第3話 なんで俺だけ
その後、主治医の大庭はアメリカの首都についてや簡単な計算問題、ボールペンの芯が出せるかなど確かめた。
「ありがとうございます。起きたばっかりなのに、質問をたくさんしてしまってすみません。後で色々検査をしないといけないので、それまでゆっくり休んでいてください。お父様とお母様、それからあなたも、少しこちらに」
大庭はそう言いながら奈々子の両親と准を別室に移動させた。
「先生どういうことですか?」
と扉が閉まると同時に准が先生に訊いた。
「先ほど奈々子さんのご両親には、何かしらの症状が出る可能性があると話させて頂いたのですが、奈々子さんが准さんのことを覚えていないところをみると、記憶喪失の症状が出ていると思われます」
話を聞いた三人は驚きと戸惑いがある中、ほんの少しだが納得感もあった。
「記憶喪失にも色んな種類があるので詳し検査しないと断言はできませんが、強いストレスや出来事、感情などが原因となり起こす記憶喪失だと思われます。奈々子さんの場合はあくまでも仮定ですが、事故を起こす時に准さんを助けなければならないなどの強い思いが記憶障害を起こす原因となり、その時に准さんのことを強く思ったため、准さんとの記憶だけが抜けてしまっていると考えられます。
詳しいことや、今お話ししたことが本当かどうかは検査しないとわからないのですが、この説が可能性としてはあり得るかと」
「そうですか」
奈々子の父親がそう言うと、准は俯き、
「なんで...なんでだよ」
震えた声でそう言った。
その場の三人は准にかける言葉が何一つ見つからなった。
例えかける言葉があったとしても、自分のことだけ忘れられてしまう。それだけでも、ものすごく傷つくのに、生まれてからほぼずっと一緒にいる幼馴染に忘れられているのだから、きっとどんな言葉をかけても准をより傷つけてしまうだけだ、と三人には分かっていた。
奈々子の母親は、
「もし奈々子が本当に忘れてしまっているとしても、奈々子の記憶が戻る可能性はありますよね?」
そう聞くと大庭は、
「なんとも言えません。短期間で記憶が戻る場合もありますが、絶対に戻るとは断言できません。」
それを聞いた三人は絶望した。特に准はひどく絶望した。
「どうしたら戻るんですか?」
と奈々子の母親は、思い詰めた顔で訊いた。
「これも人によるので何とも言えません。とりあえず検査して、他に異常はないかなど詳し調べてから、考えましょう」
と大庭は申し訳ない顔で答えた。
それを聞いた奈々子の両親は部屋を出て奈々子の部屋戻ることにした。部屋を出る前に奈々子の母親は准に、
「落ち着いたら、奈々子の様子見に来てあげて、記憶が戻ってるかもしれないから」
そう言って部屋を出た。
准も部屋を出ると一人、夕陽が差し込む廊下で、しゃがみ込み静かに涙を流した。
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