第38話 対峙
スオウの杖は、まっすぐメイタロウを指していた。
何が起こったのか、青年はしばらく理解できずにいた。スオウもきょとんとした顔でこっちを見ている。
一騎討ちを望むスオウの杖が、メイタロウの方を指し示した。
すなわちメイタロウを一騎討ちの相手として指名した。端から見ればこの状況はそういうことだ。
しかしスオウの杖が最初に示そうとしたのはロドだ。つまりこれは間違いで……。
しかしメイタロウがその間違いを訂正する前に、会場からはどよめきが起こってしまった。
「兄弟の一騎討ちだ!」
「新聞で言ってた因縁の対決だ」
「プロの兄貴なんだから、あいつも強いんだろ?」
「確かにあいつ防御術ばかりで攻撃術は見せないな。本当はどんな魔術師なんだ?」
「すごい! スオウ様との兄弟対決が見られるの!? 来て良かった!」
どよめきは徐々に歓声へ。最終的に会場から大きな拍手が巻き起こった。
スオウとメイタロウ、二人の一騎討ちを望むと。
しかし、
「ロド! 一体どうして!? 僕は一人じゃ試合には……」
会場から拍手が巻き起こる中、まだ当の青年だけは己の置かれた状況を受け入れられずにいた。
だってそうだ。受け入れるわけにいかない。
防御術しか使えない自分がプロと……弟と一対一で戦うなんて。
そんなメイタロウに、ロドはいつもの飄々とした態度とはどこか違う、確信を持った目でこう言った。
「競技魔術は自分の前に張られたシルドを守る競技。メイタロウの魔術でもプロと戦えるって、会場の人達もすぐに分かるよ。それに、」
若き魔術師は、視線である方を示す。
見遥かすフィールドの向こう側。弟のまっすぐな目がメイタロウを刺していた。
先ほどまでのきょとん顔ではない。
スオウは今や確信を持って、メイタロウという魔術師をその杖で指し示していた。
プロとしてロドを倒すという使命ではなく、自分の心に従って対戦を望む相手……兄と戦うと。
その視線は、メイタロウの心をも揺さぶるようで。
そうだ、何を狼狽えてるんだ。
『全身全霊でのぞみます』、さっきそう言ったじゃないか。
プロ対アマ。ロドが戦ってもメイタロウが戦っても、その構図は変わらない。何もロドばかりが不可能を覆す戦いに挑まなければいけないわけでもないのだ。
何せもう、
「行け、メイタロウ!」
「弟にお前の魔術を見せてやれ!」
「メイタロウがんばれー!」
逃げられない。
観客は容赦なく、足をすくめる青年を声援で包んでいく。背を押して、無理にでも競技用フィールドへと進ませていく。まるで運命を開くように。
青年にだって分かっている。ロドは何も気まぐれでメイタロウに一騎討ちを譲ったわけではない。
弟はプロだ。易々とアマと試合ができる訳ではない。今日を逃したら、一体いつ向き合えるんだ。
分かっていても止められない手の震えは、まだ杖まで震わすけど。
目を閉じて、開く。一度、大きく息を吸って吐いた。
そっと、杖をスオウの方へ掲げる。
一騎討ち。望むところだ。
会場から、今までにない大きな拍手がメイタロウに贈られた。
ふっと脇に目をやると、観客席で先生が嬉しそうに笑っていた。
拍手と歓声は客席中腹のVIP席をも包んでいた。
身なりのいい魔術師が、少し困惑したような顔で呟く。
「スオウ君の兄、メイタロウ選手。彼は今大会、防御術しか使用記録がないとか。そんな魔術師がプロ相手にどこまでもつか……」
しかし彼のとなりに座る青年は、身なりのいい魔術師の言葉に微かに首を振った。
「競技魔術は、最後まで自分のシルドを守り切れば負けない競技だ。相手のシルドを攻撃する派手な術ばかりが注目されがちだが、本当に強いのは防御術を上手く扱える魔術師だ。それに……」
青年が顎に手をやる。身をかがめて、じっくりフィールドを観察するように目を細める。陽光に、導師院のバングルの金のラインがきらりと輝いた。
「ロドは彼の魔力の特性を見抜いて、試合を譲ったようだ」
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