第878話 隠された真実の欠片(5)

 ――身動きは取れるか? 神楽坂都。


 ショックを受けて立ち尽くしていた都の頭の中に唐突に響く白亜の声。

 周囲は、まるで時が止まったかのように固まったまま。


 ――声に出す必要ない。まずは、最初の場所に戻ってくることはできるか?


 その白亜の言葉に神楽坂都は頷くと、ショックを引きずったまま部屋から出る。

 部屋の外は、通路があったが人の存在感が皆無なほど静まりかえっていた。

 理解が追い付かない状態で、「どういうことなの? これが本当のこと?」と、自問自答しながら自身が最初に目を覚ました部屋まで戻ったところで扉を閉めてガチャリを鍵を閉めた。


「戻ったか……。都殿」

「白亜さん。どういうことなの?」

「妾にも、まだ詳しいことは分からない」

「白亜さんにも分からないって……」

「それよりも都殿は何か情報を得たのではないのか?」

「う、うん」


 ぬいぐるみと化している白亜と先ほどまで話していた王女の会話内容を白亜に伝える都。


「ふむ。――と、なると……、ここは以前にご主人様が異世界に召喚された世界で間違いはないようじゃが……」


 何か引っかかりを覚えるのか11本の狐の尾を持った真っ白な狐のぬいぐるみはベッドの上に鎮座したまま静かになる。

 その白亜の様子に、


「白亜さん。ここって、ほんとに優斗が召喚された世界なのかな……」

「――と、いうと?」

「だって優斗は、召喚されたのは自分だけだって――」

「ふむ」


 さすがに話しかけられた白亜も答えないわけにはいかず応じる。


「都殿。少し酷な話になるが、もし、ここがご主人様が召喚された本当の世界だとして、その時に、お主も共に召喚されていたとしたら――」

「え? ――で、でも! 私に、そんな記憶はないよ?」

「あくまでも仮定の――」


 そこまで白亜が言葉を呟いたところで――、室内がザザッと音が鳴り、不協和音な音は強くなっていく。

 思わず神楽坂都は目を閉じて耳を塞ぐが、一瞬、平衡感覚を失ったような体験をしたあと、膝に痛みを感じる。


「――ッ」


 思わず顔を顰めて瞼を開けると、目の前には、どこまでも澄んだ湖が広がっていた。

 湖底には、白く輝く楔があり、周囲を見渡すと20人近くの白い衣服を纏った女性たちが神楽坂都の後ろに立っていた。


「どうかされましたか? 聖女様」

「いえ。とくには――」


 勝手に動く唇からは、言葉が零れおちる。


「そうですか。それでは、ご説明します。そちらの湖の中に存在している白い楔は、アウラストウルスの楔と言われております」

「たしか、聖女が扱う杖だと」

「その通りでございます。そちらの杖を手に入れることが、最後の試練となります。聖女としての証を見せるための」

「わかったわ」


 膝立ちしていた神楽坂都は、ゆっくりと立ち上がると、湖の中へと入っていく。

 その際に、意識だけ神楽坂都の中にあった、もう一人の神楽坂都は(入水自殺!?)と、混乱するが、澄んでいた水は、彼女を濡らすどころか湖は左右に分かれる。

 それは、まるでモーゼが地中海を割ってユダヤ人を逃がしたかのように。


「おおお、これが歴代最高の聖女様の力――」


 女性神官たちの中でも年配の女性が驚愕の表情をし目を見開き――、「生贄の聖女としては、勿体ないほどの資質ですのに……」と呟いたが、その言葉は、湖が割れていく音に掻き消え誰にも届くことはなかった。

 白い2メートル近くの杖。

 先端には赤いルビーが浮かんでおり、七色の光を纏っている。


「これが、聖女の証の杖『アウラストウルスの楔』……。よくわからないけど、すごい……、魔力が増幅しているような気がする」


 神楽坂都の意識とは反対に、その体の唇は勝手に動く。


「神官長、これで大神殿での聖女の儀は全て終わったのよね?」

「その通りでございます」

「そう……。優斗とやっと会える……」

「聖女様」

「何?」

「聖女様は俗世に関わるのはタブーとされております」

「え? ――で、でも! 優斗に会う事はいいって!」

 

 そこで神官長の女性は、神楽坂都に聞こえない等に舌打ちをする。

 

「王家からの命令は絶対です」

「王家からの命令は絶対……」


 唐突に、壊れた機械のように神官長の言葉を連呼する神楽坂都の体。


「貴女様は、勇者を、この世界に止めておくための装置であり、覚醒させるための生贄なのです」

「私は生贄」

「そうです。王家は、それを望んでおります」

「王家が望んでいる……」


 白い大理石の床に杖を落とし、ボーッと立っている神楽坂都の体を女性神官たちは運んでいく。


「王女殿下は、洗脳がうまくいっていると言っていましたが、どうも掛かりが弱いように見受けられますね。あのような魔物すら殺すことを躊躇するような出来損ないの勇者もどきと会いたいなど穢らわしい」


 女性神官長の声を聴くことができたのは、神楽坂都の体に憑依していた都本人だけであった。




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