第13話 属戯会
功次対愁那の戦いが終わり、次の日。
ジョンとともにフランスにある属戯会本部についた織原はしばしの休息をとっていた。
「おはよう!織原姉!」
「おはよう…ございます…、織原さん」
功次という強大な相手との戦いを終え心身ともに疲弊していた織原は本部に着くや否や気を失い寝ていた。
目が覚めると、どこかの個室。
その横で共に寝ていた二人の子供に、寝覚めの挨拶。
「…おはよう。
織原は安心したように二人の頭を撫でる。
双子も嬉しそうにそれを受け入れる。
「目覚めたか」
私は全身の筋肉痛を耐えながら、会議室に向かった。
そこには未だ名も知らないNo.016がいた。
「もうちょっと寝ていたかったところかしら。ただ私の知らぬところで二人に何かあると思ったら不安で仕方ないの」
「そうか。だが、思い入れ過ぎるのも気を付けた方がいい。我々はこの『
「…以前ならその言葉に対して噛みついていたところだけど、今回の戦いでそれが身に染みた。日本支部であの子達が世垓くんに殺されなかったのは運が良かったと思える」
昨日の戦いは過去に類見ない『属性』を用いた戦いだった。
本来であったら私はこの世にいない、その戦いの渦中で生き延びて帰ってこれたのは運が良かったとしか言えない。
功次くんが出現させた『属性』による生物。
それは功次君ほどではないにしろ、、並みの『属性者』であれば5、6人を相手しても勝てるか怪しいほどだった。
功次くんが相手だったら確実に死んでいた戦い。
結局狙いが兄妹同士になったことで、助かったといえる。
「…ところで、No.001は?あの子達を預かってくれた例とか言いたいのだけれど」
「あの男ならばお前が回収したJを教育している」
「教育?」
「あぁ。J…いやジョンとやらは上位種移行前の0を圧倒した。その素質は大きい。0とS、この重要な二つが手元にない今、次の調査対象はJだ」
そういえば、ここに来る手段として功次くんとの戦闘に生き延びた『属性』重力であるアメリカの少年、ジョンくんを使ってここまで来たことを思い出した。
ここに無事到着して、あの子達の姿を見た瞬間気を失ったはず。
ジョンくんのことをすっかり忘れていた。
『では、ジョン。僕たちに協力してくれて感謝するよ』
『俺はあのコージともう一度戦い勝利できるなら、なんだってするぜ』
『彼に勝つためには知識が必要だ。君のその力は彼よりずっと強い。知識さえあれば君は彼に勝てる』
『分かったぜ。お前たちの知ってるコージに勝つための知識、教えてくれよ』
『もちろんだとも』
「本当に教育のようね。授業みたい」
私はモニター越しのNo.001とジョンくんのやり取りを見てそう口にする。
「私では教育の方向性を誤る可能性がある。さらに私に英語という言語を用いるにはいささか能力がない」
「なんだかんだいって、あなたも『属性』の恩恵を存分に受けているわよね」
「あるモノは総じて利用する。長くこの力を用いれば為せる事も必然と増える」
『では君や功次の扱うその力について復習をしていこう』
『分かった』
『まずこの力を僕たちは『属性』と呼んでいる。この宇宙に宿りし神秘の力を顕現することが出来る。その規模に大小あれど、強大な力を有し一人で国家転覆すら狙うことが出来る代物だ』
『…なら、俺やコージは宇宙に選ばれた人間という事か』
『そうともとれるね。ただこの力の初出については未だ分からない事が多い。いったいいつからこの力を持つ人間が現れ、どれだけの人間がこの力を有しているのか。少なからず我々が把握している『属性』を持つ人間で最も古い人間は1926年からつい最近までこの力と共に生きていた。ただこれ以上前から『属性』が存在していたかは不明だ』
『1926年から?相当長く生きていたな』
『そう、これは『属性』による恩恵だ。人間の常識、限界を超えた存在へと昇華させるんだ。『属性』を得た者がどこまで生存することが出来るのか、その限界はまだわからない。だが『属性』を得ると細胞の老化がその時点で停止する。これはここで『属性』を持ち研究している者の細胞を毎年検査しているが、一切の変化はなく老化が進まない。まだ最大30年ほどの検査事例しかないが、ここまで変化がないとなると、僕たちの寿命に制限はなく永遠の時を生きることが出来る、そう予測するのが妥当だろう』
『寿命がない。なら死ぬことはないってことだな?この『属性』さえなくならなければ、永遠とコージにリベンジ出来るということか!』
