【側近の手記】

【1】

私はあの新薬を打つ。

ここに、あの方と、新薬についてのすべてを残そう。


【2】

2003年、あの病を、どうして封じ込められなかったか、

2010年、どうして爆発的流行を迎えたか、

それは政府が人間を相手にすべてを行ったからである。

愛が絡み、金が絡み、恨みが絡み、利権が絡む。


【3】

あの方は、あの新薬で自分以外を人間と扱うのをやめたのである。

あれは、厄介な猫だ。あれは、従順な犬だ。あれは、数多の鼠だ。

新薬とは、思考力を奪い、想像力を失くし、探求力を削ぐ薬だ。

人を人でなくすための装置だ。


【4】

ある側近が「あの人は魔王にでもなるつもりか」と言った。

私は、その人間を、猫と扱うことを決めた。

私の伴侶は聡明であり、自ら猫にはならないと豪語していたから、

いつかこうなるとは思っていた。


【5】

結論から言おう。

私は彼女を猫と思えなかった。

彼女が、私を慮らず、私を介さず、

私と理解し合おうとしなくなっていくのが耐えられなかった。


【6】

あの方は言った。

「ありがとう。君はいい犬になるだろう」

あの方は、あの方以外の全ての人間を、

救おうとしているのである。

私をも、楽になっていいとおっしゃった。


【7】

昨日、私はあの”人”に、最後の相談をされた。

あの方が、すべてを管理し続ける、機関としてあり続けるための方法。

私は、耐えられなかった。あの方に言った。

「あなたは、この世界を永久に耐えるのですか」

あの方は、力なく楽しそうに笑った。


【8】

「魔王」という妻の例えを思い出す。

これを読んで、君に何か思うことがあれば、

それは君に人間としての何かが残っているという事だ。

君が、愛する者を守り、共に歩まんとする勇者ならば。

どうか、あの方を倒して欲しい。


【9】

あの、全てを殺した魔物を、全てを愛した魔王を、

どうか、どうか、人間に堕としてくれないだろうか。

君が人であるなら、どうか、あの人と、

(水滴で滲み解読不可)

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