『夏の彼女』

@Haruto10

夏の彼女

高校生のある日

屋上の、フェンスを登って、前を見る。

「これで、何度目かな。でも、これが最後。

もう、いいんだ。全部どうだっていい。空を、飛びたいな。」

青年が、飛ぼうとした時、ふと人の気配を感じた。振り返ると、そこには、麦わら帽子を被った、白いワンピースを着た少女が笑っていた。

どうしてここに人がいるんだろう。入ってきた気配はないし、ここに人が来ることはないのに。いつも。

『ねぇ、そこで何をしてるの?』

「なんだっていいだろ。君には関係ない。」

『ふふふ。私も連れてってよ。一緒に、空を飛ぼうよ。』

「君も、ここで終わるの?」

『うん。だからここに居るんだよ。君と同じ。』

「そっか。初めてだな。君みたいな子は。最初で最後だけど、終わる時に君に出会えてよかった。」

不思議な子だった。とても不思議な。初めて会ったのに、普通に話せることも、こうやって一緒にいこうとすることも。僕にとっては特別だった。こうなる前に出会いたかったと思ってしまう。

『でも、最後にさ、学校さぼって、全部放り投げて、今日1日沢山遊びたいな。最後の思い出に、君と。いいでしょ?私と一緒に、好きなことして遊ぼう。』

と、言って笑う彼女は楽しそうで、何故か少し懐かしく感じた。

だからなのか、僕はいつの間にか、答えていた。

「いいよ。どうせ終わるんだ。君のわがままに付き合ってやる。」

『ありがとう。』

とまた彼女は笑う。よく笑う子だなと思った。でもさっきの顔は、なぜだか少し寂しそうだった。

何故なのか聞こうと思ったけれど、聞くのは躊躇われた。だから僕はフェンスを乗り越え、彼女の手を取った。

「どこに行きたいの。一日は思ったより早いから。早く行こ。」

自分からこんなに行動するなんて初めてだ。自分自身正直驚いていた。でも何故か、これが当たり前かのような感覚に陥る。聞きたいことは山ほどあるが、それすらもどうでも良くて、彼女のわがままに付き合うことの方にできるだけ時間を費やしたかった。

そこからは、怒涛のように遊びまくった。最初はゲーセン。次にカフェ、水族館、遊園地、公園、映画館、一日でこんなにも遊べるのかと思うほど、動いていた。

まるで、2人で過ごす時間は、止まっているかのようで、2人だけ、世界から切り離されたかのような、そんな感覚に陥っていた。

「あのさ、どうして、僕の行った場所ばかりなの。偶然?」

『ふふ、偶然よ。偶然。でも言ったことあるんだね、だからあんなに案内が上手かったの。おかげで、楽しかったわ。』

「いや、上手くねぇし。まぁ、楽しかったんならいいか。」

『ねぇ、最後に、海。連れてってくれない?』

「海?最後に海?お前さ、なんか不思議だよな。でも、よくわかんねぇけど、あんたとの時間は楽しかった。いいよ、最後まで付き合う。」

『ありがとう。』

「つか、名前。聞いてもいい?」

『名前、。うん。そうね。名前を知らないのも素敵かもしれないけれど、そういうのもいいかもしれない。』

「は?」

『ううん。なんでも。私はね、すずね。って言うの。鈴の音と書いて、鈴音。君は?』

「僕は、さくと。朔に叶えると書いて、朔叶。」

『素敵な名前ね。とっても。綺麗な名前。』

「それは鈴音もだよ。何故か懐かしい気がする」

『そう、かしら、朔叶、海、行きましょ。』

「あ、うん。」

寂しそうな顔をするから、それしか言えなかった。何故だろう、このまま海に行けば二度と彼女に、鈴音に会えないようなそんな気がした。けれど、自分もどうせ、終わるつもりなのだから変わらないと思い直し、鈴音の手を取り、2人、海に向かう。

電車の中、2人だけ。今、この空間だけは、全て忘れて、どこまでも遠くに行けるような、何もかもを吐き出したいような、不思議な確かに存在するのに存在しない、時が緩やかに進んでゆくように感じた。

