第877話 隠された真実の欠片(4)

 中世の王女が着るようなドレスを着せられた後、金糸のような細い髪を後ろで纏められる。


「シヴァリエ様。用意が出来ました」

「え、ええ……」

「本日は、早朝よりアバンス子爵家の当主との会談がございます」

「セリーヌ」

「何でしょうか? シヴァリエ様」

「優斗じゃなくて異世界から召喚した勇者に会いたいのだけれども」

「シヴァリエ様、処分をご自身で行いたいのは重々承知しておりますが、まだ召喚魔方陣には魔力は溜まっておりません。勇者としての何の素質もない異世界人であったとしても、勇者として遇して王国民のために働いてもらった方がいいと昨日、シヴァリエ様も、仰られておいでではありませんか。もしや……」


 メイドのセリーヌが、鏡越しに目をスッと細める。

 その様子に、神楽坂都はびくっ! と、体を震わせるが――、


「あのような使い捨ての駒にまで慈愛を持つことは、姫様の素晴らしい点ではありますが、あれはあくまでも、魔王と戦うための駒です。ですので、気にされない方がよろしいかと」

「そ、そう……(何故か分からないけど、ここは異世界人を酷使している世界なのかしら?)」


 そう神楽坂都は考えつつもベッドの上に置いた白亜のぬいぐるみへと視線を向ける。


「あのぬいぐるみは、姫様が?」

「え、ええ」

「そうでしたか。どちらの貴族の子息から贈られたのでしょうか?」

「……秘密よ(そんなことを聞かれても答えられないんだけど……)」

「そうですか。これは失礼致しました」


 メイクもセットされた神楽坂都は、宮殿の中を歩きながら、前を歩くメイドのセリーヌへと視線を向ける。


「道しるべのセリーヌさんがいなかったら迷子になっていたわね」

「何か?」

「何でもないわ」

「こちらです、シヴァリエ様」


 室内に流されるように通された神楽坂都は足を踏み入れると、


「――ッ」


 立ち眩みのような物を覚える。

 そして目を開けると、「え? どういうこと?」と、言葉にならない声をあげていたが、その場に居たセリーヌ、そして50代後半の煌びやかな衣装に身を包んでいた男には、その声が届くことはなかった。


「こんな朝早くから、一体! 何の用なのよ?」

「これはシヴァリエ王女殿下」

「遜った言い回しは必要ないわ」


 神楽坂都は自身の前で始まった話し合いと名ばかりの言葉の応酬に、傍観することしかできないのであった。


「さっさと要件を言いなさい。クランゼ公爵」

「これは、また手厳しい」

「いいこと? 今! この王国は、病に伏せっておられるお父様に代わって私が統治をしているの。そこを忘れないことね」

「分かっております。それよりも、これを――」


 初老の男クランゼが羊皮紙を取り出す。

 羊皮紙を受け取った王女シヴァリエの表情が険しくなる。


「つまり、ミヤコ・カグラザカという異世界人の女は聖女としての適性力が非常に高いと――、そういうことかしら?」

「はい。その通りです」


 さらにグランゼから渡された羊皮紙を読み進めていく王女の顔色が変わっていく。


「どういうことなの!」

「どうも何も――、教会側は、ユート・カツラギについての見解ですが、元の世界の状態のまま召喚されたと……」

「それじゃ何? 召喚する際に本来であるなら付属される従属魔法も、位置探索魔法も、何も効果を発揮してはいないということ?」

「そのようです」

「ありえないわ! だって! あの少年は、「困っているなら僕が頑張って助けるよ!」と、まで言ったのよ! 異世界から召喚された人間が、何の洗脳も受けていないのに! 協力的なわけが……」

「ですが、教会の判断ですと、そのようです」


 公爵の説明に、王女は椅子に座りこむ。


「危険だわ」

「そうでしょうか? とても御しやすいと思われますが……。それに何のスキルも有していないどころか、我々の世界では当たり前のステータス自体、所有はしていないのですよ?」

「そうではないわ。私の監視下で生殺与奪をいつでも握れる人間ではないという事が問題なのよ!」

「兵士を何人かつけておけばよいのではありませんか? 幸いなことに、あの少年はこちらを疑ってはおりませんので、騎士団長あたりを傍につければよろしいかと」

「あなた、人の話を聞いていて? 人形として消耗品として利用するために召喚したモノが! 意志を持っている方が問題なのよ!」

「ですが、それでは、如何いたしますか? 聖女の手前、下手に処分しては――」

「……」


 親指の爪を噛みながら表情を歪めていた王女は、ハッ! とした表情をすると、


「ミヤコ・カグラザカには、従属魔法が掛かっているのよね?」

「はい。そのようです」

「そう。それなら、その歴代最高の聖女様を使って、神々からの祝福すら得ることが出来ない出来損ないの勇者もどきを操ることにしましょう」

「よろしいので?」

「当たり前よ。神殿の召喚魔方陣の魔力が貯まり次第、再召喚を行うわ」

「それでは半年後になるかと」

「十分よ。それ以上、出来損ないのムシケラが、この城にいたら気が狂うわ」

「分かりました。教会には、そのように――」

「そうそう。クランゼ」

「何でしょうか? シヴァリエ王女」

「再勇者召喚の儀には、元の勇者と聖女は必要ないことは知っているわよね?」

「もちろんでございます」

「――なら、魔法陣に魔力が貯まり再召喚が出来るようになった暁には、最高のショーで、役立たずの人を疑う事も知らない偽善者である偽物の勇者を絶望に叩き落としてあげましょう」

「それは、どのようにして――」

「決まっているでしょう? 魔王軍に情報を流して聖女を偽物の勇者の前で、魔物に食わせてみましょう。ちょうど、幼馴染と言っていたことですし、面白い良いショーになるわ 貴方もそうは思わないかしら?」

「それは……」

「何か文句でもあるのかしら?」

「――いえ」

「ああ、楽しみね。偽善者が、どういう顔をして最後に死ぬのかを」


 狂気の色を秘めた青い瞳で、うっとりと恍惚な表情を浮かべるシヴァリエ王女。

 そんな彼女を見て、半透明な神楽坂都は驚きのあまりに「え? どういうことなの? 優斗が話していた世界とまったく違う……」と、思考停止状態に陥っていた。



                       

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