第39話 魔物を統べる者1

 アンネリーゼさんの食事が終わった。ご満悦の表情だ。

 さて、これからのことを話し合わないとな。


「ユーリさん。お願いがあります。

 森の奥……、北側へ連れて行って貰えないでしょうか?

 ここは、大森林の南側であり、中央部に行きたいのです」


「え?」


 意外な提案だった。


「森の北側に何かあるのですか? 僕は何も聞いていないのですが……」


「先ほど、森の木々と会話をしたのですが、魔物の集落があるそうです。

 そこに、金属性の〈根源なる者〉がいると聞きました。 ユーリさんは、会っておいた方が良いみたいです」


 森の木々と会話? 金属性? 何のことだ?


『サクラさん。話の内容は理解出来ますか?』


『……私にも分かりません。私も樹木の精霊なのですが、アンネリーゼさんとは意思疎通出来ませんし。

 でも、何か重要なことを言っているのは確かです』


「ユーリさんと話している、精霊は作られた存在みたいですね。特別な力がありますが、本来の力を失っています」


 驚愕の表情で、アンネリーゼさんを見る。


「僕が、思念で会話していることに、気付いていたのですか?」


「感じてはいました。ただし、会話の内容までは聞けません。

 そうですね、相談者みたいな感じだと思っています。

 それと、異世界を繋ぐ役割を担っているのは、確認出来ていますしね。

 守り神みたいな存在ですか?」


 こんな能力を持っているとは……。 神樹が関係しているのか?

 いや、サクラさんが知らない時点で、今まで確認出来ていないスキルなのかもしれない。


「ステータスと言う言葉は聞いたことがありますか?」


「え? ありませんけど、どういう意味でしょうか?」


 生まれついての才能なんだな……。とても怖い才能だ。

 才能の内容を理解出来る僕でも怖いと感じる。何も知らない人が、この人に関わったら恐ろしいと感じると思う。

 だけど、この人が、現状を打破するカギになりえるかもしれない。

 祖母と先生と呼ばれた人は、この人を求めていた可能性もある。


『サクラさん。神樹は何と言っていますか?』


『……彼女に協力して欲しいそうです』


 これで、決定だ。断る理由がない。

 あと問題になりそうなのが、時間か。


「毎日、夕暮れ時に麗華さんが来ます。僕はそれまでに向こうの世界に帰る必要があります。

 今日は見に行くだけになりそうですが、大丈夫ですか?」


「……そうですか。レイカサンとはそういう関係なのですね。

 そして、こちらの世界のことを秘密にしていると……。

 分かりました。連れて行って貰えるだけで結構ですよ。交渉は私がします」


「いえ、今日は見に行くだけにしませんか? それと、魔物と会話が出来るのですか?」


「会話は、樹木の精霊を介せば、可能だと思います。

 それに……、〈根源なる者〉は、ユーリさんに興味を持っているみたいです」


 僕に興味か……。

 今は時間が惜しい。偵察にだけでも行くか。

 僕は武器防具の装備を整えて、アンネリーゼさんを抱えて飛んだ。





「大森林の北側は初めてだけど、結構な魔物が徘徊しているんだな……」


 進むにつれて、森の様相が様変わりして行く。今までは、これほどまでロクハウスから離れたことはなかった。

 今は、かなり高い高度をとっているのだけど、上位種の魔物を見かけるようになった。数も多い。

 一応保険のため、金霞冠で姿を隠す。

 今は、アンネリーゼさんを抱えているので、戦闘は出来ない。

 見つからないように、そして、見落としがないように進んだ。


 そして、異変に気が付いた。

 かなり遠くにそれが見えて来た……。


「整備された街道? こんな森の中に人工物? 橋まであるし……、あれは関所か?」


 そのあり得ない風景に驚愕を隠せなかった。

 明らかに人の手が入っている。

 美しい建築様式を思わせる、その街道に思わず息を飲んだ。

 しかも、その街道を四足歩行の魔物だけでなく、ラプトルのような魔物が馬車を引いていた。

 ……この先に、何があると言うんだろうか。


 緊張しながら進むと、さらに驚く物が見えて来た。

 大森林を切り開いた土地に、街が見えたのだ。

 ここで、アンネリーゼさんが、口を開いた。


「あれですね。金属性の〈根源なる者〉が、作った街になります。

 ……結構発展しているのですね」


 ダルクの街と比べても遜色ない。いや、文化水準は、ダルクより高いかもしれない。

 こんなところに誰が住んでいるんだろうか?

 ここで、声を掛けられた。


「良く来てくれた。神樹の巫女と、ユーミの孫だな」


 慌ててその場から、距離を取る。

 今は、金覆冠で姿を消しているのに、感知されている。

 汗が滴り落ちる。

 解る。レベルが違う。レベル以前に生物としての次元が異なる。巨大なエネルギーの塊……。


 目の前には、大きな銀色の翼を持った人の形をした何かが、笑顔で僕達を待っていた。

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