第10話 調理、いたしましょう。
いつもの談話部屋にて
(椅子に座って手帳に何か書いているミルヴァス)
ミルヴァス「この間ラジオを聞いていたんだが、リスナーからの手紙を紹介するコーナーがなかなか面白かった。」
(同じく椅子に座って爪を弄っているアズキ)
アズキ「ラジオなど聴くのですね。娯楽は本しか読まないのかと思っていました。」
ミルヴァス「本ばかり読んでいないでたまには違うこともしろと言われてな。もらったんだ。」
ミルヴァス「番組タイトル……何と言っただろうか……。忘れてしまったな。」
(優雅にメガネを拭くセネシア)
セネシア「『DJオルカのよろしく!深夜便』ではなくて? 」
ミルヴァス「それだ。」
(手帳から顔を上げるミルヴァス)
ミルヴァス「……補佐官、いつの間にいらしていたんですか? 」
セネシア「さきほどからずっといますよ。」
アズキ「おやおや、存在感が薄くて気が付きませんでしたねぇミルヴァス。」
ミルヴァス「いや……そういう訳では……。」
セネシア「師長殿ほどのお歳になると、他者の感知が難しくなってくるのですね。どうでしょう、隠居なさっては? 」
アズキ「お気遣いありがとうございます。隠居出来るものならそうしたいのですがね、生憎立場がそれを許してくれませんでねぇ。」
ミルヴァス「前から思っていたが、師長……何歳なんだ? 」
アズキ「何歳に見えますか? 」
ミルヴァス「……面倒だな。」
アズキ「何か言いました? 」
ミルヴァス「30代くらいか? 」
アズキ「そう見えるのならそうなのでしょう。」
セネシア「面倒ですね。」
アズキ「ところで、今日の特殊任務は何なのですかね? お題が出てきません。」
(現れる文字)
『今日は3人で料理して食べて帰ってください。
最低3品です。』
アズキ「は? 」
セネシア「え? 」
ミルヴァス「何故……。」
(急に現れる食材の乗った調理台)
ミルヴァス「……どういうことなんだ? 」
セネシア「料理を……すればいいのですか……? 」
(腕組みをするアズキ)
アズキ「無理難題を……。この3人でまともな料理など出来るわけないでしょうに……。」
ミルヴァス「師長……出来ないのか? 料理……。」
アズキ「え……。」
セネシア「まさか。師長殿ともあろうお方が料理も出来ないわけ……。」
アズキ「……。」
セネシア「……出来ないのですか? 」
アズキ「する必要、ありますか? 」
(沈黙)
セネシア「まあ……これも、『らしさ』ですよね……。」
ミルヴァス「そういう問題なのですか……? 」
セネシア「さて、料理と言っても色々ありますが、何を作ったら良いのでしょうか? 」
ミルヴァス「簡単なものでいいのでは? 」
アズキ「同意です。塩をかければ大体のものは美味くなりますしね。」
ミルヴァス「そのレベルでの話はしていない。」
セネシア「あなた、得意料理は? 」
ミルヴァス「これといって……。ありあわせを適当に煮たり焼いたりする程度ですね。」
ミルヴァス「補佐官はどうなのですか? 」
セネシア「私も似たような感じです。」
セネシア「どうしましょうね……困りました。」
アズキ「だから、塩を……。」
ミルヴァス「1人1品ずつ提案してみますか。」
セネシア「それはいいですね。私はほうれん草のキッシュを提案します。」
ミルヴァス「では、私は野菜のスープを。」
アズキ「お二人共草ばかりですね。」
ミルヴァス「草って言うな。」
セネシア「師長殿も何か提案なさってください。一応聞いてさしあげます。」
アズキ「魚と肉を卵黄で和えたものに天然塩を添えて。」
セネシア「格好をつけようとしなくていいです。却下。」
アズキ「では塩漬け肉を原木で……。」
ミルヴァス「火を通す発想を持って欲しい。」
アズキ「ならば、魚の丸焼きでどうでしょう。」
ミルヴァス「まあ、それなら……。」
セネシア「ほうれん草のキッシュ、野菜スープ、魚の丸焼き……。主食がありませんね。バランスが悪いです。」
