第44話 結界
「そ、そんな……」
左京は膝をついた。
「今は赤狼さんと紫亀、銀猫が庭の式神百神を総動員して四方に結界を張ってるっす。そこが破られるまでは外に被害は出ないでしょうがね。永遠に結界を張ってるわけにもいかないっす。限界はあるっすよ」
「運良く今は桜子がいるにょん。桜子の再生の気で式神達の妖気を回復しているにょん。当主の前でこんな事を言うのも何だけど、散々霊能力のない戦力外といじめておいて、今桜子の気に頼るしかないなんてみっともないったらないにょん」
水蛇の嫌味に左京はがっくりと肩を落とした。
「桜子……そうか、あの子が」
「水蛇、ここは俺に任せて結界の応援に行ってくれっす。いくら土御門百神を使っても、闘鬼さんに結界を破られるのも時間の問題だ。紫亀とあんたが揃えば力も増えるっす」
と緑鼬が左京の身体を引き起こしながら水蛇に言った。
「分かったにょん。頼むにょん」
水蛇はたちまち大蛇の本性を現し、広大な土御門の敷地の隅に飛んで行った。
敷地の四方にはそれぞれ式神達が分散して結界を張っていた。
だが金の鬼の怒号がするだけで弱い妖体は一匹一匹消滅していくのだ。
怒り狂った金の鬼は全てを滅ぼしてしまうまで止まらないかもしれない。
「御当主、ぼやぼやしてないで、お弟子を集めて命令してくださいっす。あの鬼と戦うなんて考えるだけ時間の無駄。それよりも霊力を保存して結界の応援に回るようにと」
左京は濃緑の鼬を振り返って見た。
「結界の応援?」
「そうっす。土御門の敷地内の被害はもう止められないっす。全ての建物が壊れてもしょうがないっす。だけど近隣には被害を出した駄目っすよ。分かりますね?」
「あ、ああ。そうだ。近所に迷惑はかけられん」
「ですから、今、赤狼さん達が敷地四隅に分散して結界を張っています。絶対に金の鬼を敷地外に出さないようにしてます。お弟子達にも命令してくださいっす。結界の応援に行くように。今、出来る事はそれが全てです」
当主は緑鼬の言葉に身体が震えた。
式神として使役していたの自分が主のつもりだった。
これまでは自分が指導し、命令し、土御門の陰陽師の役に立つ式神を作り上げるのが当主としての勤めだと思っていた。
だが彼らは自分たちで考え、的確に行動するのだ。
如月が鬼の召喚を失敗するのを見越して、すでに敷地内に結界を張ってくれていたおかげで金の鬼の暴挙が土御門内で収まっているのだ。
「わ、分かった。指示は出す。ろ、緑鼬、頼む、如月を……」
緑鼬は如月の方に振り返った。
まだ奇跡的に踏みつぶされてはいないようだが、瓦礫の合間に座り込んだような姿が見える。
想像よりも巨大で凶悪な金の鬼に腰を抜かしているようだ。
「しょうがないっすね。では早くお弟子に指示を!! 俺は次代を助けに行くっす」
そう言って濃緑の鼬はしなやかな身体を生かして瓦礫の中をすいすいと走り去って行った。
左京はよろよろと立ち上がり、逃げ惑う人の群れの方へ歩いた。
誰か弟子を見つけて結界の強化を呼びかけると共に自分が一番に駆けつけなければならない。
自分の霊能力を全て賭けても、あの鬼を止めなければならない、と左京は思った。
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