『そうとも限らない。制限がなくなったのは寿命というだけで、肉体はあくまで人間。自身の『属性』に耐えられるように常人よりは強固になっているが、それでも心臓や脳といった生命活動に重要なパーツが破壊されては生存することは出来ない。君もあの功次という広範囲に強力な破壊を及ぼす存在と相対してここに立っていることは奇跡だと思った方がいいだろうね』
『っ…俺はあいつに見逃されたという事かよ』
『リベンジをするんだろう?彼と一度戦闘したという経験は必ず活きる。ここには約一万人という多くの『属性者』がいるんだ。しっかりと経験を得て、リベンジを果たす。これが君の願いだろう?』
『そ、そうだな!こんなところで立ち止まるようじゃ最強の俺が廃るぜ』
『その意気だ。では、もっと『属性』というものに対する知見を深めていこう。今、僕たちは君の母国語である英語を用いて会話をしているね。だが、先の戦いのとき君は功次との会話がまともに出来なかったんじゃないかい?』
『そうだな。あいつ、何を話しているのか分からなかった』
『彼は日本人、誰もかれもが英語を話すわけではないから一切伝わらないというのは不思議ではない。だが、それも直に問題がなくなる』
『なんだ?ここでニホンゴの勉強をしないといけないってのか?それよりコージに勝つ手段を教えろよ』
『大丈夫。新たに言語を覚えるなんてことを、僕たち『属性』を持つ者同士はしなくても良いんだ。どのような仕組みにより、これが可能なのか解明できていないが、『属性者』間であれば相手が話す言葉が自身の言語に翻訳され、問題なくコミュニケーションを行える。しかしこれは『属性』を得てから時間がいる。早くても1年。君がその『
『あいつは攻撃をするときになにか話していた。それが分かれば有利に戦えるかもな』
『そう。その『属性』も用いる際に発する言葉にも…』
そのお勉強の時間は2時間にも及び、No.001はジョンに私たちの知る『属性』の特性を教えていた。
あそこまでの集中力や学習意欲の源はひとえに功次くんへのリベンジ。
まだ同世代や家族からの愛情によって、感性を育むであろう歳の子が、この『属性』によって殺伐とした環境へと適応してしまった。
何が恐ろしいと言えば、若いうちに得た身に余る力は制御に苦労する。
若い好奇心に『属性』というイレギュラーが入れば、ただのミスが取り返しのつかない規模になる。
さも当たり前のように人が死ぬ。そこに対する罪悪感も理性の欠落によって加速的になくなっていく。
この力は私やバルドさんのように十分に大人になってから得る以上に若い人が得ることに対するリスクが大きすぎる。
「織原姉、何を考えてるの?」
「え?あぁ、大丈夫よ。気にしないで」
用意した昼食にも手を付けずに固まる私を見て日狩が声をかける。
夜見も不安そうに私を見ていた。
「そう不安がらないで。ちょっと疲れてるだけ。しばらくは何もないはずだし二人とゆっくりするから安心して」
その言葉に安心したのか二人はまた料理を口に運び始める。
…『属性者』は自身の生命維持に『属性』のエネルギーを用いるため、極論では食事も睡眠も必要ない。
『属性』のエネルギーは時間経過によって自然と回復している。
しかし食事や睡眠によって消費した『属性』エネルギーの回復を速めることや、理性の欠落でも失いきれなかった人間性の摩耗を抑えることが出来るという面を見れば意味がない訳ではないが、まだ人間としての生活を捨てたくない『属性者』がこの活動を続けがち。
はぁ…駄目ね。保護者としてこの二人を預かると決めたのだから、不安にさせてはならないのに。
…流石に、ここ最近状況の変化が激しすぎる。
功次くんが『属性』を手に入れてから、連鎖的に『属性者』が各国で出現し猛威を振るい始めた。
今まではこの属戯会や中ノ村東砂のような『属性』を知る組織が『属性探知』などで即座に確保をしていた。
しかし功次くんの『属性』の規模を見誤った私は、覚醒段階で起こる『属性』が体になじむための行使という名の強力な一撃。
あれが世界中の『属性』磁場が乱した。
それがトリガーとなってか、『属性』を潜在させていた者が次々と共鳴するように覚醒した。
「「「ごちそうさま」」」
私たちは食べ終わり、一息つく。
研究所で用意された部屋で、3人の穏やかな時間は流れる。
しかしその空気を壊すように放送が流れる。
『No.128、No.243、No.256、No.729は戦闘実験区画に移動。被検体Jの能力測定を行う。繰り返す、No.128、No.243、No.256、No.729は戦闘実験区画に移動。被検体Jの能力測定を行う』
「No.001。Jは?」
「やぁやぁ。彼は現在戦闘実験に当たってもらっているよ。0との戦闘で遠巻きから彼の『属性』出力を計測していたけど、正確なデータも欲しいからね」
