第12話 生乾きはご勘弁。
(扉が開き、洗濯カゴを抱えて入ってくるセダム)
セダム(あれ? 洗濯室じゃない……? )
(反対側の扉が開く)
ラルス「だから、血液をカフェインに置き換えたら寝なくて済むでしょって話をしてんのよ。」
アズキ「意味不明なことを言っていないで仕事しなさい。」
アズキ「ん? セダム? 」
ラルス「あ、ここ、もしかして……? 」
(ワタワタと手話をするセダム)
セダム「師長、この部屋は? 」
(部屋について説明する2人)
ラルス「やったー。合法的休憩タイム。」
アズキ「休憩自体は元々合法ですよ……。」
セダム「どうしよう……戻って早く干さないと洗濯物が生乾き臭くなってしまう……。」
ラルス「ああ、大丈夫。なんかこの部屋の中、時間が止まってるっぽいから。」
セダム「そうなの? 」
(テーブルの上に3人分のティーセットとおやつが出現する)
(戸惑いつつ、条件反射でカップにお茶を入れ、配膳するセダム)
アズキ「どうも。」
ラルス「あんがと。」
(ソノリスに手を伸ばそうとしたセダムを制するアズキ)
アズキ「手話で構いませんよ。」
ラルス「うん、俺ら分かるし。」
セダム「そう? ありがとう。」
セダム「これ、どれが誰の分なのかしら? 」
ラルス「先にとっちゃいなよ。お茶入れてくれたし。」
セダム「え、でも、いいの? 」
アズキ「別に構いませんよ。」
セダム「ありがとう……じゃあ……。」
(ドライフルーツの皿を取るセダム)
アズキ「取りなさいラルス。」
ラルス「さっすが師長〜。これもらっちゃうね。」
(ジャーキーの皿を取るラルス)
アズキ「では私はこれを。」
(残った皿を取るアズキ)
セダム「それ、何? 」
アズキ「饅頭でしょう。知りませんか? 」
セダム「マントウなら知ってるけど……。」
ラルス「中に何か入ってんの? 」
アズキ「あんこです。」
ラルス「あんこ? 」
セダム「どうやって作るの? 」
アズキ「豆を煮詰めて砂糖で甘くします。」
セダム「何ていう豆? 」
アズキ「小豆です。」
ラルス「ははっ、師長じゃなくて豆の名前聞いてんじゃないの? 」
アズキ「ですから、小豆です。」
セダム「小豆という豆があるってこと? 」
アズキ「そうです。」
ラルス「師長の名前ってもしかして……。」
アズキ「ええ、豆です。」
(マスクをはずしてふすふすと饅頭の匂いを嗅ぎ、目を閉じるアズキ)
アズキ「悪いですか? 」
ラルス「何も言ってないけど!? 」
【自己紹介してください
必須事項:名前、趣味、最近買ったもの】
ラルス「ラルス・カヌス。趣味はペグソリティア。最近買ったのは……なんだっけ? 俺そもそも何か買ったっけ? 」
(アズキの顔を覗き込むラルス
嫌そうに押しのけるアズキ)
アズキ「知りませんよ。」
セダム「あのゲーム、まだやってるの? 」
アズキ「板の上に玉が乗っているゲームですよね? よく飽きませんね。」
ラルス「ああ、うん。手が空くと惰性でやっちゃうんだよね。まあ、最近は忙しくてあんまり手空くこともないけど……。」
セダム「大丈夫なの? ちゃんと生きてる? 」
(お茶のカップを取り落としかけるラルス)
ラルス「いや生きてるから! じゃなかったらここにいる俺何?ってなるじゃん! 」
ラルス「俺のことはいいよもう……ほら、セダムさんどうぞ。」
セダム「セダム・ヒスパニカム。趣味は包丁研ぎ。最近買ったのは子供たちに出す夕飯の食材ね。」
アズキ「個人の物という意味ではないのですか? 」
セダム「そういうことなの? だったら、ガラスペンと新しいレターセットを買ったわ。」
ラルス「誰かに手紙書くの? 」
セダム「後輩にね。」
(1口お茶をすするセダム)
アズキ「会って話せばいいではないですか。」
セダム「そうしたいけど、私はほとんど寄宿舎にいるし、あっちも忙しいからね。」
ラルス「先輩から手紙かぁ。俺だったら嬉しいな。」
ラルス「そういうことしてもらえるのって……幸せだと思うよ。」
ラルス「俺にはもういないからさぁ。」
アズキ「…………。」
(目を伏せ、饅頭を食べるアズキ
しんとする部屋)
ラルス「ははっ、なんつってね。」
(ジャーキーを豪快に口に入れるラルス)