だからなのか、僕は誰にも話したことの無い。僕自身の過去と、感情をいつの間にか吐き出していた。

「僕は、事故で親もいなくて、祖父母も先日なくなって、今は親戚をたらい回し。どこにも行く宛てがなくて。だから死のうとした。」

『そっか。そうなんだね。すごいなぁ。よく頑張ったね。朔叶は偉い。』

「あれ、なんか、ハハ。泣きそうだ。何故か鈴音に言われると声が心に届く。なんでだろうな。あれ、でも、あの時死のうとして、それで、僕はどうして、やめたんだっけ。」

『あ、ほら着いたよ。海。すごい。きれい、』

そこには、夕焼け色に染まる、海があった。もうすぐ夜がくる。少し見とれていた僕の手を引き、鈴音はずんずんと前に進んでゆく。何故か僕には眩しく見えて、そっと目を落とした。

「綺麗だな。この時間帯に来るのは、初めてだ。」

ふと脳裏によぎる記憶。誰かとここに来た記憶。

「いや、あれ?ここに来たのは、2度、め?」

『ほら早く。私ね、花火持ってきたの。もうすぐ夜でしょ。2人で花火しよ。』

「え、あ、うん。そう、だな。てかいつの間に。」

『えへ。さっき内緒で。私ね、この海が大好きなの。夕焼け色に染まるこの海が。夜になったら、月や、星を水面に写して、暗く染まるの。でもどこか暖かくて、だから好きなんだ。』

「え。、そっか。僕も、好きだよ。」

なんでだろうか、その言葉を以前にも聞いた気がする。でも何故か、思い出そうとすればする程、その記憶に翳りがうじて、霞んで思い出せない。より思い出そうと記憶のそこを探りかけたところを、彼女の言葉に遮られ、思い返すのを辞め、聞くことにした。

『私ね、体が弱くて、なかなか外に出れなくて。だから調子がいい今日、終わろうと思って。そしたら朔叶を見かけて、なら、どうせなら、たくさんたくさん好きなことやり終えたいなって。』

「そうなんだ。だから物珍しそうに、あんなに色んなもの見てたんだな。ゲームとか弱すぎだし。子供みたいに見えた。」

『もう。バカにしてたの?だって仕方がないじゃない。初めてだったんだもの。でもゲームの方は朔叶が上手いだけよ。私のせいじゃないわ。』

と言って頬を膨らます。何故か少し、胸が傷んだ。それは、記憶の底に埋まっている、心がいたんだような、そんな気がした。それに気付かないふりをするのが、今は正しいと、思った。

「まぁ、ゲームしかやること無かったし、上手いわけじゃないけど。あとは、なんで、一人でいったんだっけ?そんなに好きなはずないのに。なぁ、鈴音、お前ってさ、僕と、あったこと、ある?

いや、なんでもない。聞かなかったことにして。」

『うん。そうね。それより、ほら、暗くなってきた。花火、しましょ。』

「うん。」

『私、今日みたいな時間に、みんなに内緒で。抜け出して、こうやって花火、したんだよ?ほんとに楽しかった。』

「え?」

『なんでもない!あ、これやりたい』

と彼女は手元の花火をつけて、踊り出した。それはすごく綺麗で、美しくて、好きだな、と、僕はいつの間にか、鈴音に惚れていた。不思議と、なんでも話せるような、安心した自分がいた。

