第27話 鬼族の里カミラと転生者

 明確な領主がおらず様々な種族が独自の生活様式を作って暮らしている国、ダグザバーラ。その一角に鬼族が住むカミラという里があった。

 周辺国にとっては占領し易い条件が揃っているダグザバーラだが、他国から攻め込まれることはなかった。これは始祖アストラザラスまおうが不穏な動きを察知すると、上空から天の裁きを降り落とすという伝説からである。


「とは言っても、誰も魔王の姿を見たことがないでござる」

《始祖アストラザラスは確かにおって見張っておるぞ。雷エネルギーが強いのは図体がでかいからじゃ》


 いやいや、国民が知らない言い伝えを『トイレはあそこですよ』と教える的な軽さで言わないでくれよー。

 こういうのってポロっと話してしまおうものなら、デマを流す不届き者とか神を語る反逆者とか言われて処刑されされちゃいそうなやつじゃん。


「アイギス様、あそこが鬼族の里カミラです」


 イメージ通りの建物、山の斜面に上手く作ってあるなぁ。


「あそこに族長が住んでいるの?」


 里の一番奥にある大きな建物、やかた的な雰囲気がある。


「あそこは集会所です。陰になって見えませんがその奥にある建物に族長たちが住んでいます」


 アニメで見るような田舎の風景、山を切り崩して作ったのであろう美しい畑や水田が広がっていた。


「帰ったかシオン、お前は一体何をしたんだ。人間の街を救ったという報せがここまで届いておるぞ」

「すまないでござる。偶然に偶然が重なって報せのような形になってしまったでござる」

「シオンが帰ってきたら真っ先に族長の所に来させろと言われているぞ」

「ああ、直ぐに族長の所に行くでござるよ」


 シオンに付いて行こうとすると、門番24が背中から取り出したのは、細い持ち手に六角形の筒が付いた棍棒、円錐形のトゲがいくつもついている。


「お前たちは人間と……蜘蛛レオンか、何しにこのカミラに来た」

「今は一刻も早く族長に報告したいでござる。彼たちこそ人族に出た魔物を倒した者、証人として来てもらったのでござる」

「こんな弱そうなやつらがか……。まぁいい、シオンに免じて通してやろう。ただし余計な所に入ったり詮索なんてしたら生きて帰れないと思えよ」


 シオンによると、この里は人口が3,000人ほどで農業を生業とするものが多い。以前は人族に悪行を働いていたが、3匹の獣を味方につけた太郎という人族に敗戦しこの地に移り住んだという伝記があるそうだ。

 その後、何人もの鬼族がこの地を離れたが、この里に住む者は人族を襲ったり手を貸すことが掟で禁じられているのだ。

 

「族長、シオンはただいま戻ったでござる」


 大きなやかたの裏にある族長たちが住む建物は、時代劇で見るような武家屋敷に近い見た目をしていた。


 凛とした白髪の老人女性51と、赤い髪の毛を突っ立てた偉そうな男38が待っていた。最初に口を開いたのは老人女性族長だった。


「シオン、キリドを探しに行ったはずが人族の街で名前を売ってくるとは何があったんだい」


 物静かでありながら迫力ある族長の言葉、白髪を掻き分けてシオンの言葉を待つように笑顔を向けた。


「近衛兵の分際で族長の命令を反故にするなんて随分なことするじゃねぇか。何様だと思ってるんだ」


 赤髪の男の横暴な態度、片膝を立て頬杖をついている。


「今回の件は偶然が重なってしまったのでござる」

「言ってみなさい」

「経験値と宿代を稼ぐために魔物討伐をしていたとき……強力な魔物が出現し周囲の冒険者を壊滅したでござる。拙も不覚をとって死を覚悟しましたが、この蜘蛛レオンに助けられたのでござる……たまたまトドメを刺したのが拙だったというだけなのでござる」


 チラチラと顔を上げながら説明をするシオン、時折りこちらに目配せをする。


「蜘蛛レオンは僕のペットです。知人が襲われていたので助けたまでです。倒すことが目的ではなく助けることが目的だったので、シオンさんに迷惑をかけちゃったみたいですね」

