第15話 目標、ヨーロッパ
自衛隊との戦闘を切り抜け、壮大な目的のために進み始める。
すると『属性』を手に入れてしまった地である、名古屋駅についた。
そこで見た人の姿に既視感があった。
「あれは…」
宙に火を噴射しながら滞空する人間を見た。
あの姿は…
「世垓…功次様…」
この状況で外に出ている奴は、相当変な奴だとは思うが…。
明らかに目が合っているんだよな。
少し…降りてみるか。
そこに…偶然か必然か。
本来敵対するはずの双方が再会した。
「お前は…」
「お久しぶりでございます。世垓功次様」
片や世界を滅ぼしえる脅威。
片や世界を守護しえる未来。
その二人は何を話すのか。
「私は、緋瀬伊久。あの日、貴方に助けてもらった者です」
「あぁ…覚えてる。名前は知らんかったけどな」
「ずっと…お礼が言いたかったのです」
「…別にいいんだぞ?正直助けたっつっても、思うようにうまくいかなかったしな」
『属性』がなけりゃ、とうに失っていた命だ。
パッと見りゃ、カッコつけて助けようとして返り討ちにあっただけだから、そりゃぁダサいよな。
「あの日、助けて貰えなかったら私はどうなっていたか分かりません。誰も皆、問題に関わろうとはしません。そのため誰も救いの手は差し伸べてくれない中、功次様だけは…」
「あぁ、あぁ、そんな気にすることないって。…というか、なんでこんなところにいるんだ?今の状況知ってるのか?」
ここまでの移動中、誰も見なかった。
それは俺が接近していることによる避難指示が出ているからだ。
だからこそ、母さん達も避難所にいたのだ。
そんな中、何故外にいるんだ?
「功次様にお礼を言うため…。それと…」
伊久は何か言い淀む。
「言いづらいなら、俺も一言良いか?」
そこで少し思っていたことを言うことにする。
「俺の存在のことは分かっているはずだよな?怖くないのか?」
恐らく俺の情報が知れ渡っていないはずがない…というか、伊久を助けたときに俺はこの力を覚醒させたんだ。
知らないはずがない。
それなのに、何故こんなところにいるんだ?
「怖いはずがありません。この命を救っていただけた恩人にそのような感情は抱きません」
「それが一撃で何万人もの人間を消し飛ばすようなやつでもか?」
軽い脅しのように、問いかける。
「私の信じる功次様は決して自らの意思でそのようなことをしないはずです」
「…何を根拠に…!?」
正直、これ以上この件に関わらせるべきではないと考えて強く反論しようとする。
しかし、目の前にいる伊久の目は真っ直ぐと俺を見据えていた。
そこには確かに強い何か意思を感じる。
「先程、私が言いあぐねたことをお伝えします。それは、私に協力させて欲しいのです。功次様の目的達成のために」
「…はい?」
俺はその提案に言葉を失った。
「協力?俺とか?」
「はい。私も自分なりにあなた達、超人類…いえ、『属性者』でしたね。それについて調査しました」
「っ…何処まで知ってる?」
まさか、この俺らとは一切関係がなさそうな人間から『属性』の言葉を聞くとはな。
この子、ただ者じゃない。
「それほど多くのことは分かりません。しかし、最低限のことは分かります。何を言おう私の両親は国際連合属性対策委員会の人間ですので」
俺はそこで聞き馴染みのない言葉を聞いた。
国際連合属性対策委員会?
国際連合と付いているから、その機関の一部なんだろうが、そうなると世界は『属性』という概念を把握していたことになる。
だが、それなら何故この世界にはそれが浸透していないんだ?