「結果はどうなっている?」
「そうだね。潜在能力、出力共に0、Sに劣る。しかし研究材料としては申し分ないさ。『属戯会』の中では上位に入るからね」
「…そういえば、貴様の言っていた上位種移行の条件について、教えてもらえるんだろうな?」
「うん。それは今日、19:00での研究進捗報告会で各研究員を招集して発表しようと思っているよ。しっかりと一日与えたんだ。君の考えもそこで聞かせてもらいたいね」
「あぁ」
しばしの沈黙。
「…それにしても、0の暴走は止まるところを知らないね」
大きな画面に映し出されたのは、アメリカを灼熱の炎で焼き尽くす功次の姿。
「此度の暴走、通常の暴走とは状態が異なるように感じるのは私だけか?」
「それについては僕も同意だ。彼が最初に起こした暴走は南米での、
「この状態から推測されるなら、今回の暴走…暴走ではないのかもしれない」
「それは一度考えたさ。しかし『属性』の暴走の定義は、意識レベルがないまま『属性』を行使し、目的も不明の行動を起こすこととしている。そして今は暴走と同じように意識レベルが0の状態。すなわち本人の意思が介在せず肉体のみ動いている。このちぐはぐな状態の彼がこれから起こすことは予測すらつかないね」
その言葉を言いながら、二人は再度モニターに目を向ける。
そこではゆっくりと目に映る全てを燃やし破壊しながら進む功次の姿があった。
「0、地上に降下」
「ホワイトハウスまで残り120km」
「出力上昇継続。周辺温度110℃から113℃へ上昇」
「米国、二酸化炭素減少続く」
オペレーターが状況を報告し続ける。
そこでNo.001とNo.016の二人が戻ってきた。
そして先に織原、日狩、夜見がいた。
「0の様子は?」
「飛行を辞め地上から侵攻中です」
「侵攻方向に変化は?」
「見られません。ホワイトハウスへと直進しています」
「すでに米大統領が脱出したのは間違いないんだな?」
「エアフォースワンの離陸は確認済みです」
「ならこのままホワイトハウスに向かっても無駄足になるだけのようにも思えるが」
「いや、彼の狙いが米大統領とも限らない」
この様子を見て、織原は思う。
あのただの少年だった功次くんの一挙手一投足に世界中が、『属戯会』が慌てふためく。
『属性』に人生を狂わされたのはここにいる人が全員共通。
それでも功次君ほどじゃない。
「少なからずホワイトハウスが破壊されたとなれば、米大統領の生存確認などで世間が混乱に陥るのは目に見えている。それが目的だと僕は思うね。ただ、暴走状態の行動を予測するのは困難だ。これが正解とも言えない」
そしてゆっくりとホワイトハウスへ歩く功次くんの映像を会員全てが見ていた。
「…っ!?0、意識レベル回復!出力低下!」
……………………………………………………
もう…戻れない。
もう…引き返せない。
もう…迷わない。
俺がやることは決まった。
爺さんから俺の理想を教えてもらった。
『日々、常に自分が正しいと思ったことだけを信じて生きるのだ』
東砂から現実を教えてもらった。
『人類がまともに話し合って解決する種族であるならば戦争も、差別も、格差も、犯罪もない。法律だって圧倒的な強制力があるわけではない。あくまで国を運営するのに必要な要素の一つだ。それは国際法も同じ。同族を殺してはいけない。そんなもの産まれたての猿であろうとも理解している。そしてお前も、先程まで自身の目的のためにその『属性』という武力を使っているではないか』
この『属性』という力は、俺の深層心理を表すらしい。
その通りかもな。
今、こうしてアメリカを焼いているのも、俺の目的の道の一歩。
愁那の所在もこの『絶熱源探知』でもわからない。
愁那を助けるという目的が失敗したなら、次に顔を向けるしかない。
俺が望む、俺が理想とする世界を、造れば良い。
全ての呪いと敵意が向けられることから、逃れることはできないだろう。
「俺は…俺が普通でいられる世界を望む」
地面に手をつけ、発動する。
「『フルバースト』!」
爆発と共に体が吹き飛ぶ。
目的地はこのホワイトハウス。
「『炎脚』ッ!ウォォォッラァァァッ!!!」
上空からホワイトハウスの屋根へ着地する。
屋根がヒビ入り崩壊していく。
瓦礫の山へと降り立つ。
そして大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「俺は最後まで俺を貫くぞォォォッッッ!!!」
そして天へと『熱線』を放った。
場所:アルゼンチン、ブエノスアイレス州、レコンキスタ公園
