第28話 臭いと匂い

「お主たちは何者だ、当てる気がなかったとはいえワシの攻撃をガードするとは」


 族長の目がギロリと光る。その姿に背筋がゾッとした。


「僕たちはとある者を探しています。その情報を集めようとアーメルダに向かう途中にシオンからの申し出を受けてここに来ただけです。視ていたなら知ってるんじゃないんですか」

「そうだったな、それはすまなかった」


 族長はゆっくりと振り返ると元の位置に座り直した。族長なら何か知っているかもしれない……。


「実は……4人いる時の女神を探してるんです」

「なんじゃと」


 族長とシオンが同時に立ち上がった。


「アイギスさん、時の女神は過去現在未来の3人しかいないはずです。4人ってどういうことですか」

「シオン、今から言う事はここだけの話として聞きなさい」


 焦るシオン、黙ってうなずくと腰を下ろした。


「お主がなぜ時の女神のことを知っているのか分からん。が、4人いることを知っているなら何らかの関りをもっているのだろう」

「インフェルザンの図書館で見たんです……って、パイリンさんの言い方だと、あなたも時の女神のことを知っていることになるじゃないですか」


 デカデカとした足音が近づいてくる。どうやらベニマが戻ってきたようだ。


「族長、シュリナを連れてきたぞ」


 ドカンと座るベニマ、そこにはなんとも可愛らしい巫女服の女性21が立っていた。彼女は光の速さでトタトタと近寄ってきた。


「あなたたちは旅人ですよねそれならいろんな植物を見聞きしているとおもいますがなにか素晴らしい薬になりそうなものをみかけたりしてませんか…… (植物への想いがまだまだ続く)」


 えっと……あまりにも早口で何を言っているか良く分からない。顔はめっちゃ可愛いがなんなんだこの子は。


《主はそういう子が好みか、我は強さと美貌と知識を兼ね備えておるでな、めとるならおススメだぞ》

 確かに可愛らしいとは思うけど……ウルドをそんな風に見たことない。 (サントウシンダシ、サワレナイシ)

《今はそれで充分なのじゃ》


「シュリナ、止めなさい。シュリナは薬学や錬金術に目がなくてな。普段はいい子なのだが時折暴走して困る」

「おばあちゃんひどいじゃないですか」 (プー)

「それよりもシュリナ、今日はお前の家にこの人たちを泊めてあげなさい。明日、シオンを連れて例の場所に案内するんだ」


 眉間に皺を寄せて表情が曇るベニマ、大きく口を開いた。


「族長、例の場所ってなんだ。なんで時期族長たる俺様が知らないことをシュリナが知ってるんだ!」

 鼻息が荒い、背中の十字に差さった2本の刀を抜かんとする勢いがある。


「ベニマは勘違いしておる、この里のことは族長が決めるもの。それぞれに役割分担がある。その役割をきちんとこなした者に族長を継がせるのが鬼族の掟だ。強さだけを求めるのでなく心の強さも求めなさい」


「ふん」 (オレヨリ ヨワイクセニ)っと鼻を鳴らしてどこかに行ってしまった。


「それじゃあシュリナ、アイギスさんたちを頼んだよ」

「はい、それでは行きましょう。わたしはこの建物の裏に住んでるんです。迎賓館げいひんかんでもあれば良いんですけど鬼族の里カミラにまともなお客さんなんてこないですからねー」

「僕たちはどこでもいいですよ、寝床があるだけ助かります」

「謙虚ですね。ベニマあにだったら荒れ狂いそうですけど」 (アハハ)


 案内されたのはこじんまりとした和風の家、どうやら鬼族の掟で族長宅に関係者以外を泊めることは許されないらしい。


「ここがわたしの家です」


 扉を開くと薬草の臭いが込み上げる……分かりやすく例えるなら両親が飲んでいた漢方薬の臭いが充満した部屋とでもいうのだろうか。


「すっごいにおいですね」

「申し訳ありません。どうしても薬学や錬金術を学ぶためには実践経験が必要なんです」

「いいですね、ポーションや毒消しなどの回復アイテムをインフェルザン王国で売っているのを見たよ。人を助けるための研究って凄いと思う」

「は……恥ずかしいのですが……薬が趣味みたいなものでして……あっ、でも結果助かる人が増えるならいいことだと思います」


 あぁ、なんだろう。このハニカム顔が可愛らしい。将来絶対に美人になるだろうなぁ……こんなこと口が裂けても言えないけど。


《言ってフラれてみるのも経験じゃぞ、なんなら我が伝えてやろうか!》

「わーーー!」


「どうしましたアイギスさん? 急に騒いで」

「あぁごめんなさい。ちょっと思い出しちゃって」


 考えてみればウルドから他人に言葉を伝えることなんて出来ないじゃないか。焦っちゃったじゃないか。 《マダマダジャナ》


「地下のお部屋をお使いください。2階だと匂いが上って気になるかもしれませんので……地下なら幾分か」


《確率により技能スキル『植物学』LV.1を獲得しました》

 

 あれ? なんか新たなスキルをゲットしたぞ……。っと、効果は……ふむふむ、まぁー主は薬草の効能をアップするってことだな。もしかして……。


「部屋を2階にしてもらってもいいかな? 折角だから薬草のにおいを嗅ぎながら寝てみたいんだ」

「アイギスさん! 薬草の匂いの良さを分かってくれるんですね! それなら今日は回復効果のあるメディハーブと安眠効果のあるカモミルを溶かした安定剤を焚いておきます」


 喰いついてきた! 大丈夫かこの子、簡単に騙されちゃうんじゃないか……でも、僕の目的は別にあった。


 その晩……

《植物学が1上がりレベル2となりました》

《植物学が1上がりレベル3となりました》

《植物学が1上がりレベル4となりました》

  ……

《植物学が1上がりレベル10MAXとなりました》


 はぁ、はぁ、思った通りだ。この複雑な臭気に当てられれば一晩でスキルレベルが上がるんじゃないかと……アイギスですらレベル3まで上がってるし。よっぽどだったんだな。


「おはようございます、良く眠れましたか?」


 においのせいか良く眠れなかった。風向きのせいか甘い香りがしたりヤバそうな香りがしたり美味しそうな香りがしたし……でも、スッキリはしている。


「シュリナさんありがとう。うまく調合してくれたせいかスッキリしてるよ」

「それは良かったです。それじゃあ、早速例の場所に出かけましょう!」

「こんなに早く出かけるの?」

「実は……すっごく楽しみにしていたんですサムゲン大森林に入れる機会はそうそうありませんしあそこは植物の宝庫で不思議な植物や錬金学の素材になりそうなものが沢山あるので早く行って沢山の素材を──」


 めっちゃ早口で際限なく話しを続ける……時折、指をフリフリ力強く振って力説していた。とりあえず分かったことは、シュリナがめっちゃ楽しみにしていたことだけだった。


「と、言う訳なんです。だから早く行きましょう。シオンもそろそろ来るはずです」


 シュリナの料理はとても美味しい、夕飯にしても朝食にしても素材の味を引き出した素晴らしいご飯である。


「おはようございますシュリナ様、こんなに早く向かうとはやる気ですねぇ」

「シオンもですね。いつものようにドンドン頼みますよ!」

「任せて下さい! わたくしがしっかり魔物を倒しまくります!」


 ニヤリとするシュリナとシオン、ふたりの目的はそれぞれ植物採集と戦闘、なんだか不安しかない……それにしても、例の場所ってなんだろう。


 僕たちは例の場所とやらに向かって出発するのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る