「拙も死にたくはない故、必死に魔物に刀を突き刺したらトドメになったでござる」


 しっかり事実は伝えられた。ただこのパターンで『はい、そうですか』と納得してもらえるとは思えない。アルアル デ アル。


「話しは分かった。ベニマはどう思うかね」

「嘘だね。シオンが倒せなかった魔物を人族の若造が倒したなんて思えない。なんなら俺様がテストでもしてやろうか」


 そうくるかー、しかも自分のことを俺様って……《恥ずかしい赤髪じゃな》


「さっきも言いましたが魔物を倒したのはこの蜘蛛レオン、僕じゃありません」

「いちいち口答えするんじゃねぇよ。俺様はいつでもお前の首なんて斬れるんだぞ、生意気なこと言っていると生きてこの里から出れんぞ」

「お止め下さいベニマ様、彼らは拙の恩人でござる。『転生者』の能力者が本気を出したら勝てる者はござりません」


 ……数字だけを見ると、ベニマ38より族長51の方が数字が高いけど。そんなに『転生者』を持っていると凄いのだろうか。


《主も持っているんだぞと言ってやればよかろうに》


 いや、力を誇示する必要もないし、わざわざ伝える必要もないでしょ。いざ戦いになったら知られているのと知られていないのでは雲泥の差があるからだ。


「『転生者』ですか? なんですかそれは」 (トボケー)


 さりげなく聞き出してみる。シオンには目で『余計なこと言うなよ』アピールした。


「はっはっは、そうだろうな。一言で表すなら『強い』、常人より早くレベルはあがるしスキル取得率も高いんだよ。つまりなわぁけぇ、分かる?」

「そうなんですか」


 どうしても族長とベニマを交互に見てしまう。


「そうだ、鬼族最強の俺様に役に立つ機会をやろう。今から言う4人の名前を聞いたことあったら教えろ……

  ・一条いちじょう 裕司ゆうじ

  ・上加茂うえかも真二しんじ

  ・砂川すなかわ 圭吾けいご

  ・高橋たかはし 真守まもる

 こいつらには悪魔が憑いている。その悪魔を相田あいだ 正也まさやことベニマ様が退治してやるんだ。あっ、それと九重ここのえ 世羽よはねちゃんって言う名前の子を聞いたら丁重に連れてきてね」


 ……正也くんだぁ?。アニメ好きとして良く話してた。それにあの4人か……僕たちをずっといじり続けてきた。僕を崖から突き落とした4人……。


《主の記憶にあるな。なかなかつまらんことをする者たちじゃ。どうせなら戦いを挑めばいいじゃろうに》


 いやいや、そういう世界じゃなかったから。……でも波乱万丈すぎてすっかり忘れてた。それに、九重さんかぁ……余羽さんて、グラッセス家のマインじゃないか! そういえば正也くん、彼女のことが好きだったもんなぁ。


「何を考えている、知っているならさっさと答えんか! 使えないやつだな」


 一体どうしちゃったんだろう正也くんは。 (アー、ウルサイ)

《主の記憶から察するに強さに飲み込まれたのじゃろうな》


「ああ、失礼しました。全く心当たりがないですね」 (シッテイテモ オシエルカ)

「それならようは無い、シオンのことは俺様たちの問題だ。俺様の気が変わらんうちに人族はサッサと里から出て行け」


 出口を指さすベニマ、あまりの横柄さに怒りを抑えるのが辛い。珍しくウルドも怒っている。


「アイギスと言いましたかな? ワシは族長のパイリンと申します」 

「あれ? 僕はまだ名乗ってないですよね?」

「フォッフォッフォ、ワシはシオンのサポートに隠密をつけておったでな。全て知っておる、今日はここに泊っていきなさい、ベニマ。シュリナを呼んできなさい」


 何で俺様がという表情。ブツブツ言いながら立ち上がるとどこかに行ってしまった。


「消えた!」


 シオンの叫び声と共にアイギスに向かって鋼化針を出した。


 カッキーン──


 鉄の擦れる音が響く、そう、族長が一気に間合いを詰めてアイギスに切りかかったのだ。すんでのところでガードしたが……一体何のつもりだろうか。

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