(少し慌てるセダム)
セダム「大丈夫。後でラルスにも書くわ。」
ラルス「いいよ。どうせ診察の時会うんだから。気ぃ使わないで。」
(悪い顔をするラルス)
ラルス「ま〜あ? どうしてもってんならぁ? 受け取んないこともないこともないけどぉ? 」
アズキ「アズキ・ヤエガシ。趣味は小動物にちょっかいをかけること。最近は何も買っていません。」
ラルス「スルー!? 」
セダム「何も買ってないの? 」
アズキ「ええ。買う必要がないので。」
ラルス「でもさ、飯とか服とか日用品とか、そういうのどうしてんの? 」
アズキ「食事はほぼ機関で済ませていますし、服もまあ、ありますし。何も困っていませんよ。」
(ドライフルーツをかじるセダム)
セダム「師長って……どこに住んでるの? 」
ラルス「うん。俺も気になってた。仕事終わるといつの間にかいなくなってるし、飲み会にも来ないし……。」
アズキ「……どこだっていいでしょう。」
(饅頭を一口でいくアズキ)
ラルス「待って、給料ちゃんともらってるよね? 」
アズキ「いただいてますよ。使ったことは一度もありませんがね。」
セダム「待って!? ちゃんと生きてる!? 」
【苦手な人はいる? 】
ラルス「俺はあんまりいないかな。」
アズキ「嘘ですね。真面目なタイプの前では萎縮する傾向があります。」
(お茶をふーふーと冷ますアズキ)
ラルス「あれー、バレてる。」
ラルス「いやだって、ほら……真面目な人ってすぐ怒るから……。」
アズキ「自分のちゃらんぽらんについては棚に上げることにしたのですか? 」
セダム「意地悪されるっていうなら良くないけど、怒られるのには理由があると思う。心当たりないの? 」
(お茶にドライフルーツを浮かべ、香るセダム)
ラルス「うん……ありすぎて辛いよね。」
セダム「……ちゃんとしなさい? 」
ラルス「はい……すんません。」
(バツ悪そうにお茶を飲むラルス)
アズキ「私は頭を触ってくる人が嫌いです。」
セダム「いきなり頭を触るのは失礼よね。」
アズキ「いきなりじゃなくてもです。不快です。」
ラルス「頭以外ならいいわけ? 」
アズキ「いきなりでなければ。」
ラルス「ほんと? じゃあ尻尾触らしてよ。」
(アズキのしっぽに手を伸ばすラルス
イカ耳になるアズキ)
アズキ「いいですよ殺します。」
ラルス「そんなに!? 」
(慌てて手を引っこめるラルス)
セダム「何か嫌な思い出でもあるの? 」
アズキ「別に……。ただ嫌なだけです。」
(目を伏し、カップを見つめるアズキ)
アズキ「あなたも話しなさい。」
セダム「私はこれといって苦手なタイプはないけど……。」
セダム「正直な話をすると、昔は師長のことが苦手だったわ。」
アズキ「退場します。すみません。」
(立ち上がるアズキ)
セダム「待って待って! 昔の話! 今は好きだし尊敬してるわ。」
ラルス「え!? 好きって、まさかそういう……!? 」
セダム「違う違う! 好きっていうのは人としてって話! 」
アズキ「私は人ではありませんので、やはり退場しますね。」
(一礼し歩き出そうとするアズキ)
セダム「もう! 2人ともからかうのはよして! 」
ラルス「ははっ、バレたか。」
アズキ「いちいち反応が良いからからかわれるのです。」
(座り直すアズキ)
セダム「そんなこと言わないで。師長には感謝してるのよ。あれからずっと……。」
アズキ「それは、もういいでしょう。やめましょう。」
セダム「もう! 照れないで。」
【好きなタイプは? 】
セダム「そんなことまで聞かれるの? なんで? 」
ラルス「深く考えたら負けだよ。」
セダム「こういう話は若い子に聞いた方がいいと思うけど……。」
アズキ「若いでしょうに。」
セダム「そりゃあ師長からしたら……。」
(もじもじと手遊びをするセダム)
セダム「というか、ラルスが聞きたくないでしょ。」
ラルス「えなんで? 」
(カップから顔を上げるラルス)
セダム「なんでって……。」
アズキ「あー……まあ、ラルスからしたらあなたは親のようなものですからね……。」
セダム「親とまでは言わないけど、なんか嫌じゃない? 身内のそういう話聞くの。」