「その、国際連合属性対策委員会ってなんなんだ?」
「国際連合属性対策委員会…通称、国属対を知っている者は極めて少数です。それこそ所属している者以外は知らないと思います。私も知ったのはここ最近の話です。役割としては名称の通り、『属性』に対する国連の組織です。どうやら『属性』を持つ人間は少数ですが古くからいたようで、数々の神話や伝記に登場する超人的な力を持つ者は総じて『属性』を有していたのではないかといわれているそうです。しかしこの『属性』という力は非常に危険であり、現在世界中に出現している者達が例として分かりやすく一国が総力を上げてやっと対処できるような存在。それらが人間の文化や技術を滅ぼさないようするため、またその力を利用し人類の発展のために転化しようと動いているのが、国属対なのです」
「まさか、そんな機関があったとはな。んでも、なんでその『属性者』と敵対しそうな機関の娘である伊久が俺とこうやって話してるんだ?…いや、協力するって言ってたな、俺と」
その国属対とやらの今の説明では、俺と伊久は本来敵対する立場のはずだ。
ただ感謝するだけという目的では、ここに立っていないだろう。
「はい、協力させてほしいのです。功次様が、このタイミングでこの日本に戻ってきたのは何かしら目的があると思っています。私は、『属性』の調査をしていて気が付いたのは、皆が皆自身の欲のために動くと思っていません。それは功次様の目的に関連するのでは?」
「…マジか。よく分かったな」
「これでも多くの人間を見て、多くの思考を知ったので、何となくの予想です」
そう言って伊久は軽いドヤ顔をする。
こいつはこいつで結構いろんな経験をしてきたんだろうな。
まぁ、これだしお嬢様学校に通っているくらいだし、俺が知らない世界だな。
「教えてください。功次様の目的は何ですか?」
「…正直この目的に乗れば、お前の人生は棘の道になるぞ」
「覚悟の上です」
もう一度伊久の目を見て、その奥に強い覚悟が見えたので俺は目的を伝えることにした。
だが、元より一人で達成すべきことなので、これを聞いたうえで協力しないと言われても別に気にすることはなかった。
だが、邪魔だけはしないで貰いたい。
それくらいの気持ちだったが…
「…それが、功次様の目的なのですね」
「あぁ…正直、覇道を行くことになる。あまり、賛同されたものじゃない」
「それ以上に、私は…その道を行けば功次様の身は…」
その少し悲しそうな顔をする伊久に、当事者である俺は言葉をかけられなかった。
「…これしか俺の頭じゃ考えられない。だが、今の混沌とした世界には絶対的なシステムが必要だ。俺の命一つで、これからも続いていく人類文明で失われる命が、一つで減らせるのなら充分だろう?」
「それでも、功次様が命を懸けるほどの価値がこの世界にあるんですか?」
伊久の問いかけに俺は少し黙る。
「正直に言って、無い」
「なら、他にも手段は…」
俺の進む道を、やはり止めたい伊久の言葉を俺は遮る。
「どのみち、今の世界中で暴れている『属性者』に対応できるのは俺だけだ。伊久も言ったとおり皆が皆聞き分けが良いわけじゃない。同じ人間として言葉が通じて、それで意志も変えられるのなら苦労はしない。だが、そうもいかない馬鹿が多いのがこの世界だ。馬鹿に付ける薬はないというように、言葉で聞かない奴には力でねじ伏せるしかない」
それが今までの人生で培ってきた俺の考えだ。
馬鹿ほど声は大きく自身が大衆の意思のように叫ぶ。
それが社会的に、道理的に間違っていたとしてもだ。
馬鹿を放置する時代は終わった…いや、俺が終わらせる。
「俺は俺の思うまともに生きる人間のためなら命を懸ける意味はある」
「…分かりました。では、私もそのために動きます」
「あぁ、任せた。伊久みたいな政界に詳しい奴がいると、俺の目的もより充実したものになる」
「はい。では、また会いましょう。…会えたら、ですが」
「そうだな。次はロンドンで会おう」
「…いつになりますか?」
「さぁな。ま、とりあえず最長でも1か月で主要国家の『属性者』を捻り潰す。それが出来るかによって、この計画は決まる。後は頼んだぞ」
「お任せください。全力を持って当たります」
そうして伊久と固い握手を交わす。
本来敵対するはずの立場の二人が、思わぬ運命に従って協力する。
そのための約束の証であった。
「また会おう。『ブースト』!」
「行きましたね。満足ですか?」
ずっと静かに見ていたメイドが聞いてくる。
「そうですね。彼は、功次様は大きな目的のために歩き始めました。私は、彼に命を救われた身としてそのサポートにこの命を賭します」