「危ないよ。気をつけて。僕は、これかな。」

そこからは、お互いに無邪気に花火で遊んだ。とても、とても幸せな、楽しい時間。世界が2人を優しく包み込んでいた。

そろそろ花火も終わりに近づいてきた。最後に残るのは、線香花火。ありがちなやつだ。

「あー、これか。これ、すぐ落ちるからあんま好きじゃないな。」

『私は好きよ?だって素敵じゃない。終わるその時まで、必死に落ちないようにパチパチ咲いてるの。』

「そーゆー、見方もできるのか。鈴音はほんとに、綺麗だな。」

『え、え??(照)』

「あ、いや、あーー。えと、なんでもない、なんでも。ほら、やろ。な!」

『え、あ、うん、そ、そうね。』

カチッ、

線香花火に火が灯る。

パチ、パチ

終わりを知ってるからこそ、輝く花。

一生懸命に、咲いている。

その火が、一瞬、パッと光った瞬間

僕の記憶の底に眠っていた、思い出が、ふと蘇ってゆく。

最後に預けられた先で、出会った彼女のこと。

お互いぎこちなくも、想い合って来たこと。

寄り添いあって来たこと。

体の弱かった彼女と沢山話した日々。

行けない彼女のために、通話しながら、動画を撮って二人で遊んでるような感覚を味わったあの日々。

お互いにお互いを想いあった日々。

手を取りあった、あの日々。

次次と頭に浮かんでくる。愛しい、彼女の、珠音との、思い出。

そして、彼女と手を取り合い、この場所で、花火を見て、そこで彼女が息絶えたこと、。僕の欠けてた記憶が、脳を埋め尽くす。

あぁ、そっか、彼女は、珠音は、もう。。

全てを思い出したその瞬間、僕の線香花火の火が落ちる。

『もしかして、思い、出しちゃった?』

「うん。全部。思い出したよ。珠音。」

『あーあ。その感じだと、ほんとに思い出しちゃったんだ。後、ちょっとだったのに。何も知らない少女と、少年の物語。この花火の後に私が消えて、ハッピーエンド。あと少しで、完成だったのになぁ。どうして思い出しちゃうかな。』

「忘れるわけがないよ。って言いたいけど、今の今までほんとに忘れてた。ごめんね。僕のせいなんだ。君が、居なくなったのは。ほんとにごめん。ただ、見て欲しかった。1度でもいいから、一緒に遊びたかった。そんな僕のわがままのせいで。ごめん。挙句の果てに忘れるとか、馬鹿すぎるよな。」

『いいの、忘れてていいの。忘れてって言ったのは私なの。それに、連れてってって言ったのも。私、自分で気づいてた、もう、私の命の灯火はあと少しなんだって、だから、最後は、あなたと、朔叶との思い出の中で死にたかった。私のわがままなの。だから、自分を責めないで。』

「お前、ほんと。そういうとこ。鈴の音って、地味に名前変えてさ、僕と遊んで、思い出さないようにして、それでも、願いを叶えてくれた。そのくせ、忘れててとか。思い出して欲しくないなら、最初から僕に声、かけなきゃいいのに。ほんとに、優しいんだよ。珠音は。そういうとこに、僕は惚れたんだ。好きだ、好きだよ、珠音」

『ふふ。そうね、気づいて欲しくもあり、気づいて欲しくなくもあり、私も、どうしたらいいかわかんなかった。でも、私、未練があって、こうやって、幽霊になって朔叶に逢いに来ちゃいました。最初はね、見てるだけで、消えようと思ったの、でも、私、あなたと、朔叶と1度でもいいから、一緒にこうやって、触れて、同じ景色を見て、感動して、遊んでいたかった。それが未練。それが私の願い。でも叶わないと思ってた。その時に、朔叶が死のうとするから、咄嗟に声かけちゃった。』

「そっか、そっか、珠音はずっと、僕のそばにいたんだね。僕があの日、君を連れ出さなければ、君は死ななかったかもしれない。生きてたかもしれない。なのに、馬鹿だよ。あの景色を見て欲しいだなんて。」

『違うよ。私も、そう願ったんだよ。だからこれはお互い様。ね、』

「あー、そうだな。そうだよな。珠音はそういう奴だ。うん。君がそう言うなら、そういうことにしておこう。あれは、2人のせい。」

『そうそう。だってあんなに楽しかったの初めてだもの。朔叶が連れ出してくれなければ、感じなかった。あの感動も、感謝も、あの景色も、見れなかったんだ。だからすごい感謝してる。あの時、私を光に連れ出してくれてありがとう。』

「逆、逆なんだよ。珠音。君が、君が僕を光に導いてくれたんだ。君のおかげで、こんな世界でも、まだ捨てたもんじゃないって思えた。君がいなきゃ。僕はきっとここにはいない。だから、僕の方こそありがとう。」

