第947話 忘却と失意の中の再会(2)

「都……」


 辛うじて出てきた言葉がそれだった。

 あれほど会いたいと思っていた都を前にして――、違う……、俺は何を考えて……。


「ああ、約束した」

「覚えているの?」

「ああ。忘れるわけがないだろう?」


 スルリと口元から零れ落ちる言葉。


「そう。それじゃ――、約束を守ってくれるよね?」


 都の手が――、義手ではない手が俺の頬に添えられると共に、その顔が近づいてくる。

 一瞬、都と唇が触れたかと思うと、弾かれるように俺から都は距離を取った。


「――ッ! どういうことなの?」

「都?」


 先ほどから何が起きているのか、まったく理解できない。

 理解できないまま唇同士が触れたという感覚だけはあったが――、


「どうかしたのか?」

「寄るな! 化け物っ!」

「――え?」


 伸ばしかけた手が空を切る。

 それと同時に、その言葉の意味が何となく理解できてしまう。


「……そ、そうか……。そう……だよな……」


 俺を召喚した異世界人を――、異世界の神々を――、女神レイネーゼを――。

 殺した俺は化け物。

 神殺しの化け物。

 それは、獣人国の連中からは――、俺を知らない連中からは、そういう目で……。


「――ッ!?」


 ――ありえないほどの激痛。

 思わずよろけるほどのもの。


「なんなのよ! あんたは! どうして、力を奪えないのよ!」

「何を言って……、都……」

「偽物の癖に! 偽物の癖に! 偽物の癖に! 偽物の存在価値なんて、私の役に立つくらいしか存在価値はないのに! それすらも拒絶するなんて!」


 俺を憎しみの瞳で見ながら、俺になんて存在価値はないと連呼する巫女服の都。


「都、俺は……」

「黙れ! 偽物の化け物っ!」

「俺は……」


 ずっと会いたいと思っていた都から投げかけられる言葉。

 それと同時に、俺が、この世界に来てから出会った都は一体、何者なのか? と、心の中で思ったところで、


「優斗っ!」


 背後の建物――、寿司屋のドアが開いた音がしたかと思うと、もう一人の都の声が聞こえてきた。

 思わず振り向こうとしたところで、俺は左手を振るう。

 それと同時に、俺の左手は、肘の部分から切断され空中を舞う。

 そして瞬時に俺の左腕は切断された肘の部分から生えて修復される。


「何をするつもりなんだ? 都」

「偽物を処分しようと思っただけよ」

「何を言っているんだ……。それに、何で都が二人もいるんだ?」

「私が本物で、あれは偽物だから」


 義手から生えた透明な糸を回収しながら巫女服の都は呟く。


「偽物って何だよ……。それよりも、都は生きていたのか? 異世界から、どうやって帰れたんだ?」


 論理的思考が働かず上手く言葉が繋げられない。

 何よりも、目の前の都が本物だということは分かって――、いや! 俺は何を思って……。


「あなた、ズレているのよね。偽物だからかしら? もう、いいわ。器から力を回収させてもらうから」


 俺の問いに答えることもなく目の前の都が数十の魔法陣を空中に展開させた。

 それも一つの魔法陣を形成するのに、異世界アストリアの世界の魔法師なら数十秒かかる魔法陣を。


「テンペスト・フレア」


 レイネーゼが使った魔法。

 神域広範囲殲滅魔法。

 それに気がついたと同時に上空を見上げる。

 すると、数千度の高熱を内包する数千を超える火球が落下してくる光景が目に入った。


「何をするんだ!」

「貴方は、生き残るかも知れないけど、ここら一帯は消滅するわ。器であったとしても数千度の炎には耐えられないもの」

「だから何を言って!」


 そう叫んだところで、


「【極大氷結魔法コキュートス!】」

「【極大暴風魔法ギガストーム!】」

「「【合体! 巨大氷結暴風魔法コキューストーム】」」


 俺が見ている前で上空に氷を含んだ絶対零度の台風が巻き起こり、降ろうとしてきた火球の大半を凍らせた。


「――こ、この魔法は!」


 そこで巫女服の都が動揺を見せると視線を俺から外して別方向を見た。

 そこには――、俺を訪ねてきたという女が二人立っていた。


「女神レイネーゼの気配を感じて来てみれば、どういうことなの?」

「ハイエルフ族のエリーゼが分からないのなら、私には分からないわよ」

「リコリッタ、どうするの? 思わず魔法を消したけど……」

「あんな魔法が落ちたら、大変なことになるわ。大半は相殺できたけど……。もう魔力が尽きたから無理」

「なんで、あの二人がここに?」

「異世界アストリアから亜人が来ているとは――。だが、私の魔法はまだ――!」


 苦し紛れに巫女服の都は声をあげるが――、「【カウンターマジック!】」と、寿司屋から出てきたばかりの都が両手を上空へと向けると同時に聖女が扱うことが出来る魔法無効化魔法を発動し残った魔法を消し飛ばした。

 その光景を、目を大きくして見た巫女服姿の都は、「――まさか、よもや……そこまで」と、周囲を見渡してギリッと歯ぎしりすると、転移術で姿を消した。

 何が起きているのか、怒涛な展開に俺は理解できずに――、それでも都と出会ったことに――、彼女を求めるかのように手を伸ばそうとしたところで、「駄目! 優斗! 行っちゃ駄目!」と、背後から俺に神楽坂都が抱きついてきた。


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