「バ……殿」
なんだ…我に声を…。
「バル…殿」
この声どこかで…。
「バルド殿!」
「…ハッ!?」
そして朦朧としていた意識を、即座に正常へと戻す。
横には全身に傷を負い出血をしている久明金盛がいた。
「貴様…ここは…?」
「ここはアルゼンチンのレコンキスタ公園と呼ばれる場所。蒼樹殿によってここまで吹き飛ばされたよう。意識は、無事だろうか?」
「蒼樹…」
そこで少し記憶を遡る。
確か…上の命令で、奴を…世垓功次を…。
「そうだ!世垓功次はどうなった!?」
久明の肩を掴み問いただす。
「お、落ち着きたまえよ、バルド殿。0については、分からぬ。『属戯会』と交信しようにも機器が故障し使えないのだ。少々落ち着いてもらいたい」
「…っ、そうか。悪かった」
掴んでいた肩を話して、一度深呼吸をする。
「いや、謝罪するのは拙者の方。0からの攻撃を防ぐ代わりに片腕を失わせてしまった。流石に再生するようなものではない。すまぬ」
久明は深々と頭を下げる。
そこで思い出した。
今の我には右腕がない。
世垓功次の一撃をあれほど全力で防御してなお防ぎきれなかった。
「…問題ない。あれは自らの意思で行った行動。悔いはない。戦場での四肢の欠損は珍しい事ではない」
「しかし…」
「気にすることではないと言っているのだ。反論せず受け入れろ。奴がしっかりと焼失面を焼いたおかげか出血を防げているからな」
「…承知した」
「それに…こうすれば一切の問題もない」
我は『属性』を失った右腕に集中させ、氷の腕を生やす。
「なるほど…『属性』にはそのような利用法もあったとは」
「考え方次第だ。感覚はなくとも本来の腕と遜色なく扱える」
右手を開閉し、近接格闘の構えもする。
多少の違和感はあるが、『属性』と付き合って数十年。
この程度できなくてはな。
「貴様の方こそひどい出血であるが」
「拙者もこの程度の傷慣れっこのこと」
「…そうか」
そうは言うが、久明の傷には奴との戦闘で負った火傷以外に切り傷が多い。
傷が新しい事から蒼樹楓理との戦闘の傷以外、そして久明の背後には薙ぎ倒された木々や植物。
これらから我より先に離れたところで意識を取り戻し、我を探す最中で負った傷と察せる。
「一応、感謝しよう」
「…何をであるか?」
「そうだな…共に戦ったこととでも言っておこう」
「それは拙者も同じこと」
そこで少しの沈黙。
その間、これからどう行動すべきかを考える。
「バルド殿はこれよりどうするつもりで?」
「一度上に状況を聞きたいところではあるが、通信機器が機能しない以上それも叶わない。そして、我々が世垓功次との戦闘で上位種を発動したことは把握されているだろう。上の目標は上位種への移行。それを申告していなかった我々を裏切りと取られるだろう」
「…そうであるな」
いつからだっただろうか。
我が上位種へと至ったのは。
我が得たのは『属戯会』日本支部へと異動する以前、ロシア支部にいた頃だっただろうか。
久明は日本支部から異動した過去はない。
条件が未だにわからないが、久明が上位種へと至ったのは2012年だったと聞いた。
「さて…これからどうしたものか…」
日本へと帰る手段もない。
我々に帰る場所もなくなったと考えていると、久明が口を開いた。
「…いっそ一度戦線から身を引き、ここで生活するのはどうか?」
その言葉に我は思考が停止した。
「何を言っておるのだ?」
「いくら『属性者』とは言え、元は人間。バルド殿も拙者も未知の力と環境に緊張状態が何十年と続いた。心身の疲労も激しい。ここで一度休息を取る必要があると、拙者は思う」
「我に休息と?笑わせてくれるな」
するととてつもない『属性』の圧を感じた。
「「ッ!?」」
そちらの方を二人で見ると、そこに青白い炎が天へと延びていた。
「…あれは…世垓功次の…か?」
「おそらく…波長や形質は同質のもの…そう感じる…」
そこから分かることは、両者とも同じだった。
………奴には勝てない………
暴走状態と同等の威力が安定して扱われるその威力を目の当たりにする。
「…はぁ~…良いだろう。貴様の提案、受け入れよう」
「ほ、本当であるか?」
「疑うな。2度も同じことを言うほどの気力は今の我にはない。ただ違えるな。これはしばしの休息。準備が整い次第、『属戯会』に戻るか世垓功次へのリベンジに向かうか決断する」
「承知した」
久明が手を差し出し、バルドはその手を取り立ち上がりこの自然公園を後にした。
長い夢を見ている。
本心ではない争いを強いられる夢。
苦しむ兄を見下す夢。
………『熱線』………
っっっ!?