ラルス「別に。なんも気にしないけど……。」
アズキ「だそうですよ。話しなさい。」
セダム「えー……。」
(激しくなる手遊び)
アズキ「というか、好きなタイプとは具体的にどういうことですか? 」
セダム「恋愛的な意味で惹かれる相手ってことよ。」
アズキ「恋愛……要するに交尾」
(アズキを遮るラルス)
ラルス「俺はねえ! 俺はえっと……包容力! 包容力のある人が好き! 」
アズキ「いきなり何ですか。」
ラルス「デッロデロに甘やかされたいね! それはもうデッロデロに! 」
アズキ「大声で言うことではないでしょうに……。」
セダム「そうよ。恥ずかしくないの? 」
(引いた顔でラルスを見る2人)
ラルス「いやだって……。」
アズキ「して、セダムの好きなタイプとやらは何なのですか? 」
(少し赤らんだ両頬を隠すように手で覆うセダム)
セダム「私は……自分を律する強い人が、素敵だと思う。」
アズキ「なるほど。その性格ならば見た目は気にしないと。」
セダム「見た目……実は気になるわ。」
ラルス「意外と面食いだったりすんの? 」
セダム「……顔は気にしないけど、えっとね、私よりも背は高くあって欲しい……のよね。」
(顔を覆うセダム)
アズキ「なるほど。大きく丈夫な子孫を作るためには必要なことですね。」
(慌てて顔を上げるセダム)
セダム「そ、そういう意味じゃないんだけど……!? 」
アズキ「違いましたか。」
セダム「師長は好みとかあるの? 」
アズキ「ありませんね。」
ラルス「そもそも恋愛対象って人間? 猫? 」
アズキ「どちらでもないですね。猫又なので。そもそも繁殖という概念がありません。」
(お茶を飲むアズキ)
アズキ「あなた方の言う恋愛とやらは、私には関係ない話です。」
セダム「それでも、いつかは大切な誰かに巡り会うかもよ。」
ラルス「そうだよ。人生何がどうなるか分かんないもんだしね。」
(カチャリ、とカップを置くアズキ)
アズキ「そういうものですか? 」
【メンバーにおすすめしたいこと】
アズキ「中庭の隅にヤモリがよく出るスポットがあります。ぜひ。」
ラルス「ぜひどうしろって……。」
アズキ「私の分さえ残しておいてくだされば好きにしていただいて……。」
(アズキの方に触れるセダム)
セダム「師長、師長、人間はね、ヤモリを食べない。」
アズキ「何ですって? 」
(スルーするセダム)
セダム「この間市場で質のいいお野菜を扱う店を見つけたわ。ラルスも師長も少しは野菜を食べた方がいいと思う。」
ラルス「野菜は料理すんのがめんどくさくてさ……。」
セダム「体が資本なんだから、面倒でも健康にも気を配らなくちゃダメよ。」
アズキ「本当です。あなたは医者の不養生を地でいっていますからね。」
セダム「師長も! 」
アズキ「私は草も食べていますので大丈夫です。」
ラルス「いや草食うなら野菜食いな? 」
(頬杖をつくラルス)
ラルス「おすすめかぁ……いつか任務で行ったハウマンティアの温泉が割と良かったよ。」
セダム「いいわね、温泉。ゆっくり行ってみたいわ。」
アズキ「休みを取って行けばいいのでは? 」
セダム「そうしたいけど、なかなかね……。」
ラルス「今は住み込みなんだっけ? じゃあ休みも休んだ気しないよな。」
セダム「まあでも、家に一人いるよりいいから。」
ラルス「ははっ、それもそうか。」
ラルス「いつかみんなでパーッと温泉旅行にでも行きたいよなぁ。なかなか休み合わせらんないのが辛いよ。」
アズキ「ただの風呂でしょう? 自宅で入れば良いのでは? 」
ラルス「違うんだよもーほんっと師長はさ……。」
アズキ「行ったことがないもので。」
セダム「そうなの? 今度一緒に行きましょう。湯着貸してあげるから。」
アズキ「……まあ、いつか。」
【たくさん話してくれてありがとう。】
【また来てね。】
ラルス「もう終わり? 」
アズキ「ここに来ると時間の流れが早いですね。ああ、止まっているのでしたか。」
セダム「でも、楽しかった。また集まりたいわね。」
セダム「さ、洗濯物を干さないと! 」
(扉をくぐる3人)
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