第4話 指定聖☆暴力団 童帝會

 食べ終わった食器を片付け、ふと気付く。


「あれ、俺。彼女(偽装)出来てない?」


「今更何言ってるの」


「まずいな……殺されるかもしれない」


 ボロカーテンをめくり、窓の外を確認。


「なによ、私の他に女でもいたの?」


 おっと笑ってらっしゃるが、なんか不機嫌になってるぞォ。不自然な笑顔が怖い。


「いると思うのか、この俺に?」


「いないと思うわ!」


 なんと自身に満ちあふれた返事。俺でなきゃ泣いちゃうね。


「畜生、その通りだよォ!」


 時に残酷な真実が人を傷つける。

 そんなに大声で言わなくてもいいじゃない!


 外から車のエンジン音。

 程なくして、自室のインターホンがなる。


「あ、出るから大丈夫」


 律儀にも御堂が対応しようとするので、代わる。


「は~い」


 ドアを開けるとそこには、


「義一さん」


 目つきのヤバい男達が三人。

 ドレッドヘア、ソフトモヒカン、ロン毛と髪型の個性豊かな面々。


「一緒に来て貰います」


「あっ、え。嘘、早すぎぃぃい!」


 両脇に腕を掴まれ、拘束される。

 用意されたのはハイエース大型車


 さ、さらわれるぅ?!


「早漏がどうしたの?」


 部屋の奥から御堂が下ネタかましながら出てくる。


「「「あっ、うっ、え」」」


 途端に男達が挙動不審になる。


「「「ど、どどどどうぞ」」」


 男達が御堂を座席に誘導。

 皆、彼女の使用人かのように頭を下げるのは何なんだ。


 俺は縛られ、トランクに放り込まれる。


「……状況を説明して」


 御堂は複数の男達に物怖じせず、毅然きぜんとした態度。


「あっ、我々は限田先輩と同じサークルの後輩です。サークル長が呼んでるのでお迎えに上がった次第です」


「あなた、サークルなんて入れたのね……」


 意外といった風に縛られた俺を見る御堂。


ふつふえぐ失礼な!」


 さっき縛られた時、猿ぐつわされてしゃべれない。


「すいません、義一さん。暴れられたら困るので」


「僕ら味方ですよね? 義一さん」


 申し訳なさそうにする後輩、首をかしげつつもうなずいた俺の様子を見て、


「分かった」


 少しほっとしたように、御堂も車に乗った。まぁ心配するのも分かるがこいつらは別に御堂が警戒する必要は無い。


 ガタついたエンジン音を出し、車はボロアパートを後にする。


「ねぇ」


 御堂の呼びかけに、何故か男達はビクつく。


「めっちゃ私を避けるのなんで?」


 それには語るも涙、聞くも涙な物語があるのよ。今しゃべれないけど……


「着きました」


 運転席の後輩が振り返る。

 到着したのは俺も所属するA大学、別棟。


 プレハブ施設を放置し、時が経ったかのような世紀末的外観。木製看板が立てられてはいるが、文字は掠れ読むことは出来ない。


 全員が車を降りると後輩達は巻き状態の俺を担ぐ。


「奥へどうぞ」


 そう言って入った先には、簡素な事務所。

 神棚と黒いスーツの輩がいるからが倍増している。


 事務所に入った時から、御堂の表情がかなり怪訝けげんなものになっている。事務所の奥、一際高価そうなソファに鎮座ちんざするサングラス男を見て、


「……ヤ●ザじゃん」


 うん……言いたいことは分かる。


「「「「違う」」」」


 御堂のつぶやきに、事務所にいたメンバー全員が反応する。


「え、そこの人とか数える程の女子供を殺して薬売って儲けてる顔してるわ」


「酷い偏見だァ!」


 サングラスを掛けた男が、あんまりな御堂の評価に少し泣きそうになっているのが分かる。


「うう。いや、まあ。いきなり連れてこられて怪しむなってのが無理な話だな。申し訳ない、お嬢さん」


 サングラス男が前に進み出て、彼女にソファへ案内しようとする。すりと御堂は腰を落とし、右手を前に突き出した。


「……お控えなすって。手前てまえ、生まれは母の股ぐら。姓は御堂、名は文香。立ち塞がるヤツぁ、この拳で黙らせてきやした。人呼んで『拳逝かせフィストフ●ッカー文香』でありんす」


 キリッとした立ち姿から出される糞みたいな名乗り口上。


「……やべぇ、ぶっちぎりでイカレた人だ」


 俺を運んでいたドレッドヘアがぽつりと呟く。


「サングラス、もっと濃いの掛けてくれば良かったよ」


 サングラス男は悲しそうに天を仰いだ。


「えっ、特濃(意味深)にするの?」


「なんだコイツ~??(泣)」


 終始、御堂は男たちを圧倒した。

 数分後、


「……気を取り直して、自己紹介いいかい?」


「何よ、ノリが悪いわね」


 へちゃむくれてる御堂さん、マジぱねぇ~。


「じゃ、まず俺からね」


 そう言った男はオールバックの黒髪に左側に妙な色に輝く毛髪が混じっており、ソファから腰を上げると結構な身長があることが分かる。


「我々は童帝會どうていかい。俺は総長サークル長豊玉光とよたまひかる。よろしくね」


 少し面長な顔とサングラス。高い身長とかなり鍛え込まれた体躯。どうしても反社の香りを醸し出してしまってる残念な我らが童帝會、総長。


童帝會どうていかいって……あの?」


 童帝會どうていかい

 秩序無く、半ばヤリサーと化した学生自治会へのカウンター組織として結成された学内治安維持団体。メンバーは言うまでも無く全員が童貞で構成されており、飲み会・コンパにおける不定の輩へ天誅てんちゅうを下すべく集められた精鋭たちである。童帝會の名は周辺大学にも畏怖されているらしい。


