ワルキュリア

十神 礼羽

第0話

――――――かつて、王国があった。


 歴史的に見ても、とりたてて目立つ国ではなかった。


 高い山岳に囲まれた小国は、めぼしい産業もなく、世界の歴史に名を刻むこともなく、文明の波に取り残されるかのようにひっそりと存在した。


 その王国の名前が大きく知られたのはたった一つの事件。

その事件によって、世界中の誰しもがその名を知るまでに至った。


――――――18カ月前、後に「」と呼ばれる事件。


 久方振りの、世界連合会議。

その壇上で、、世界中に向けて宣戦布告した。


 そのありうべからざる凶行と、24機の「」。

いまだに人類の届かぬ頂を持ち、高らかに世界に覇を唱えようとした。


 そんな野望を掲げた国は、瞬く間に、世界全てから反撃を受けた。

まとまる筈の無かった世界が、皮肉にも同じ痛みを、

屈辱を共有したことによって連帯し、

圧倒的な数という力によって、

たった1ヶ月で一つの小国はなすすべなく滅びを迎える。


 連合は歓喜した。馬鹿な事だ。過ぎた力で見誤ったのだ。人々は口々に嘲った。

世界を統べようとした国が、皮肉にも世界統一の礎となる。

そんな未来を幻視していた彼らは、王国の王都攻防戦において、


――――――――潰走する。


光芒と共に王都地下から、突如として湧き出た機械仕掛けの獣の群れに。

群れを統べる2頭の王に。


 数で勝った連合を、数の暴力で押しのけたその獣は、その版図を世界に大きく押し広げる。戦線は後退し、人類の生存圏が大きく縮小する。


――――――以来17カ月、人類はいまだ勝利を得られずにいた。


――――王国の名を「グラズヘイム」、人型兵器ヒトガタの名を「ヴァルキュリア」という。

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