ep2≫LIVERPOOL CAVITY

ep2[1/8]

 逃げ回るだけの人生だった。

 楽な方向へと進む事が俺の唯一の取り柄で、そうしない奴を馬鹿だと思って生きてきた。

「——逃したか? まだ近くにいる筈だ、探せ。あれは見たところミュール運び屋じゃない。フルボッコにしてインターセプトしろ」

 ドブ鼠みたいだな。

 ふと我に返り、ゲームの中で必死に息を殺している自分の存在が酷く哀れに思えた。事実、そうだから救いようがない。

「ドブ鼠いたぞー」

 咄嗟に声の方向に顔を上げた。ハイエナは雑居ビルの屋上から枯れた井戸を覗き込むみたく俺を見ていた。

 畜生、俺はゲームでさえうまく出来ないのか?

 自問自答は無意味だ。逃げなきゃ捕まる。

 裏路地を走る。ただひたすらに走る。瞬間に足を挫いて倒れ込んだ。違う、足を撃ち抜かれたんだ。反射するネオンがキャッチした。立ち上がろうとした。ダメだった。次は背中を撃たれた。冷たいアスファルトが頬に張り付いた。

「逃げんなよ、どうせ無駄なんだから」

 ハイエナは俺のフードを掴み、ぐいと持ち上げてから、アスファルトに思い切り顔面を叩きつけた。視界がぐらりと歪んだ。

「あれ、もう死んじゃう?」

 ここはゲームの中だろ。なのにこんな酷い仕打ちがあるか?

 もう一度叩きつけられた。フィードバックがファントムペインを再現する。痛ぇ。視界の電池が切れそうだ。

 なんだ、あの光は?

 手を伸ばせば届く距離にその発光体はあった。空間に切れ目があり、そこから光が漏れている。サイケデリックな波紋状の光線が早回しで咲く花のように広がっていく。ハイエナは気づいていないのか無反応だった。俺は手を伸ばした、

「「「あ……?」」」

 穴に落ちていた。ストロボライトよりも強烈な光が断続的に波を打ち、光量は、パルス信号みたく一定のペースで強まる。その度に、鼻の奥からチリチリと焦げ付く匂いが込み上げ、消える。脳が焼かれている。そんなイマジネーションが急速に点滅する。けれど掴む場所もなく抵抗する事は出来ない。エコーの中に俺が消えてしまう。けれどここなら追っ手に脅かされる事もない。そう思うと少し気が楽になり、そっと瞼を閉じた。

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