第946話 忘却と失意の中の再会(1)

「ああ、頼む。業務連絡は以上か?」

 

 神谷と村瀬が頷いたので、一応は目途が立ったというところか。

 とりあえずの方針が決まったので、まずは鯛の握りから頼もうとしたところで、「お兄ちゃん」と、妹の胡桃が話しかけてきた。


「どうした?」

「ちょっと席変わってほしいの!」

「変わってほしいって……、神谷も村瀬も仕事関係者だぞ?」

「だからなの!」


 力強く、席を代わってアピールをしてくる妹の胡桃。


「何かあったのか?」

「エリカがね、何か悩んでいるの。だから話を聞いてほしいの」

「エリカが?」


 そういえば、少し様子が変だったな。

 しかし、俺に女性の悩みが解決できるのか? と、言えば難しいぞ?


「うん。駄目?」

「……仕方ないな」


 上目遣いでお願いされたら兄としては断れないじゃないか。


「ご主人様も、妹君の懇願には勝てませぬか」

「黙っていろ、白亜」


 寿司屋のボックス席を胡桃と変わる。

 すると横には白亜。

 そして都とエリカにテーブルを挟んで対面することになった。


「エリカ」

「はい。マスター」

「何か悩みとあるなら聞くぞ?」


 俺の問いかけにエリカは、少し困った表情をすると頭を左右に振る。

 おいおい、その態度だと問題はあったが、話したくないと言っているのと同じなんだが?


「そうか。話したくないなら無理して話さなくていい」


 そもそも本当に業務に問題のある話ならエリカなら報告を上げてくるはずだからな。

 それをしないということは、可及的速やかな問題ではないということ。

 だったら、本人が話したくなるまで待つのがベストだろう。

 そして、それは――、


「優斗」


 俺の名を呼んできた都にも言える。


「ごめんなさい。変なことばかり――、優斗に当たりつけるような言葉ばかり言ってしまって」


 そう思っていたが、いきなり都が謝ってきた。

 

「気にするな」


 都が俺に対して気に病むことは何一つない。

 

「――で、でも! 優斗、傷ついたよね?」

「別に何の問題もない」


 都に嫌われようと遠ざかっていこうと彼女が無事で笑っていてくれれば、それで俺は満足だ。

 だから――、


「何の問題もないって……」


 何故か知らないが都が傷ついた表情を見せたところで、俺は思わず席を立ちあがった。

 都の背後――、そうじゃない! 店内の窓を隔てて駐車場を抜けた2車線道路の向こう側。

 そこに立っていたのは――、


「……都……なのか……」


 俺の視線の先――、100メートル。

 そこには、巫女服の義手をつけた神楽坂都が立っていた。

 俺は思わず、目の前に座っている都に視線を向ける。

 

「どうしたの? 優斗」


 間違いない、こっちは都だ。

 だが――、もう一度、先ほど見た巫女服姿の都が立っていた場所を見ると、そこには都の姿はなかった。


「――ッ!?」


 自分でも理解できなまま、分からないまま寿司屋を出る。

 そして、周囲を見渡すが都の姿はない。


「幻か? ――いや、だが……」


 そう思った時だった。


「優斗、やっと会えた」


 耳元から聞こえた声。

 それは、俺が知っている声で、後ろから抱き着いてきた体の感触はたしかに都のもので、


「み、みやこ……な……の……か?」

「うん、そうだよ。約束したよね? 私を守ってくれるって」


 そう告げてきた巫女服姿の都は、俺に義手を見せながら、「ねえ? 優斗。優斗は、私を守ってくれるんだよね?」と、俺の首に両手をかけたまま正面に回りこむと笑みを向けたまま、確認するように尋ねてきた。

 

 


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