第11話 試合開始
選手登録から数日後。ついにその日が来た。来てしまった。
競技魔術大会ペアの部予選会当日。
そして来たのは『その日』だけではない。
なんと大会当日、ロドが我が家の戸口までメイタロウを迎えにきてくれたのだ。その日も家に閉じこもっているつもりだったひ弱な魔術師を迎えに。
そのまま何だかんだで会場まで付いていき、いつの間にか出場選手受け付けを通り、知らぬ間に競技フィールドの前に立っていた。
どうしてそんなことになったかって。すべてはロドが颯爽とメイタロウの前を進み、結構な腕力で彼を引っ張って引きずり続けたからだ。そうじゃなきゃこんな所に来るはずがない。
ハッと我に返れば、そこは懐かしの魔術競技用フィールド。
魔術師と魔術師が魔力をぶつけ合い、戦いによって腕が試される場所。
相手選手が入場してくる。
予選初戦ということで観客はまばらで、フィールドの近くにいるのは二組の魔術師達と審判だけだ。
それでも……。
本当にどうしてノコノコこんな所まで来てしまったのだろう。
立っているだけで吐き気が込み上げてくる。
足が震えた。
先日グラス部分を無くした眼鏡がやけに新鮮に試合の緊張感を捉えている。
フレームだけになった眼鏡だが、癖でかけてきてしまったのだ。傍から見たらグラスのない眼鏡をかけた変な野郎だろうが、視界が開けているのは緊張するから仕方ない。
いや、眼鏡があってもやっぱり緊張はする。握った杖に汗が伝った。
競技場の出口を振り返る。帰りたい。今すぐここから。
逃げ出したい。今すぐに。
だが、競技場の出口の扉を振り向こうとして目に入ったのは、
「…………」
となりでふうっと息をつくロドの姿だった。
集中している。いやため息をついただけにも見えるが、とにかく慌てた所がない。
張り詰めてもいない。だって、
「お腹空いた」
「はあ……?」
「終わったらりんごパフェ食べに行こう」
はあ?
そう心の中で呟いている間に、試合開始のアナウンスが入ってしまった。
競技用フィールドへ、二組の魔術師達が進み出るように促される。
もう逃げられない。メイタロウも渋々アナウンスに従った。
魔術師達の準備が整うと、フィールドの真ん中に現れた審判が高く腕をかかげた。
「出自にとらわれず、各々正々堂々と勝負を。杖に闘志を
それは魔術師が戦う前に行われる神聖な宣誓。
大人の試合でも子どもの試合でも、公式戦でも野良試合でも、とにかくどんな試合の前にも唱えられる、お決まりの口上だ。
杖に闘志を
お決まりだが、これはこの『完全実力主義魔術師社会』の全てを表す口上でもある。
魔力を示す。上にのぼる。上り詰める。魔術師達が戦う唯一の目的だ。
しかしメイタロウが今ここで魔力を示せるのかは……。
今の内にロドに謝っとこうかな。僕のせいで負けてごめんって。
そんなことを思案している内に、いよいよ試合開始のゴングが鳴ってしまった。
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