セネシア「私はパンを焼きましょう。これで3品です。」
ミルヴァス「それぞれ提案したものを担当するという形でいきますか。」
セネシア「そうですね。それがいいでしょう。」
アズキ「ミルヴァス、野菜スープに玉ねぎは入れないでください。嫌いです。」
ミルヴァス「……にんにくやニラも除いた方がいいか? 」
アズキ「出来れば。」
セネシア「やはり、猫ですね。」
アズキ「猫ではなく――」
セネシア「猫又ですね。はいはい。」
セネシア「ちなみに、魚の内臓は当然取るのですよね。」
アズキ「取るわけないでしょう。一番美味いところを……。」
セネシア「取ってください。人間の分だけで構いませんので。」
ミルヴァス「あの……パンは……。」
セネシア「ライ麦はやめて欲しいのですよね。分かっていますよ。」
ミルヴァス「……はい。」
セネシア「さ、調理を始めましょう。」
(1時間後
完成した料理がテーブルに並べられる)
セネシア「それらしいではありませんか。」
アズキ「私もミルヴァスもすぐ終わってしまって、ほぼ3人でパンの生地を観察していましたね。」
セネシア「せっかくの料理が冷めてしまいました。温め直しましょう。」
ミルヴァス「いえ、私はこのままで大丈夫です。」
アズキ「私も構いません。」
セネシア「ああ、お二人共猫舌でしたね。」
セネシア「では、このままいただきましょうか。」
(テーブルにつく3人)
(いただきます、とそれぞれ食べ始める)
セネシア「この野菜スープ、具材が大きくて食べ応えがありますね。」
アズキ「というか、切った野菜をそのまま入れているだけですね。」
ミルヴァス「野菜は皮に栄養があるからな。」
セネシア「このトマト風味もなかなか爽やかでいいです。上達しましたね。」
ミルヴァス「……いえ……別に……。」
ミルヴァス「この魚……骨が全くない……。」
アズキ「内臓と一緒に取り除きました。人間は骨は食べないのでしょう? 」
セネシア「して、除いたものは? 」
アズキ「もちろん、いただきましたよ。」
ミルヴァス「つまみ食いをしたのか。」
アズキ「猫聞きの悪い。食材を無駄にしないための工夫です。」
ミルヴァス「猫聞き……初めて聞く言葉だ。」
セネシア「真面目に取り合わなくていいです。」
アズキ「パン……まあまあですね。柔らかくて食べやすいです。」
ミルヴァス「猫なのにパンを食べるのか? 」
アズキ「猫又――」
セネシア「は、雑食なのですよね。」
アズキ「さっきからちょくちょく被せてくるのは何なんですか? 」
セネシア「ミルヴァスはどうですか? パン、もう熱くありませんよ。」
ミルヴァス「……美味い、です。」
(黙々と食べる3人)
セネシア「ごちそうさまでした。美味しかったです。」
アズキ「腹が膨れました。」
ミルヴァス「ごちそうさま。」
ミルヴァス「そういえば師長、包丁を使った気配がなかったが、どうやって魚を捌いたんだ? 」
アズキ「手で。」
ミルヴァス「手で……? 」
(うっと気分悪そうな顔をするセネシア)
アズキ「大丈夫です。手指洗浄と消毒は看護師の基本ですから。」
ミルヴァス「気持ちの問題って分かるか? 」
(ガチャリ、と扉の開く音)
『料理してくれてありがとう、また来てね』
セネシア「開きましたね。今日は興味深い課題でした。」
アズキ「相変わらず意図は分かりませんがね。」
ミルヴァス「まあ、楽でいいが。」
セネシア「お2人は帰りですか? 」
アズキ「当直です。」
ミルヴァス「少し仕事を。」
セネシア「そうですか。私も仕事です。お互い頑張りましょう。」
ミルヴァス「そうですね。」
ミルヴァス(DJオルカ、今夜もまたやるだろうか……。)
扉をくぐる3人
本編は毎週金曜21時に公開しています!
現在第19話まで更新中!
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