「あの指定性暴力団?」


 やべえ奴だと言わんばかりにドン引きな、御堂。


「えぇ……外で俺らそんなこと言われてんの?」


 いわれなき中傷に、傷つく我らが総長サークル長


「飲みサーの上級生を中心に潰し回ってるとか……」


「あー、一年生女子達を狙った悪さした奴らは狩ったね」


 具体的にはその上級生たちが下級生女子を相手に酔った末の強制淫行。その際の写真画像を使っての強迫が確認された為に二名は退学。一名には失踪してもらった。最近、退学した二人も失踪したらしい。


 不思議だね!


「格闘技系のサークルのエースを精神崩壊させたとか」


 その件は童帝會幹部により対処。精神を崩壊されたエース(笑)は自分のことを犬として認識するようになったようで、今では電柱に足を上げて用を足してしまうらしい。


「それ自分がやったやつですね……あ、自分は中出 志木なかで しきと申します」


 豊玉総長の横に立つ、冷たい表情の黒スーツ男。

 髪は少し茶色く染めたウルフカット。端正な顔立ちをしてるが、唇の傷と鋭い目つきが彼をただ者ではない雰囲気に仕立て上げている。


「分かったわ。中氏」


 悪びれもせず発された御堂の中傷。


「ぁぁァァァァァあ!!!!(発狂)」


 中出が取り乱す。


「志木さぁん!!」


 後輩の一人が錯乱した中出を取り押さえる。


「で、童帝會の人が私に何の用?」


 やれやれと言った風で話を進める御堂だが、その後ろで中出がまだうめいてる。


「君っていうか、そこのアホに用があるんだな」


 先程まで温和だった豊玉総長が、少し厳しい目つきになる。


「オメエ、義一。幹部のくせに何やってんだ?」


 童帝會はその活動上独特の情報網を持つが、幹部でさえもその全容を把握して居ない。他のサークル以上に内部統制は厳しい。今回はその情報網に引っかかってしまったのだろう。


「え、幹部だったの?」


 百九十に届く身長をかがめる豊玉総長が詰め寄る様は、迫力満点。後ろで引いてる御堂の視線が痛い。


 言質げんちを取る為に、猿ぐつわを外される。


「プッハ、俺はヤってないっすよ。多分!」


「何だよ多分って……お前、まさか」


「この人酒に酔ってて殆ど記憶が無いのよ」


 御堂の一言に、事務所全体が静まりかえる。さっきまで錯乱していた中出まで静かになっている。


「天誅ですね」


「天誅しかないな」


「天~誅~」


後輩達を含めた童帝會メンバーの目が感情を宿さない人形のようになっていく。


「待て待て待て、俺はホントに彼女に指一本触れてねえっすよ!」


「ホントに?」


 豊玉総長が確認するように彼女を見る。


「……全くもって不服だけど、頑なに触れようとしなかったわ」


 ムスっとした御堂。

 あらやだ、可愛い。


「「「……」」」


 唖然とするメンバー達。


「あ、でも裸は見られてる」


 人形フェイスに戻るメンバー達。


「有罪」


「ギルティ」


「ギルティ・クラ●ン」


 今なんか最後に変な奴いた!


「まぁ、彼氏だから当たり前なのかな」


「「「???!!!」」」


 少し嘘くさい顔を赤らめる演技。

 さっきから御堂の言動に振り回されてるメンバーが不甲斐なさ過ぎる。


「マジ?」


 真顔で問うてくる総長。


「へへへ、まぁ」


 照れつつ応じると、


「やったじゃねえか!!」


「おめでとう義一!」


「先輩、やりましたね!」


 メンバー一同の歓喜の声。

 総長なんかちょっと泣いてる。


「えぇ、どういうこと……」


 御堂がメンバー達の様子に軽く困惑してる。


「いきなり彼女できておうちデートかよォ」


 肩を組んで来る中出になんだか少し申し訳なくなる。

 彼女って言っても、御堂の婚約を破談させるための偽装的なものなのだから。


「いや、中出。実はh……」


 こっそり耳打ちしようとすると、御堂がいきなり指を俺の口に突っ込んで来る。


「私だって恥ずかしいんだよ。これ以上は、ね?」


ヲ、フアイあ、ハイ


 余計な事言いそうになってすいませんした。

 これ以上喋ったら、ただじゃ済まさないという意思がビシビシ伝わってく~る~。


 顔赤らめる御堂の演技。

 その妖艶ようえんさときたらこう言わずには居られない。


 ふーん、エッチじゃん。


 心の中で、つぶやいた。


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