35
その後。
身寄りの無くなった青塚は、児童養護施設に入所することになった。
姉が殺されてから何日か経ったある日。
青塚は久しぶりに学校に登校した。
そして、まずは、学校で自分を苛めていた奴らを全員殴り、蹴り、叩きのめした。
苛めていた者たちも、所詮は小学生だった。多少背が高かったり、多少身体が大きかったり、多少力が強いことはあっても、本気で相手を殺そうと思って攻撃して来る者などいなかったからだ。
青塚にとっては、同級生たちは復讐の対象では無かった。が、もし青塚の邪魔をするならば、別に殺しても良いと思っていた。
青塚が全く感情の感じられない表情で、黙々と、『ただの作業』のように、少しだけ相手を殺そうという意図を持って攻撃をし続けるだけで、それまで青塚を苛めていた同級生たち全員が、泣きながら謝った。
青塚はスマホを持っていなかったので、彼らを叩きのめした上で、スマホを持っている者に、「調べろ」と言って、炎のデビルコンタクトのことを調べさせた。
が、有益な情報を得ることは出来なかった。
青塚は仇に対する深い憎しみを持っていたが、焦ってはいけない、と自分に言い聞かせた。
確実に殺す。そのために出来る事は全てやろうと決めた。
姉も言っていた。
『行動が大事』だと。
行動するのだ。行動を。
※―※―※
「どうか、お願いします」
真剣な表情で土下座して懇願し続ける青塚に根負けして、児童養護施設の職員は、職員用のPCを使わせてくれるようになった。
このPCには、子供に貸し与えるならば本来設定しておくべき有害サイトを閲覧出来なくするためのフィルタリングが掛けられていなかった。紛うこと無き職員の怠慢だろう。
だが、青塚はPCが制限無く使えたことに感謝していた。そのお陰で、仇の情報を調べることが出来るようになったのだから。
※―※―※
仇に関する調査と平行して、青塚は身体を鍛え始めた。
仇に会えたとしても、倒すだけの力が無ければ、意味が無いからだ。
PCで調べたサイトや動画などを参考にして、毎日限界まで筋トレをし、走った。
姉も言っていた。
『強くなりたいって思ったら、具体的に行動するの』と。
行動するのだ。行動を。
※―※―※
暫く肉体を鍛えた後、実戦経験が必要だと思った。
そこで、久し振りに小学校へと行き、まずは小学校の高学年の不良たちを相手に選んだ。
ただ、こちらから仕掛けるのは極力避けようと思った。
その後が面倒だからだ。
なので、わざと彼らの目の前を通り過ぎたり、わざと彼らのいる場所に行ったりするようにした。
不思議なもので、ああいう輩は、自己肯定感が低いのか、被害妄想が激しいのか知らないが、勝手に気分を害する。
「あ? てめぇ、喧嘩売ってんのか?」
釣れた。
そして、複数の五・六年生を相手にして、喧嘩で勝つことに成功した。
まだ慣れておらず、何回か攻撃を被弾したが、軽傷だ。問題は無い。
次は、街中の治安の悪そうな場所へ行き、中学生を標的とした。
ただ、そこへ向かう途中でデビルコンタクトたちに狙われてはいけないので、向かう途中は出来るだけ眼鏡を外して、朧気な視界の中ゆっくりと向かう。目的地付近へと辿り着くと、中学生がたむろしている路地裏等を角から見て、人数を確認した。
まずは二人組みを狙い、わざと目の前を通り過ぎ、また戻って来る。
喧嘩を吹っ掛けられたら、返り討ちにする。
次は三人。その次は四人。
街中の連中は、ナイフや木刀またはメリケンサック等を使って来ることもあった。
試しに、倒した相手から木刀を奪い、ネットで木刀での戦い方を調べ、次の喧嘩の時に使ってみた。
すると、それまでとは比べ物にならない程、効率的に複数の相手を倒すことが出来た。
武器か。
あいつら、馬鹿な癖に、なかなか効率の良い物を持っているのだな。
それからは毎回木刀を使うようになった。
木刀が折れると、相手から新たに奪ってまた使った。
慣れて来ると、今度は高校生の不良たちをターゲットに選んだ。
こちらも、まずは少人数から狙う。
倒す。また新たな標的を探す。
倒す。また新たな標的を探す。
倒す。
姉も言っていた。
行動するのだ。行動を。
※―※―※
二年が経過した頃には、一度に高校生二~三十人を相手にしても勝てる程に強くなっていた。
そろそろ良い頃合だ。あの男を殺そう。
十歳になり、以前よりも大分背が伸び、身体が大きくなった青塚はそう決心した。
しかし、この間PCでどれだけ調べても、炎のデビルコンタクトについては分からなかった。
否、情報はあったのだ。だが、そのどれもが、どこどこに炎のデビルコンタクトが出現して、民間人を何人殺した、ということばかり。
炎のデビルコンタクトの素性や、どこに住んでいるか、どういう行動パターンを取るか、その犯罪にどういう特徴があるか、などは謎のままだった。
無論、青塚もニュースを見る度にその情報をPC上に保存して、過去にあの男が起こした事件と照らし合わせて何かしらの共通点を見い出そうとした。
が、特に何も見付からなかったのだ。
季節、月、日時、天気、殺害対象の性別・年齢・職業、などなど。
何一つ共通点は無く、バラバラ。
斑があることが特徴、とも言えなくもないが、そんなものは相手の行動を読む上で、何の役にも立たない。
唯一、炎を使って相手を焼き殺すこと、というのは確かな特徴ではあるが、だからと言って、雨の日は犯行を行わない等ということも無かった。
雨が降っていようが問題なくあの能力は使えるようで、天気によって犯行確率が変わることもない。
流石の青塚も焦り出した。
このままでは、先に警察に捕まってしまうかもしれない。
死刑にはなるだろうが、それでは駄目なのだ。
自分が殺さなければ、意味が無いのだ。
PCを使って調べ、久方振りに行った小学校では、以前自分を苛めていた同級生達に指示してスマホを使って調べさせる。
だが、炎のデビルコンタクトの尻尾を掴む事は出来ない。
早くしなければ。
間に合わなくなる。
そんな中、ある日。
偶然にも、とある情報を得る事が出来た。
この頃には、街中の様々な場所で、民間人の会話に聞き耳を立てて情報収集する、ということも青塚はしていたのだが。
ある時、道端で話し込んでいた小母さん二人の会話から、意外な単語を聞くことになった。
それは、『高浜開明が、このN市の外れに隠れ住んでいる』というものだった。
その名前には聞き覚えがあった。
PCでデビルコンタクトについて調べている際、目にしたのだ。
デビルコンタクトの元となった、ニューコンタクトを発明したのが、高浜開明だった。
ただ、デビルコンタクトに殺された者の遺族たちから恨まれて、その娘夫婦が殺され、孫娘と二人で他の県へと逃げて行った、というのが大方の見方だった。
事実、彼らが住んでいた家は蛻の殻だった。
しかし、どこからどう噂が広まったのかは分からないが、まだ彼らはこのN市内の別の場所に住んでいるという。
青塚の仇は炎のデビルコンタクトの男だ。
だが、そもそもデビルコンタクト等という物が発明されなければ、こんなことにはならなかった。もしそんな物が存在しなければ、姉は死ななくて済んだのだ。
直接殺した訳ではない。
が、姉が死んだのは高浜開明のせいでもある。
よし、殺そう。炎のデビルコンタクトはその後だ。
青塚は、高浜開明を殺すことにした。
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