『あーあ。もう、私、朔叶のそういうとこに惚れたの。好きよ。ほんとに、心から朔叶を愛してる。』

「僕も愛してる。」

そう言うと、珠音の線香花火の火が落ちる。まるでそれは、この幸せな時間の終わりのようで。不意に、不安に駆られて、僕は彼女の手を取り、強く、握る。

『もう、時間か。消えたくないなぁ。君と、ずっとこの先を、生きていたかった。でも、私には無理だから。だから、朔叶。お願い、私の分まで生きて。そして、また私にみせて、あなたがみている世界を。大丈夫。姿は消えても、ここにいる。あなたのそばにずっと。心にいる。だから、消えないよ。今度こそ、言うね。私の事、覚えてて、記憶の底にでもいいから、あなたの心に私を置いておいて。忘れないで。』

「当たり、当たり前だろ。今度こそ、忘れない。今度こそ、珠音。お前を、覚えてる。忘れない。ありがとうそばにいてくれて。これからもそばにいると言ってくれて。そうだよな、そうだ。僕は、、俺は、生きなきゃいけない。珠音の分まで。あんたが見れない景色を、見たかった景色を、俺が変わりに、見なきゃ、生きなきゃダメなんだ。逃げてちゃダメなんだ。忘れてた、この感情を。あんたのおかげで芽生えたのに、あの日から、俺の時間は止まって、この思いまで、君と共に忘れちまってた。ごめんな。約束する、俺はお前と共にこの先を生きるよ。だから、見ててくれ。そばにいてくれ。そしたら俺は、頑張れる。」

『うん。うん!ありがとう!でもね、辛い時は、苦しい時は、逃げてもいい。逃げてもいいんだよ。頑張りすぎないでね、無理しすぎないでね。抱え込みやすいもの。朔叶は。心配だなぁ。でも、大丈夫。なんせ!君の心には私がいる!だから、君は、君の、人生を生きて、私の思い出とともに。それが私の願い。』

「わかった。珠音。君がそう願うのなら、俺はそれを全力で叶える。俺は、俺の人生を生きるよ。珠音との思い出と、想いと、お前自身と共に。この先の人生を息るよ。だから、もう少し待ってろ。いつか、お前を迎えに行く。それまでは、俺のそばにいてくれ。」

『うん。見てるよ。そばにいるよ。大丈夫。君はひとりじゃない。一緒に生きよう。待ってるよ。すぐには来ないでね。やりたいことし終わってから迎えに来て、私みたいに、後悔はしないで。』

「あぁ。約束だ。

愛してるよ。珠音。」

『うん。約束。

私も、愛してる。朔叶。』

そうすると、透けていく彼女。もう、終わりが近いのだと悟った。

俺たちは指切りをする。その存在を確かめるように。想いを、確かめるように。

「またな。」

『またね。』

彼女の体温が、触れている手が、透けてゆく。夜空に染って、消えてゆく。

俺は消えゆく彼女の最後に、

優しく、暖かいキスをした。

彼女は、嬉しそうに、微笑んで、夜に溶けて消えてった。

そこに残るは自分一人。けれど、

独りじゃない。

強く、拳を握って。誓う。

そして、前を向く。

歩き出す。

いつの日か、また、逢えることを願って。

その日が来るまで、自分を描き続ける。



ふと、周りを見ると、彼女と遊んだ花火はない。ただ、夜の世界が広がっていた。

あれは幻か、そんな思いが脳裏をよぎる

が、確かに、彼女はそこに居たのだ。そこに、存在していたのだ。

温もりも、想いでも全てを自分は覚えている。忘れていない。その事に安堵しつつ、夜空を見上げる。

そして、また、前を向くのだ。

2人で。世界を息るのだ。



これは、夏のほんのひと時の、幸せな、少年少女のお話。

彼らだけの、秘密のお話。

ーーーーーどうか、彼と彼女の世界に、愛と祝福を。


《夏の彼女〜世界の果てで、君と描く物語〜》




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