3章

第26話 鬼族の近衛兵シオン

 まさに今、目の前は一種即発の状態だった。ひとりの女性28十数人平均17の男が襲い掛かろうとしていたのだ。


 ジリジリト近寄る|男たち、『ケガさせたらママ衛兵言いつけ嘘の報告しちゃうよー』的なセリフを恥ずかしげもなく吐いている。


 アイギスを使って彼女の手を掴むと一目散に連れ去った。本体で粘化糸に軽微な麻痺を付与して絡みつけた……面白いように転げ回る男たち。


「ギャー」だとか「うぐっ」だとか、いろんな声を出して男たち。麻痺の効果で起き上がることすらできない。 ……中には気持ち良さそうにしている人が……いや、気のせいだろう。


 そうそう、蜘蛛レオン初期種の時は尻尾の先から放出していた糸が、進化して数本の手から出るように変わっていた。


 あっ、ヤバイ……アイギスを走らせていたんだった。ひとつのことに集中して考えを巡らせると他のことが見えなくなってしまう。どれどれ……あー、女の人、困惑したまま付いてきてるぞ。


「ここまでくればもう大丈夫だね」

「助かったでござる、倒せば楽なのだが脅されていたもので何も出来ず……でもなんで追ってこないのでござろう」


 なんだこのアニメちっくな話し方は、凛とした恰好良さがある女性、額に伸びる美しい一本の角が凛々しさを引き立てている……そういえば、円卓会議で見た鬼族のキリドという人の角は2本だったな。


「ハハハ、さっきの男たちは蜘蛛レオンに任せちゃった」

「君が街で有名な蜘蛛レオンをペットにしたという……凄いでござるな」

「たまたま運が良かっただけだよ……あっ、僕はアイギス・パラス。アメルーダに向かってる途中なんだ」


 遅れて登場する蜘蛛レオンぼく。どや顔で彼女を見つめた。が、こちらをチラリと見ただけで直ぐにアイギスに視線を戻した。


「そうでしたか、拙はシオンと申すでござる。ペット登録令のおかげで大変な目に……って、その蜘蛛レオンは! ボーグルスコーピオを弱らせた魔物……ムググ……おかげで拙が討伐者にされてしまったのでござる!」


 あぁー、そういえばボーグルスコーピオを倒したのは鬼族だって誰かが噂していたのを聞いた気がするなぁ。


「街に害をなす魔物を倒したんだから褒められることはあっても嫌がることはないんじゃないの?」

「拙は鬼族の近衛兵、人族の街を救う義理はないでござる……そうでござる! 拙が魔物で訓練していたら、勘違いして助けに入りトドメを刺さずに立ち去ってしまったということにするでござるよ!」


 何がダメなのか良くは分からないが困っているのだろう。


「分かった。困ってるのなら好きにしていいよ」

「では鬼族の里に来て弁明するでござる」


 里に行く? って、アメルーダに行って情報を集めたいんだけどなぁ……。


「いろいろと調べたいことがあってね、アメルーダに行って情報を集めたいんだ」

「それなら尚のこと鬼族の里カミラが良いでござる! 古い文献や遺跡のことなら得意でござるし、転生者もいるので流行以外ならなんでも分かるでござる」


 転生者……僕たちのようなっ、かー、今の僕にはプラスにならないが、堂々と転生者と名乗っているのは何故なのかは気になる。


《良いと思うのじゃ、カミラは古くからある鬼族の里でな、部外者は中々入れんのじゃ。それに一部の者は邪視スキルを持っておるでのう。ドライアド族といい主は他種族を引き付ける何かを持っておるのかのぉ》


 引き付けるかぁ、今まで離れていくことはあっても近づいてくる人は皆無だったのになぁ。激運スキルが味方してくれてるのかな。


「分かった。折角だからカミラの里に行ってみるよ」

「それは良かったでござる。早速里に向かうでござるよ」


 鬼族の里かぁ……藁ぶき屋根が点在する和風世界がイメージされる。インフェルザン王国のようなヨーロピアンな城ではなく、和風な城でも建っていそうだな。


「そういえば、キリドという鬼族を見たんだけど知り合い?」

「アイギス殿はキリド様を知っておるでござるか? 拙から多くは語れないでござるか、長の血族でござる。血族だけが持つ邪視を持ちながら里を出た……立派なお方だったでござるのに」


 シオンの話しが止まらない……多くを語れないと言ってたのに。


《シオンとかいう女子おなごはお喋りじゃのう、止めてやった方がよかろうて》


「ありがとう、そんなに喋っちゃって大丈夫だったの?」

「えっ あっ、ダメでござる。あなた方には話しても大丈夫だと安心する何かがあるでござるな、このことは内密に頼むでござる」


 長い黒髪を邪魔にならないようにしっかり留めて、前開きの動きやすい下衣の袴に色香のある上衣を纏った長刀ちょうとう使い。動くたびになびく帯が美しい。しっかりしているように見えるがおっちょこちょいな一面が見え隠れする。


 人と一緒に旅をすると困ったことがある。食事をきちんと摂らなくてはならないことだ。

 元々アイギスは食べなくても良い。僕がその辺に生息する魔物や獣を倒して食べるだけで事足りるのだが、魔物だという事を怪しまれないように、しっかり料理して食べなくてはならない。


「シオンさん魔物──」、僕の言葉が終わる前に飛び出して魔物を倒してしまうほど気が短い。僕たちの手を煩わせるのは申し訳ないって……なんて真面目なんだ。


「アイギス様、魔物です。屠ってくるので少し待つのでござる!」


 道中、獣や魔物が出れば率先して倒し、肉を獲得すれば焚火を作って焼き始める。食事の準備や寝床の準備、家庭的な一面にギャップを感じる。


「シオンさんって強いね。立ち入る隙なんて全然無いよ」

「拙が強くなれたのはあなた方のおかげでござる。ボーグルスコーピオの経験値が大きくてたくさんレベルが上がったでござるよ」


「僕に戦いの指導をしてもらっていいかな──」

 人としての戦い方、剣技や戦術なんて全く分からない、合間を縫って手ほどきを受けた。

 

「そうです、獣や魔物は本能で動くので誘い込むように戦うでござる」、「知能を持っている相手は動きを読んできます、どう体勢を崩すか視野に入れると良いでござる」……色々なアドバイスをもらった。


 いやぁありがたい。とても勉強になる。実際に体を動かしているのはアイギスだから勝手は違うが十分にプラスになる。


《アイギスのレベルが1上がりレベル18となりました》


 よっしゃー! レベルが上がったー! 人の体はレベルが上がりにくい……迷宮で鍛えていた時の10台20台なんて一瞬で過ぎ去った感じだったもんなぁ~。ネフィリムが持ってきてくれた魔物を食べてただけだけど。


 新しく覚えた『混合異常』スキルを試して熟練度をあげていく。


《もう少し毒の割合を小さめにすれば良いんではないか』》


 最近はウルドも戦略のアドバイスをくれる。僕が使える糸は6種類、縛る用の蜘蛛糸、ネバネバした粘化糸、めっちゃ硬い鋼化糸、毒を含んだ毒化糸、麻痺を含んだ麻痺糸、腐食させる腐食糸。この中から3種類を1本の糸に付与出来る。


 微妙に制限が厳しいんだよなぁ、複数本同時に混合異常を付与しようと思ったら一本ずつ状態異常の割合を指定しないとならないだもんな。


《まぁバランスが大切ということじゃな。いくつか自分なりの割合を決めておけばいざという時に便利じゃろうて》

 

 シオンと共に有意義な時間を過ごしながら、鬼族の里カミラに到着したのだった。



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