「ごぼっ!?…………」
何処からか聞こえてきた兄の声に意識を取り戻す。
気づいたときには水中にいた。
深く暗い水中。
でも苦しくない。
「っ!」
暗闇から目の前に現れたのは、不気味な魚。
このままここにいるわけにもいかない。
何故か頭の中にある用語を水中で唱える。
「『ウォルスキーウォール』!」
両足の先から水流を出し、勢いよく水中から脱出をする。
そして声のした気がする方を見ると、空へと青白い炎が立ち昇っていた。
あれは…まさか…。
そしてすべて思い出す。
自分が何をしてきたのか。
精神的に、肉体的に限界を迎えたとき、体の奥からこの力が自然と発動した。
気づいたときには周囲にいる敵が死んでいた。
そしたら謎の人たちが来て…いや、『属戯会』か。
意識が朦朧としていた私はそのまま連れられて、教えられた。
『君が苦しむ環境にしたのは、兄である世垓功次だ』
そこからよく分からない注射をされたりして、全ての原因がお兄ちゃんであると考えるようになった。
ずっとお兄ちゃんは、正気じゃなかった私に声をかけていた。
聞こえていなかった訳じゃない。
体が従わなかった。
でも、もう違う。
きっと苦しんでいる。
兄妹として何年も見てきた。
あれだけ人を殺して正気でいられるほど、
今度は…私の番だ。
「0、ホワイトハウスを破壊の後、飛行。進行方向を太平洋方面に変更」
「次の予測経路を出すんだ」
もはや人ではない。
それが『属戯会』全員同じことを思っただろう。
「予測経路計算完了」
「どこだ?」
「0の次の目的地は…日本です」
「ほう…」
No.001が興味深そうにその報告を聞く。
「このタイミングで帰郷か?」
「分からないね。今の彼の心境を察することは誰にも出来ない」
目的地が日本であることに一部の所員は安堵する。
功次が迷いなくホワイトハウスまで向かったということは、何かしらの手段で周辺一帯の地域情報を把握している可能性がある。
その把握範囲がここまで適応されており、『属性探知』の性質も兼ね備えていた場合、大勢の『属性者』がいるここは確実に発見される。
妹である愁那をあの状態にしたことが把握されている以上、場所さえ特定されれば確実に進行してくると皆思ったのだ。
そこで放送が入る。
『研究進捗報告会開始まで10分。各研究員は会場へ移動せよ。繰り返す、各研究員は会場へ移動せよ』
放送が流れると功次の様子を見ていた研究員は資料を用い胴を開始した。
「異常があれば報告を」
「了解しました」
No.001がそれぞれに役割を与える。
「では僕たちも会場に向かおうか」
「わかった」
「そして…No.291《織原》にも来てもらおうか」
私は一度日狩と夜見の様子を見に行くため立ち去ろうとする。
すると背後から声がかけられ足を止める。
「…私も?」
「うん。ここ直近で彼と接敵したのは君だ。一番至近距離で見てきたその存在を教えてくれるかな?」
「…分かりました」
言われた通り方向を変え、二人についていくことにした。
別に強要ではないはず。でもここで拒否するのは得策ではない。
あくまでここの最高権力者は彼だ。
この歪な『属性者』を束ねる存在。
下手な手を取ると何をされるか分かったものじゃない。
「では、皆集まったね」
会場には約1000人の研究員が集まった。
『属性』を持つ者から持たない者が入り混じっている。
前方には一段上がった場でNo.001が話し始める。
「現在日本支部で確保された被検体0が我々の最重要目標として各自研究を進めていたことだろう。彼は日本支部で血縁であるSとの戦闘の後、南米に移動。派遣されたNo.287《バルド・ダンガ》とNo.311《久明金盛》との戦闘時に暴走。そしてアメリカに移動し、猛威を振るっていたJと戦闘中上位種へと移行、またSとNo.291との戦闘後現状に至る。これらをモニタリングしていて、僕は上位種移行の条件に仮説を立てた。今回それをここで発表したいと思う」
