19
その日の夜。
青塚は自室――博士と千夏がほぼ使わないため自室として使わせて貰っているリビング――のソファで寝ながら、夢を見ていた。
それは、今まで何度と無く見た夢だった。
あの日。
まだ幼い青塚は、尻餅をつき、眼前の現実に、ただただ圧倒されていた。
自分の目の前で。
手を伸ばせば届きそうな、直ぐ側で――
――最愛の姉が、燃えていた。
「逃げなさい!」
弟を庇い身体中を焼かれ、尋常ならざる苦痛に苛まれているであろう姉が、それでも愛する者のために――残された最後の家族のために、叫ぶ。
「でも……お姉ちゃん!」
「いいから逃げなさい!」
男が――姉をこんな目に遭わせた男が、近付いて来る。
猛炎に身体中を包まれながらも、姉が両手を広げて男を行かせまいとする。
「でも……」
「走って!」
「お姉ちゃん!」
「走れ!」
「うわあああああああ!」
猛火に覆い尽くされ呼吸すらままならない中、搾り出すようにして放たれた姉の叫び声に、少年は駆け出した。
途中で何度もバランスを崩し、転びながらも、走って、走って、走り続けた。
大通りの十字路に辿り着き、角を曲がろうとした時。
一度だけ後ろを振り返ると。
遠く。遥か遠くに。
それまでとは比べ物にならない程の巨大な紅蓮の炎の中心に。
今にも燃やし尽くされんとする姉が――
――微笑んだ気がした。
翌日。
降り頻る雨の中、現場へ行くと。
そこには、黒炭と化した姉の姿があった。
「お姉……ちゃん……? お姉ちゃん……! お姉ちゃん……!! うわああああああああああああああ!!!」
泣いて、泣いて、泣いて。何度も、何度も、何度も。泣き尽くした。
どれくらい泣き続けたのだろう。
時間の感覚もよく分からない中。気付けば、青塚は自室にいた。
真っ暗な中に一人。床に座っていた。
虚ろな目で、虚空を見詰め続けていた。
あれからどのくらい時間が経ったのだろう。
あれから。あれから。あれから。
何かを見詰めているような、見詰めていないような、空気を吸っているような、吸っていないような、空気を吐いているような、吐いていないような、眠っているような、眠っていないような、床に座っているような、座っていないような、何かに触れているような、触れていないような、何かを考えているような、考えていないような、何かを感じているような、感じていないような、自分の身体があるような、無いような、自分がここにいるような、いないような、姉がここにいるような、いないような。
姉がここにいるような、いないような。
姉がここにいるような、いないような。
姉がここにいるような、いないような?
いない。いない。いない。
姉はもういない。
何故?
あの男だ。
あの男だ。
あの男のせいだ。
殺さなきゃ。
殺さなきゃ。
殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければ。殺さなければならない。殺さなければならない。殺さなければならない。殺さなければならない。殺さなければならない。殺さなければならない。殺さなければならない。殺さなければならない。殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺さなければならない。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。僕があの男を殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺
そこで目が覚めた。
全身汗だくになりながら、コウは「またか」と呟く。
起きている時に思い出す姉は、いつも茶髪セミロングを靡かせ明るく微笑んでいる。
世界一眼鏡が似合う、その素敵な笑みは、青空の下、太陽よりも眩しくて――
そんな幸せな瞬間ばかり思い出すのに。
何故か夢に見るのは、姉の最期ばかりだった。
デビルコンタクト退治のためには眠ることも仕事の内と、コウは汗を吸った服を着替えてもう一度目を閉じるが、なかなか寝付けなかった。
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