「私も、お手伝いしますよ。ここまで来てしまったんですから」
「ありがとう。…では、行きましょう。時間は一刻の猶予もありません」
私たちはまた車に乗り込んで、誰かに発見される前にこの場を去った。
功次様。
任せてください。
貴方の望む世界のために、微力ながらでも尽力しますので…。
どうか、命だけは持って再会しましょう。
思わぬ再会と、思わぬ協力者を得た俺は、そのまま愛知を抜け滋賀、京都、兵庫、鳥取の上空を飛び続ける。
向かう先は、中国だ。
俺の探知ではここにもかなりやばそうな奴がいる。
俺の目的の第一歩として、こいつを沈めなければならない。
どうやら、かなり西側の砂漠地帯にいそうだ。
何故そんなところに…。
いや、それも重要だが、まずは俺の思う懸念の芽を燃やしておく必要がある。
現在の自衛隊…特に海上自衛隊は俺との戦闘で多くの弾薬を消費した。
そんなすぐに補給されるようなものではない。
その間に、他国から攻撃をされるなんてことがあったら、大勢はどうでも良いにしろ母さん達や真式といった友達に何かあってほしくはない。
それにもしそんなことがあれば、俺の計画の協力者である伊久に何かあっても困る。
そのため少し進路を外れ、朝鮮半島に向かう。
韓国…竹島問題で色々ごちゃついているが、それよりも厄介なのがいる。
それは朝鮮民主主義人民共和国…北朝鮮だ。
こいつらは、よくミサイルをこっちへ飛ばしてきやがるからな。
いつ何があってもおかしくない。
生憎と俺も化物といえど日本生まれでな。
母国に何かあったら黙ってはいられないんだな。
「えーっと…どこだ?」
北緯38度にある軍事境界線を、強化された視力で探す。
テレビとかで見たものを探す。
…あれだな。
見つけた両国兵士が睨みあっている軍事境界線より北に向けて構える。
しかし、そこでまた新たな考えがよぎる。
…こっち側から攻撃すれば、韓国や日本から攻撃されたとかいう名分を与えるのはないか。
それを考えると、この南側ではなく北側から攻撃した方がいいのでは?
1分ほど考え、北側へと急速飛行した。
正直、中国との国境線なんて知らないから大体でいいだろう。
というか、中国は恐らく『属性者』の対応に追われているはずだ。
結構やばい気配がしたからな。
「…っと、ここいらでいいか」
ある程度北上し、完全に北朝鮮の領域内で滞空する。
本当は攻撃できないよう無力化するだけでいい。
それなら軍需工場とか基地などを集中攻撃すればいいんだが、生憎とそれがどこにあるかなんか分からないから、総じて痛い目を負って貰うぞ。
あとは指揮系統を叩くという手段もあるが、それも分かるわけない。
だからこそ自国の対応に追われる状態にするには、ここが一番だ。
一番人が多い地域を狙う。
『熱源探知』に非常に多くの人間の熱源反応のする地域がある。
おそらく首都の平壌だ。
「時間も惜しいんでな。早めに終わらせるぞ」
身体の奥から重く熱いエネルギーを沸き上がらせる。
「『反物質熱線』!」
黒い熱線は真っ直ぐに平壌の北側に着弾する。
着弾した地点で強力な爆発が発生し、そのまま黒い炎が扇状に地を這う。
接する建造物、人間、全てが焼却されていく。
心を痛めないわけではないが、強い力を欲せば、さらに強い力、強い敵を相手にすることになる。
強い軍事力を持てば、こういうこともあるという事だ。
5分ほど『反物質熱線』を吐き続け、平壌の8割が壊滅した。
大地の表面温度はゆうに1200度を超えていた。
相変わらず、この力の恐ろしさを本人が自覚している。
さて、これで懸念の芽を燃やすことが出来たので、本来の目的である中国西部へと向かうことにした。
「…?」
朝鮮半島北部からそのまま中国領域内に入って、あることに気づいた。
視界が黄色い。
排気ガスとかで大気汚染とかそういう次元ではない。
まともに前が見えない。
それに『熱源探知』に人間が感じられない。
あの世界トップクラスの人口を持つ国で人間が感知できないのは明らかにおかしい。
分かりづらいが、自分の下の方には都市が広がっていることは分かる。
少し降りてみるか。
慎重に地上へと降り立とうとしたが、おかしなことに気づく。
明らかに地上が近い。
体感では地上から2kmほどの高度を飛んでいたはずなのに、すぐ地上へと着いた。
それに地面の感触がおかしい。
これは…
「砂?」
しゃがんで地面にあるものを掬うと、サラサラと舞っていく。
中国でこの黄色い砂…黄砂か。
内陸部に広がる砂漠から偏西風に乗って飛んで来ている…はず。
だが、これはいくら何でも次元が違う。
十数mにも降り積もるなんてあり得るのか?
それに、さっきから空に広がって視界を悪くしている黄色いのは全て黄砂なのか…?
しかし、中国の領域に入るまで一切こんなものは感じなかった。
ピンポイントで中国東部の都市部が埋もれているようだ。
北京や上海、南京といった東部全てが完全に黄砂で埋もれている。
こりゃ人間がいないわけだ。
生身の人間が生きていられるような環境ではない。
普通なら目や呼吸器系が使い物にならなくなっているだろう。
「これも…『属性』の仕業かよ…」
明らかに自然環境を激変させるほどの存在だ。
下手したら俺の火属性よりよっぽどやばそうだ。
いきなり計画が頓挫しそうな、嫌な予感に苛まれながら俺はこの状況を作ったであろう元凶の元まで向かった。
場所はゴビ砂漠。
「くっそ…マ…ジか」
『属性者』がいるだろう砂漠内部の方へと距離が縮まるにつれ、風が強まっていく。
自然の風なわけがない。
これは…明らかに操作されている。
おそらく…いや、確実に『属性』が関係している。
先程まで秒速150mほどの速度を維持していたが、もはや風に負けて押し返され始めた。
もっと出力を上げなければ、進むことも困難になる。
「出力上げ!」
秒速200mほどまで一気に加速する。
それでも集中を切らせたらバランスを崩しそうだ。
中国・北朝鮮の国境から約2000km。
ゴビ砂漠という広大な砂漠の中心で、全ての砂を巻き上げんかとする勢いで風を操る者がいた。
「
秒速80m超えんとする強風に乗って次々と、砂が南へと向かう。
その向かう先は、中国東部都市が広がる地域。
既に人の住む世界ではなくなったが、絶えずに砂嵐が吹き荒れる。
そこであることに『属性者』は気付いた。
何者かが高速で接近していることを。
そして、その気配を『属性者』は知っていた。
なので吹き荒れる風を一度止めた。
「っ、キッツ…って、何ッ!?」
いきなり風が止んだぞ。
こんなの自然現象な訳がないから、きっと先にいる『属性者』なんだろうが…何故止めた?
まぁ、いい。
止めてくれたのなら進みやすい。
話が分かる奴だといいんだが…な。
そう感じながら、徐々にその『属性者』との距離は縮まっていく。
視界は宙を舞う黄砂のせいで非常に悪いため、『熱源探知』がなければ距離感も分かったものではなかった。
そして充分に近付いたので、ゆっくりと地面へ降り立つ。
ぜっんぜん、見えない。
もうちょっとのはずなんだがなぁ。
すると、遂にその姿を視界に捉えた。
砂漠の真ん中でただ一人立つ男だ。
こいつに違いない。
「お前か?この黄砂の嵐を引き起こしている元凶は」
どんな攻撃が来てもいいように、警戒を最大にして話しかける。
相手が日本人じゃないから言葉は分からないと思うが、少なからず対話の意志があるということさえ伝わればいい。
そのように考えていたが…
『そうだ。私がこの事象を引き起こしていた。迷惑をかけたな。日本の強き人よ』
「なっ!?」
どういうことだ?
相手の口の動きを見るに、聴こえてきた音声とは異なる動きをしている。
それなのに、俺の耳にはハッキリと日本語として伝わっている。
「…あんたは、日本人なのか?」
パット見でもわかる日本人ではない。
格好からしてイスラム教系統か?
四角い形の刺繍の入った小さな帽子に、ローブを羽織っている。
とても日本人には見えん。
だが…なぜこんなにも正確無比の日本語が聴こえているのか。
これも『属性』の影響なのか…?
なら、なんでジョンとは上手くいかなかったのか?
分からんな。
『私は日本人ではない。聞いたことはあるか?ウイグル族を』
「ウイ…グル…」
ウイグル民族…か。
確か中国が虐殺・迫害している民族と聞いたことがある。
あの砂嵐、そして砂に埋もれた都市部を見ればわかる。
これは、こいつの…いや、ウイグル族の反撃なんだろう。
「ちょっとは、な。そこまで詳しくはないが」
『ならば話は早い。少し私と話をしないか?』
「話?」
『そう警戒しなくていい。私は君と争う気はない』
暴風は止んだが、宙を舞っていた砂が完全に南の方へと去っていった。
そして、ようやく日の光が差し始めた。
『私の名は、アルキン・メメットという。君の名は?』
「俺は世垓功次だ」
俺らはこの眩い日光の下で、砂をクッションにして話し始めた。
どうやら、アルキン・メメットという名らしい。
多分、先に来るのが名前で、後が苗字だよな?
「いくつか聞きたいことがあるんだが、いいよな?」
『それは私も同じだ』
「じゃあこっちから。まず、ここで、何をしていた?」
『私は、我らがウイグルを救うために機会を窺っていた。そして、ついにこの力を得ることで、その機会を与えられた。だが、
「なに?」
俺が…?
いや、合ってるか。
『君が日本で力を使った気配、私にも感じられた。それは、中国政府も注目していたんだろう。我らへの意識が薄れた隙をついて、私はこの力による反撃を開始できたのだ。感謝したい』
「そんな感謝されるようなもんじゃない。俺だって偶然だ」
自衛隊の補給が終わり、防衛が出来るまでの時間稼ぎとして、ある程度この中国という国にもダメージを与えておくつもりだったが、俺が手を下す必要もなくなったな。
俺もこの国はあまり好きじゃないが、自分たちがやってきた行為の結果だ。
国家の方針で関係ない国民も犠牲になっただろうが、同情はしない。
俺も場合によっては、復興にむこう何年必要な程度には殲滅していただろうからな。
『さて、一旦私の言いたいことは終わったが、君はどうだね?何故、ここに来たのか。きっと何かしら目的があるだろう』
「そうだな…」
そこで俺の目的と、これから行う事を伝える。
『ふむ…実に大層な望みだ。無謀さは私以上だな。成功する確率は極めて低いだろう』
「分かってる。だが、これは俺にとっても、あんたみたいな人たちにとっても、意味のあることだ」
『…君と協力することは、この世界の未来を大きく変えうる。…だが、協力するには信用というものが必要だ。そこで君には一つ成してほしいことがある』
「なんだ?それは」
別に覚悟は決まっているからこそ、何をしろと言われてもやれるが…死ねと言われたら無理だがな。
『奴らに君の一撃を与えてほしい』
その言葉に俺は一瞬固まった。
だが、すぐに口を開く
「中国の奴らか。でも、既にあんたが砂に埋もれさせた時点で、国家としての機能は死んだも同然だが、追い打ちだな。ま、その程度で協力してくれるなら、やるさ」
「『ブースト』!」
「
二人して、中国の中心地へと飛行する。
アルキンは自身に上昇気流を纏わせて飛行している。
おそらく『属性』は風だ。
俺以外にも『属性』を使って、空を飛ぶようなやつがいたのか。
というか、普通に中国という大国家を短期で終わらせた時点で、こいつは相当な能力を持っているんだろう。
まともに戦っていたら、俺もただでは済まなかっただろうな。
対話できるようなやつで良かったな。
『属性』を持った奴が協力してくれるとなったら、俺の計画の確度も上がるというものだ。
南南東の方へと飛行し続け、俺の一撃が最も最大化する地点を目指す。
どこかいつもより『ブースト』が速い。
いつもより速いのは、隣で並航するアルキンが風を起こすことで、俺の火にいつも以上の酸素が供給されていることによって影響が出ているんだろう。
音速に近い速度で飛行し続け、45分。
山西省の臨汾市へと来た。
ゴビ砂漠からここまでかかるとは、中国大陸の大きさを感じる。
やはり東部方面は完全に砂の王国と化している。
とても人が住めるような地域ではない。
これが過去に人口世界一を誇っていた国とは思えんな。
『ここは奴らの中心部から離れているが…』
「ここでいいんだ。ここなら俺の一撃が全て入る。あんたの自治区にも、俺の母国にも影響なくな」
『了解した。その勇姿、この目に焼き付けよう』
アルキンが充分離れるまで、エネルギーを溜め続ける。
ゆっくりと、自分の体温が上昇し始めるのを感じる。
『属性』の出力を上げると、炎の色が赤から蒼、蒼から黒へと変化していく。
そこ頃には、周囲も温度が上昇し続け、陽炎が生じ始める。
ここまで出力を上げると、体への負担が大きく長時間使用することはできない。
だが、これを長時間使えるようにしなければ、これからの戦いを生き残れない。
愁那にぶつけた時とは違う。
どれだけ危険であっても、コントロールして見せる!
「はぁ~…『ハイパーノヴァ』!」
そこに神を見た。
そこに星を見た。
蒼き太陽かと見違えるほどの大炎が大国を包む。
北京や上海といった、主要都市全てが灰塵と化した。
『…何という熱気だ。もっと離れなければ、早々に命を落とす』
若き者が大志を抱き、呪われたヒトという種に歯向かおうとしている。
彼ならその無謀な夢も叶え得るだろう。
「はぁ…はぁ…」
溜めたエネルギーを放出しきり、どっと疲労が襲う。
やはり…まだ、完全には使いこなせないか。
「いっつ…くっそ…」
突然、空から鋭い雨が降り注ぐ。
これは…ガラスだな。
降り積もった砂が宙へ衝撃波で舞い、超高温によりガラスへと変化し雨として降り注いだ。
体に複数が刺さり、切り、ダメージを負わせる。
『東へ行け『
降り注ぐガラスの雨は全て灰塵の都へ流される。
『よくやってくれた。若き戦士よ』
アルキンが肩を貸してくれる。
「あんだけ…離れて…戻ってくるの速いな…」
『風は気紛れだ。速さはその時々で決まる』
「ただ単に…俺が吹き飛ばした空気が…戻ろうとするのに…乗ってきた…だけだろ?」
『面白くない男だな』
「悪いな…そういう人間なんだ。…もういいぞ、放しても」
そう言うと、アルキンが肩を放してくれる。
『ブースト』を維持するだけのエネルギーは回復したからな。
「んじゃ、約束通り協力してくれよな」
『君の覚悟、見せて貰った。私も君の世界実現に手を貸そう』
そうしてアルキンと固い握手を交わした。
「もうちと、色々と話してみたいことはあるが、そう時間がないんでな。もう出発することにするぞ」
『私も君について知りたいことが多いが、下手な情を持っては計画に支障が出る。あくまで協力という関係で止めておくのが吉だろう』
そこで、互いに強い決意を持っている目を合わせて意志を確認した。
「『ブースト』!」
功次が再度目的地へと向かって、飛行を開始すると、その背を見てアルキンは呟く。
『希望が、希望が行く』
属議会本部
「中国を壊滅。0、北西へ移動を開始」
「予測経路は?」
「モスクワへ向かい、ベラルーシ、ポーランド、ドイツです」
