9話: 彼女と登校イベント ②

 電車に乗っているとき、俺は花との話に夢中で分からなかったが


 電車の中では確かに、ざわめきが広がっていた。

 そして、だんだん、周りに気が散ってくると、それに気づき始める


 しかし、本来であればおかしいはずだ。


 男と、話しているだけで、いやそれもあるかもしれないが

 よくよく考えたら、花はいつもこの線で学校に行ってるのだろうか?


「あの、花さん、いつもこの線で学校に行ってますか?」


 花は、少し考える

 少し、意味が分かりずらかっただろうか?


 なら、問い方を少し変える。


「いつも、この時間のに乗って学校に行ってますか?」


 すると、やっと理解した様子で答える


「いや、いつもはに乗って学校に行ってますよ?

 それが、どうかしましたか?」


 どうやらまだ、事態に気づいていないらしい


 彼女は一般的に見ても、とても可愛く

 それでいて、奇麗だ


 伊達に、高嶺の花と呼ばれているわけではない

 それには、様々な壁がある


 その壁を、乗り越えて初めて高嶺という地位に上ることになる。


 だからこそ、その存在が崇高で、手の届かない存在だと崇められることに繋がる。


 しかし、どうだろう。


 彼女はそんな高嶺の花という立場にいることに気づいているのか

 はたまた、そんな立場に囚われていると思っているのだろうか


 否、恐らくそんな風に考えていない。


 本来であれば、崇められる存在

 百合の花園の一人であり、また高嶺の花でもある。


 そんな彼女が、普通の男子と楽しそうに話している。


 いわば、高嶺の花は地上に降りてきているということになる。


 となれば、無関係である出勤中の人であれ

 そして、その事実を知っている学生とらればさらに注目は高くなる。


 そして、それは、学校の最寄り駅に近づくとともに

 より顕著になっていくと、推測ができた。


 それを予め推測できた一方、その事実を言ったところで

 現状の打破には一切繋がらない。


 むしろ、彼女がその事実を知り、何かいけない方向に走らないか不安である。


 また、その行動を意図してではなく

 突発的にやっているのが、彼女の余計に怖い所である。


「あぁ、周りの目線が気になるんですね!


 それなら、私に集中していただけると…」


 この状態で、その誘惑は危険である。

 心に、ダイレクトアタックが決まる。


 普通に話している距離なのに、その距離が自然ともっと近いと錯覚してしまう


 言ってみれば、囁かれている感覚に近いだろう。


 しかし、ここは電車の中であり

 そして、その中には、今のところ俺を一切よく思わない人もいる


 いや、むしろ多数だろう。


『なんであんな奴が...』

『百合の花園が...』

『許せない...』


 様々な怨念が、ひそひそと聞こえてて来る


 あえて、本人に聞こえるか聞こえないかで、ひそひそ話すのは

 人の悪い所だと思う。


 しかし、どうだろう

 俺が外の立場に居れば同様に思ったはずだし


 こうなってしまったのも、結果として、受け入れた俺に責任がある

 そう考えれば、その責任から生まれるこの殺意はもう仕方ないのだと


 堪忍しよう。


 しかし、それを覆すのが、彼女 らしい。


「なんか、文句ありますか?」


 それは、あまりにも突然で

 それでいて、鋭い


 普段の口調とは違う、明らかに怒気を含む声

 目には、光を感じなく


 圧倒的な、無に近いがそこからは、滲み出る怒りを感じる。

 彼女の、最も、見せてはいけない一面だった。


 また、その顔が笑顔である。

 それも相まって、より恐怖を感じるのには違いないだろう。


 普段怒らない人が怒ると怖いというが

 恐らく、それに近い状態だった。


 しかも、そのトリガーが恐らく俺というのは

 何とも言えない気持ちになる。


「私が、好きで、私が、選んで


 今、付き合っている雄太君にあんな奴がといった人

 それは、ある意味選んだ私の侮辱ではないですか?


 私は、ある程度付き合う人は選んでますし

 たくさんの人のものを断りました


 それで何ですか?


 ここでひそひそと、言ってて楽しいですか

 そんな人と、付き合いたいですか?


 あなたは?


 彼はそんなことは、しません。


 好きを好きと言ってくれる人だし

 素直な人です。


 それから百合の花園は、私が作ったのではありません

 男の子たちが、妄想で作った世界でしょ?


 その桃源郷のようなものを信じるのはやめてください

 私たちにも迷惑だって考えませんか?


 そういうのが、ある意味差別を生むって思いませんか?


 彼は、そんなことはしません

 現実は現実、夢は夢と受け入れてくれる人です


 その幻を、現実と勘違いしないでください。 


 そして、許せないといった人

 なにが許せないんですか?


 実際に、現実が許せないのは、あなたの努力不足ではないですか?

 努力していると結果は実ると私の友人は言っていました


 それを、怠りながら言ってるのであれば、それは単なる負け惜しみではないですか?」


 コテンパンに言う、そんなに言う必要があっただろうか。

 そして、その言葉は俺にもグサグサと刺さっていた。


 痛いところを正論で突かれてしまう


 というか、花は一体俺を何だと思っているのだろうか

 俺は、彼女の期待の重さが、流石に辛い


 車両の中は、花の言葉によってシンとしている。


 圧倒したからか、気圧されたからか分からないが

 そこには、決まづい空気が流れる


「あの、人も多いし、落ち着いて

 それに、俺は気にしないから...」


 今更言っても、手遅れとはわかっている


 俺も、ある意味で被害者だった。


 しかし、花は未だに納得していない様子


 いったいどうして、好きになったのか分からない相手が

 俺に、どんなイメージを抱いてるのか分からない


 本来であれば、誇れることも

 あまり誇れない...


 早めに、彼女のイメージ像を知らねばいけないのだろうと考える。


 一体、花は俺の知らない間に、どれほど俺を知っているのか


 どこか、ナルシストな男に、見えてしまうかもしれないが

 その表面には、露骨に恐怖がある。


 自分の意識しない場所で、見られていて

 知られている、これほど怖いことはそうそうない。


 しかし、言わない


 しばしの円満を、保つためにも


 この関係を保ち、最終日に持ち込むまで



 そして、その後も、シンと空気の止まった車両は

 人々を乗せて走り続けた。


 結果、なんとか(?)、無事に目的の駅へと辿り着く

 そこまでの空気感は地獄だった。


 誰も、口を開けず、ただただ沈黙


 しかし、そんな中、水田花

 彼女だけが、俺に話を振っていた。


 空気を読めないなんて噂は聞いたことが無かった

 むしろ読めると思っていたが、読めていての行動なのだろうか


 なら、見当違いにもほどがあった


 そんなカオスな空間が形成されていた。

 しかし、電車を降りれば話は別なようで...


 皆は、俺を睨んで立ち去る。

 まぁ、仕方がない


 俺が悪いのも事実だから


 だが、どちらかといえば、被害者だと主張したい

 しかし、その主張が受け入れられないことは分かっていた。


 だから、敢えて言うことはできないのだ。


 ☆


 この出来事は、俺にとって小さなことに過ぎないが

 これを期に、少しずつ日常が変化していくのは確かだったらしい。


 それについて、俺は少なくとも

 その時の、時点では気づいていなかった。

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