でしかない。


 しかしまぁ、この競争率は仕方ない気がする。


 所謂、4時限目ダッシュと言って

 4時限目終了のチャイムと共に、食堂へ走り出す人々がいるのもあるし


 そう思えば、これは既に想定がついていた。


 しかし、否定できない身だし

 それ以外の選択が無いこともあり


 ここに、至ることを決意したのだ。



 突如として、ざわざわ そわそわし出す生徒が増える。


 普段定期的に、食堂を利用する俺もあまり見たことが無い光景


 一体何が―


『あれって、水田さんじゃない?』

『噂で聞いたことあるわ、本当に見たことはなかったけど』

『か、可愛い...』


 そんな声が、耳に入る。


 もしかしてだが、花は食堂に来たことが無いのか?


 だがしかし、それなら色々と合致する。


 しかし、そうなると厄介は増えるわけで


 いやいやあり得んだろと思い

 そ横を向くと


 花は、困惑の表情を浮かべていた。


 思ったよりも混んでいたことや注目を受けることに困惑してるのだろうか。


「ひとまず、席を取ろう」


「そ、そうね」


 何モードか分からない彼女が、少し困惑気味で、返事をする。


 珍しいことだ...


「どこか、空いてないか?」


 見渡す限り人が詰まった食堂


 少なくとも席を取らないと、ご飯を注文できない。

 先に、席取りをしてから、注文をしないと、食べる場所が無い


 一方で、ずっと待っていれば食堂の昼食は売り切れる。


 今がラッシュ時のこの食堂の席が空く気配はない...


 すると―


「あ、あのっ!」


 声のする方には、一年生と思われる

 身長の低めの女の子がいる。


 ツインテールをしていて、顔立ちは可愛い方だと思う(?)


「わ、私の席空いたので、よ、良ければ使って下さい!」


 親切なことに、席を提供しに来てくれたらしい。


「あ「本当にいいの?いいのなら、有難く頂くけど!」」


 花のテンションは完全に上がって

 普段見ている花よりも確実に明るい。


 ものすごい勢いと元気を感じる


 こう見ていると、彼女の言動は、恐らく気持ちに左右されているのだろう

 そして、それを制御するために、所謂模範の顔高嶺の花を用いてるのだとすれば


 様々な行動に納得がいく。


 そんな器用なことをできるのかは、わからないけど


 ただ、そうなのであれば

 ある程度、今までの行動行き過ぎたにも、言い訳ができる気が...


(いや...無いな)


 流石に、あの告白は行き過ぎてるし...実際あの場で恐怖したのだから

 今のが正しい彼女とは限らないわけで...


 本性がどこに落ちているか分からない。


「はいっ!あのただ、一つお願いがあって...」


「ん?お願い?」


 どうやら、ツインテールの女の子から交換条件があるらしい


「はい!あの、よければ、よければなんですけど、水田さんと握手がしたいです!」


「キャー言っちゃったー」と言いながら、ぴょんぴょん跳ねている。

 それに合わせて、ツインテールも上下運動する。


 なんだ、アイドルの握手会か何かなのか?


 その程度に喜んでいる。


 なんて、その姿は微笑―


「はい、これでいい?」


 俺が考えていたことを、遮るように

 その女の子に、花は手を差し出した。


『ほ、本物だぁ。自慢しないきゃ』なんて興奮気味で握手をしている。


 急に悪寒が、走った。


 何か、地雷に踏みかけていたような気がする。



 昨今の事から、俺の勘はある程度あてになると証明されている

 ここで、地雷に突っ込むほどのバカではない。


 しかしまぁ、厄介なことだが


 これも、彼女なりの一種の愛情表現と思えば...


 まぁ、そうだな

 そう思うことにしよう


 そうすれば、少しは幸せになる気がする...いや、無理だ


 今のところ



 花とツインテールの女の子の握手が終わると。


 その女の子は、ありがとうございました!と元気よく言って、走り去っていた。



 何は、ともかく。


 席を確保したわけだが


 問題は、この席の位置にある。


 食堂の端にあるこの席は何せ開けている


 個室席に近い、少しプライベートな席もあるが

 それが無く、解放された席だと


 ―周りから色々な意味で注目を集めているっぽい

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