第12話 ロドの実力
「クソ、あいつに攻撃する隙を与えるな!」
目の前で繰り広げられる術と術の撃ち合いに、メイタロウはいまだ唖然としていた。
いや撃ち合うというより、ロドが一方的に攻めている。
相手も火球や光球や、様々な術を撃ち出してくるのだが、ロドの放った魔術がそれを全て打ち消し、相手のシルドを攻撃しているのだ。攻撃術を使ってこない方の相手選手は防御術に徹しているが、そのバリアすら打ち砕いてしまう。
そして段々と、しかし確実に、透明にきらめく相手側のシルドにひびが入っていく。
あれが完全に砕け散ればこちらの勝ちだ。
しかし勝負の展開にしびれを切らしたのだろう、今まで防御に徹していた方の相手選手が、焦り顔で黒樫の杖を振り上げた。
その先から、この試合最大級の火炎の渦が噴き出す。
メイタロウが慌てて氷の防壁を張るが、その防壁を溶かすような炎の猛攻だ。
透明の氷の向こうに、真っ赤な火花が散る。
しかしロドの集中は途切れない。
目の前で紅蓮の炎が渦巻いていても、自分の術に集中したまま。
予選のときも本選の今も、その集中力は変わらない。
一体何者だ?
メイタロウはロドと出会ってから何度目かの疑問を抱いた。
本戦第一試合を終えて会場のロビー。
メイタロウはさっきの勝利を一人考察していた。
相手は弱くはなかった。最後の、途切れない炎の猛攻は実に見事だった。
……メイタロウが張ったバリアの内で、自分の技を完成させたロドが、相手の術を全て押し返すまでは。
ハイドロカノンのような水の放流は、メイタロウが今までにほとんど見たことがないような大技だった。火炎は一気に蒸発し、砲撃のような勢いを持ったロドの水流は、相手のシルドを即座に破壊してしまった。
試合はこちらの勝利だ。
相手の術を浴びても揺るがない圧倒的な集中力。集中してから術が繰り出されるまでの速さ。何より相手に向かって飛んでいく攻撃術の強度。
最後まで全てにおいてこちらが相手を上回っていた。それもこれもとなりに座る女性、ロドの力だ。
ここまでを思い返す。
メイタロウが足を震わせていた予選一回戦を余裕で勝ち抜き、そこから一気に予選ブロックを突破してしまった。
予選では、ロドは相手にまともな攻撃をさせる隙さえ与えなかった。防御用のバリアを張る余裕も与えなかった。ペアの部だというのに、メイタロウはほぼ何もしていないに等しい。
……この感じはまるで。まるでとなりに。
いや、彼女をそう評するのはまだ早い。
魔術師には相性がある。氷系の魔術を得意とする者が強大な炎系の魔術師に当たれば、当然試合は一方的なものになる。
長い集中を要する大魔術ばかり使う魔術師が早撃ちを主義にする魔術師に当たれば、実力が上でも苦戦させられることがあるのだ。
今回はたまたまそういう相手に当たり続けただけなのかも知れない。
しかし奇跡は続いた。
「ストーンブレイド!」
相手が叫び、散り散りの石の破片が凄まじい勢いでこちらに向かって飛んでくる。
そのまま衝突を許せばこちらのシルドはもたなかっただろう。
「アイス」
ロドが呟く。
地面から生えた氷柱が、飛んでくる石を包み込みその場に縫い止める。
相手の焦る顔が、フィールドを挟んで離れた距離からでも分かった。
「ストーンブレイド!」
「フレイムランス!」
しかし相手も焦ってばかりではない。叫びと共に飛んできたのは、二人の魔術師の合わせ技だ。
石の刃と炎の槍。燃え上がる真っ赤な石の刃。
それが空中で一つとなってこちらのシルドに降り注ぐ。先程のように、氷の術一つでは対応しきれないだろう。
氷が炎に溶かされ、石の刃がこちらのシルドを貫いてしまう。
ロドがそれに動じたかというと。
「……」
彼女が呟いたのはただニ単語。
「ウインド。アイス」
風が炎を消し、氷が再び石の破片をかためる。
間断なく発された術。二つの術をほとんど時間差無しで出すというのは至難の業だ。
それを何でもないことのようにやってのけるこの人は一体……。
いや、今は試合に集中だ。
ロドが杖を構え直す。
さあ、こっちの攻撃だ。
「ブリザード」
猛烈な、風と氷の合わせ技の嵐が相手二人を襲う。
試合の結果は想像に難くないだろう。
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