第3話

「この陰陽寮は、列島各地に枝を伸ばす龍脈の、力が一番強いところに建てられているのよ」

「龍脈…って?」

「気の通る道のこと。吾たちの持つ霊力と一般的に同一視されるものよ」


 前を歩く保也の後頭部を見つめる。


「私にもあるんですか?」

「さあ。それは晴明に見てもらわないとわからない」


 ぴたりと凛々花の足が止まった。それに合わせて保也も歩くのをやめ、振り返る。


「晴明って、安倍晴明ですか?」

「うん」

「生きてるんですか⁉︎」

「うん。辛うじて、だけど」


 保也が地面を指差す。凛々花がそれに合わせて俯いた。


「ここにいる」

「…地下」

「そう。驚いたかえ? まあ、生きているとは言っても、晴明はこの結界の中でしか生きられんのよ。今の晴明は、龍脈から力を吸い上げて存命している」


 歩き出した保也の後を追う。

 踏みしめる足の裏から、何か力を感じるなとは思っていた。その下に、強大なものがいることも薄々感じていた。


 凛々花は天文道の勉強はサボっていたが、幼い頃はきちんと勉強をしていた。途中でつまづいてしまったが、『安倍晴明あべのせいめい』という人物は一番に習った人物である。

 誰もが知る大陰陽師。平安時代に名を馳せた、朝廷にも重宝された。狐の子であるとか性別がなかったとか、噂はさまざまある。それのどれが真実であったかはわからない。


「…会えるんですか」

「…ふふ、うん」


 保也が意味深に笑った。


 二人はビルの中に入る。母に持たされた鞄の中から職員証を出すと、すんなりと通される。


「まあまずは我らが天文博士様にご挨拶に伺う前に…」


 前から職員が歩いてくる。長い三つ編みを揺らしながら歩いてくるその人を見て、保也が突然走り出した。


「せいめ〜い!」

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