その言葉に会場にどよめきが起こる。
100年以上、『属性』の研究をして上位種移行条件も50年ほど研究しているなか、新たな仮説がリーダーの方からあると言われればそれは驚くだろう。
「しかし、僕から言うのもなんだろう。まずは君達から何かあるかい?」
その言葉と同時に数人の挙手がされる。
No.001が指名して登壇する。
「No.583です。今回私が断てる仮説は、0の上位種が蒼い炎でないという仮説です。0の『属性』には4パターンの波長が見られており、色でも赤・白・蒼・黒があります。これは過去に類似がみられず、波長パターンは通常種、暴走、上位種の3パターンが今までの説でした」
その発表を聞いて確かにと私は思った。
戦闘中、彼は暴走を除いた3種類の炎を扱い段階的に威力共に熱量が増加していた。
「そして、この赤い炎、ここでは名義として赤炎状態と称しますが、これは不完全な出力であると私は考えます。これ以降、蒼い炎を蒼炎状態、黒い炎を黒炎状態とします。蒼炎状態が0の本来の通常種であり、黒炎状態が上位種という仮説を立てます。まず『属性』が操る力は、強大な存在ですが一般的な法則に従っていて性質に大きな差異がないと言う点は先行研究でもあげられており、この前提から考え、0の『属性』を"火"とすると火には充分な酸素が供給されないと赤色で、充分に供給されれば青色になります。そこからこの仮説を立てました」
ある程度筋は通っている気がする。
全体的にも納得がいく人が多いようだ。
「うん、良い考えだ。僕自身も最初に見せた『属性』の姿が通常種であり、2段階目に見せた安定したものを上位種とすると言う固定概念があった。そしてこの考えは全体としても充分納得のいくものだ。この短期間に彼の変化に着目したのも素晴らしい」
すると全体で拍手が起こる。
私もつられて拍手をする。
本来の学会発表などでは質問や追求が多くあるところだろうが、ここにいる人は皆自分の持つ『属性』と言う存在を知るために考える素人集団。
そこまで深いところまで考えるほどの頭脳を持っているわけではない。
一般人よりも少し賢いと言うだけ。
…それにここの組織特有の思想もある。
「さて、次の者はいるかい?」
そこからも16人の発表が続いた。
『属性』対消滅が及ぼす磁場変動の法則性。
『属性者』年月による身体変化の追跡調査。
『気系属性』での存在生成に必要な熟練度。
理性の欠落の限界点。
連続する『属性』覚醒の原因ー共鳴波ー
『属性』の遺伝可能性
0の『属性』による二酸化炭素減少…などなど。
この1年足らずの期間に、多くの発見があったようだ。
これほどの発見があったのには、主に功次君と愁那ちゃんの二人の存在が大きい。
あまりに特殊すぎる存在が一気に研究を加速させた。
「うん。順調に『属性』の未知が解明されていくね。これは君たちがそれぞれ全力を尽くしてくれているからだ。感謝するよ。さて、ここからは僕の番だね」
No.001はマイクで全体に語り掛けるように話しながら登壇する。
一呼吸おいて、また話し始める。
「さぁ、僕は上位種移行の条件についての仮説と言ったね。まず僕の発表前に事前に課題を与えていた人から意見を聞きたいかな。では聞かせてもらえるかな、No.016?」
No.016は呼ばれると登壇しマイクを受け取る。
「ちゃんと考えているね?」
「もちろんだ。合っているとは言わんがな」
「構わないさ」
No.016も全体に目を向けて、口を開く。
「私が思うに、上位種移行の条件には過度な状況変化が関係していると考える。皆も知る通り、現在上位種が発見されている存在は0やS、
モニターには今までの上位種移行時の様子を映していた。
『出力最大!』
『深淵よ』
『…制限解除、上位種『凍土』!』
『刀にかけて、上位種『合金』』
「ふむ。その考えにも一理ある。では、僕の考えを言おう。マイクを貰えるかい?」
No.001がマイクを受け取り話し始める。
「僕は放射線が我らが『属性』を上位種へと至ると考える」
