第38話 王女様5
朝となったので、僕はログハウスに移動して、アンネリーゼさんの朝食を用意することにした。
とりあえず、ボリューム満点の朝食だ。
匂いに釣られて、アンネリーゼさんが起き出して来た。
「アンネリーゼさん。おはようございます」
「ユーリさん。おはようございます……」
寝ぼけているようだけど、食欲には敵わないらしい。
こんな王女様もいるんだな……。
半分寝ながら、食べ始めた。
「注意点なのですけど、柵からは出ないでください。危険な魔物が多くいますので」
「……柵から出ない。分かりました。大人しくしています」
「太陽が真上になる頃に戻って来ます。それから話し合いを行いましょう」
「……分かりました」
大丈夫かな? 半分寝ながら食べているけど、大丈夫だと思う。
◇
祖母の家に戻って来た。
身支度を整えて出勤だ。
自転車を走らせて、サイオン製作へ向かう。
「おはようございます」
佐藤係長に挨拶をする。今日からまた、違う職場のはずだ。
「おはよう。今日からは、新製品開発部に籍を置いて貰うことになった。それでは行こうか」
先週の経緯からすると、パソコンを覚えるための部署なんだろうな。
部署名からして難しそうだけど、雑用をくれるのだと思う。
しかし、パソコンか~。学ぶ機会がなかったのだけど、覚えれば便利なんだろうな。
そして、僕専用のIDカードを受け取った。
佐藤係長に連れられて、IDカードがないと開かない扉を潜る。
その先にある部屋に通された。部屋の中には数人分の席があり、壁には、計器類が並んでいる。
挨拶をして、仕事の説明を受けた。
「百通りの検証ですか……」
「うむ、デバックと言う作業だ。傾向が知りたいのだけど、人手不足でね。頼んだよ」
やっぱり雑用だった。これなら僕にでも出来そうだ。
ここで、佐藤係長が部屋を出て行く。
パソコンでの操作を教えて貰う。キーボードが慣れないけど、ゆっくりと覚えて行こう。
実験は一回に五分はかかる。今週はこれで終わりだろうな。
一度だけ操作方法を教えて貰ったら、後は繰り返しだ。結果の値だけ入力して行く。
集中していると、十二時になった。最近は、時間が経つのが早い。
挨拶をして、帰路に着く。
自転車を走らせて、祖母の家に帰って来た。
そして、異世界のログハウスへと移動する。
「アンネリーゼさんは、お腹を空かせているだろうな」
そう思ったのだけど、アンネリーゼさんはいなかった……。
◇
「サクラさん! アンネリーゼさんは何処ですか!?」
『柵の外に出て行ってしまいました! 周囲には、魔物はいませんが、かなり危険な状態です!!』
「なんで止めなかったのですか!?」
『私の声は、彼女に届きませんよ!?』
「元の世界でも、僕とは会話は出来るのでしょう? なぜ、出て行った時点で教えてくれなかったのですか?」
『私は、優莉さんを見続けているのですよ? 世界中の情報を常に把握している訳ではないのです。それにアンネリーゼさんは、煙のように消えてしまいました。まるで森に溶け込むように……。何かしらのスキルを持っていると思います』
それもそうだ。サクラさんに頼り過ぎていた。そして今は、言い争いをしている場合じゃない。
マジックバッグより八卦衣を取り出して、急いで着る。
そして、アンネリーゼさんの元へ飛んで向かった。
アンネリーゼさんは、大森林内の小川で足を冷やしていた……。沐浴しているみたいだ。
僕は、その場に降り立った。
「はあ、はあ……」
「あ、ユーリさんお帰りなさい。もうお昼ご飯の時間ですか?」
能天気だなこの人……。
昨日、麗華さんと会ってから、なんか変わった気がする。とても楽しそうだ。
「とりあえず、ここは危険なので帰りましょう……」
「魔物は出ませんでしたよ? 本当に危険な場所なのですか?」
魔物が出てたら、食べられてましたよ? それと、朝言ったことは、覚えていなかったらしい……。
ログハウスに戻って、食事の用意をする。
アンネリーゼさんは、楽し気に見ているだけだ。本当に料理など出来そうにないな。
手早く大盛り炒飯を作った。アンネリーゼさんがご機嫌に消費して行く……。
この王女様、どうしようかな……。
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