「パリへ来る確率は?」
「極めて高いかと」
露ウ戦線地域
「では、そろそろ切らせてもらうよ、ドイツ国属対くん。また会えることを願って」
連絡危機をポケットにしまい一人佇む。
「さて…充分喰った。彼と戦う準備も整った。後は覚悟だけだね」
まさか中国が壊滅するとはね…。
どうやら彼だけが原因というわけでもないようだけど、あの驚異的な『属性』の圧はここからでも感じられた。
相見える相手として、これ以上手に負えないことはない。
「あまり自国民に被害が及ぶのは、さしもの僕とて心が痛むねぇ」
それでも、彼を止めるには致し方がない。
一を捨てて九を救うにはそれほどの犠牲は必要なのさ。
慣れた地、身に合う血、それらが揃った最高の条件でないと、相手取れないさ。
中央アジア上空
「流石に遠いな」
既に飛び始めて数時間経っているが、一向にロシアに侵入できんな。
愁那のスマホでマップを見ながら移動して、ようやく中央アジアまで来た。
「ずっと日本に籠っていた身としては、世界の広さに驚かされるな」
アメリカから日本へ向かうとなると、太平洋を横断するが、道中にめぼしいものはなかったからな。
この道中でいろんな国が視界に入るが、写真などで見るとはまた違う。
「ロシア国境に入れば、迎撃される可能性はある。すぐに対応できるようにしよう」
…………………………………………
約8時間経過
そこからも継続して飛行し続けてはいるが、迎撃が来ることはなかった。
「…来ないな?」
もう少しでモスクワだが…。
俺に気づいていないのか…対応する余裕がないのか…。
『熱源探知』を使って、人目が付かなさそうな場所に降り立つ。
ロシアに俺到着。
「ここがモスクワ…か」
大国ロシアの首都。
そこそこの活気はあるか。
こんなところに日本人がいることは違和感なのか、視線を感じるが気にしないことにしよう。
…おかしいな。
このモスクワに『属性者』がいる気配がしていたからこそ、来てみたのだが…一向にその姿を見せない。
ロシア国境を越えた辺りから、『属性』の気配を感じられなくなった。
一体どこに…。
適当に歩いていると、クレムリンという世界遺産に来ていた。
ロシア連邦大統領府や大統領官邸が置かれているらしい。
本当に中心地に来たな。
…俺は別にこんな観光に来たわけじゃあないんだが…。
すでに『属性者』はここを去ったのか?
なら、ここに滞在する必要もない。
次の目的地まで移動を始めてもいいか。
「骨折り損か。じゃ、『ブー…』」
「ちょっと、待ちたまえ」
めちゃくちゃ周りに人がいるが、どうでもいいとして飛ぼうと思った直後、背後から声を掛けられる。
…日本語?
「俺だな?」
「キッヒヒ、そうだ、そうだね。君だ」
声のする方に振り替えると、なんとも邪悪な笑みをした男がこちらを見ていた。
きっちりとしたスーツを着ていて、その顔つきは日本人ではなく西洋のそれだった。
「流暢な日本語だな」
「お生憎と仕事上、世界中の言語に対応してるからね。ま、覚えるのには苦労したさ、日本語はね。君の想像通り、僕はロシア人さ」
「んで、そんな人が一体何の用だ?」
「君、今あれを使おうとしたね?『属性』を」
「ッ!?」
こいつ…知ってるぞ…。
ということは…
「お前、『属戯会』の奴か」
「『属戯会』?なんだね、それは」
「…は?」
なに…『属戯会』じゃないのか?
ならどこで…
「僕は『国際連合属性対策委員会:ロシア代表』、クレート・イヴァーノヴィチ・スミルノーフ。よろしく、世垓功次くん?」
火属性を手に入れたら世界を敵に回したんだが クロノパーカー @kuronoparkar
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