その言葉で全体がどよめく。
その理由を私は知っている。
何故なら過去に放射線などの高エネルギーが『属性』に与える影響は既に調査されているからだ。
その時に『属性者』からしても『属性』を持たないと同じように有害な物質であって、命を奪うことに違いはなかった。
この研究には推定20人の『属性者』が命を落としている。
それを知らないはずがないのに、これをまた言い出したことに全体が疑問を浮かべたのだ。
「皆の動揺も理解できる。34年前の研究で既に不可能だったという事を忘れてはいないさ。ただし今回上位種を見せた彼らを見ていると、ある共通点が見えてくる」
もう一度モニターに上位種移行の姿が映る。
「今日の発表の直前まで僕は0というイレギュラーが共通点から外れていることをどう説明するか悩んでいたが、最初に発表してくれた彼女の蒼炎状態が本来の通常種であるという仮説を真とした場合、共通点が外れていないことが分かった」
するとモニターに映る功次君はジョンくんと戦っていた時の赤から蒼に変化した姿ではなく、愁那ちゃんとの戦闘で見せた蒼から黒に変化した姿に変わった。
「これらのように彼らは上位種へと至る際、黒いエネルギーが含まれているという共通点がある」
愁那ちゃんの水は深海のように深い黒に変化。
バルドさんの氷は内部に黒い線が血管のように張り巡らされている。
久明くんの刀身も黒へと変化。
蒼樹楓理も植物内部の維管束が黒へと変化している。
「これは上位種特有の性質と取れるが、この黒いエネルギーは放射線の影響を受けた『属性』の姿。そして彼ら自身にも共通点がある。それは皆何かしらの放射線の影響を受けた経験があると言うこと。まず0とSは同じ米国核兵器の影響下にいたこと。.006《蒼樹楓理》は恐らく1945年の原子爆弾、No.287《バルド・ダンガ》はチェルノブイリ原子力発電所事故、No.311《久明金盛》は2011年の福島原子力発電所事故。先の二人は兵器からだが、残り3人は研究の一貫とし現場に向かわせた過去がある。その際に変化はなく、影響なしという結論としたが、ここで気付くべきであった。この『属戯会』内部での実験で高濃度の放射線を『属性者』に与えた際、肉体が崩壊した。しかし彼らは生存している。ここには何かしらの条件があると考えているが、予想では『属性』の潜在能力や限界出力が関係していると考える。それと0とSの戦闘前での空間放射線量のデータを見ると急激に減少していると言うのもあることで、彼らが周辺の放射線を吸収していたと考えられる。…過去の実験で放射線を浴びた者はお世辞にも秀でていたわけではない。上位種に移行するにはある程度の才能と放射線という高エネルギーが必要であると、これらのことから僕は考える」
放射線が上位種へと至る条件。
それを会場全体が静かに聞き入った。
するとNo.001の目線がこちらを向いた。
「No.291。この仮説についてどう思う?0やSと接点の多い君なら何か感じるところはあるんじゃないか?」
突然こちらに投げかけられ驚いたが、今までの過去を思い返す。
「…Sは核爆弾が落とされ放射線を押し出すために高度の津波を顕現させたが、その津波は黒く侵食されていった。遠くからでしっかりと確認は出来ていないけど、0が生成した生物も一部黒く変色しつつあった。放射線の影響がないとはいえない」
私が話し終わると、No.001が口角を上げる。
「うん。良き情報をありがとう。さぁ皆、この僕の仮説を聞いて立証に協力してくれる者がいれば、明日僕の研究室に来てくれ。今回の新たに考えられたそれぞれの仮説の立証にも皆、協力しよう」
そしてNo.001が一呼吸おいて、大きく放つ。
「この『属戯会』と共に、我ら排他された『属性者』による世界を!」
「「「「「『属性者』による世界を!」」」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます