第25話 さらば、インフェルザン王国

 マリアナのこれほど悲し気な表情を見たのは初めてだった。


「私が生まれてから母の実家があるこのマイアサウラに両親と移り住んだの──


 大好きな父と優しい母と過ごした幸せな日々、徐々に狂っていく歯車……

 マリアナの祖父母は貴族であった。母が人族以外の種族と結婚したことに強く憤慨して、娘をたぶらかした重罪人というレッテルを貼って、獣人族である父を秘密裏に処刑し事故に見せかけた。

 その事実を知った母は後を追うように姿を消したという……。

 両親を失い、祖父母からも見捨てられたマリアナ、心の支えは動物たちと戯れることだけ……運よくスラム街の主に拾われ、優しくしてもらえたことで貧しかったが頑張って生きてこられたという話しであった。


「助けてくれたのはパティアせんせいだったの……スラム街から引っ張り出してくた……今の私があるのは先生のおかげ……私のような子をこれ以上出したくない!」


 マリアナを黙って見つめ話しを聞いていた。時には泣き、時には落ち込み、時には苦笑いして……。


「なんでだろう……メロディーちゃんに聞いてもらいたかったの。この先、私は大きな戦いに参加することになると思う……私が変わってしまうかもしれない……今の私を覚えておいて欲しい」


 マリアナは僕の背中を大きく撫でると一気に立ち上がってひとりの女性を呼んだ。


学級会の会議にいた……キュー

 

 有翼族のソロン・パピオン。彼女が美しい声を発すると、歌声が渦となって僕を包み込んだ。


《これは変化へんげ解除じゃ》


「ごめんなさいメロディーちゃん、もしわたしが生きていたらまた撫でさせてね……好きだったわよ……中の人」


 声によってフラッフルンの姿が解除されていく。


《変化が1上がりLV.2となりました》


…………このレベルアップシステム、シリアルシーンを狙ってるのか。それより、このシチュエーションを学級会の人たちが作り出したとしたら僕の正体に気づいている?


 突然に出来事に頭が混乱、何も出来ないまま蜘蛛レオンの姿に戻された。


 マリアナとソロンの姿は既にない。ソロンの美しい歌声に引き寄せられた人々の目線の先には……ロックオンされている蜘蛛レオン姿の僕が佇んでいた。


 人々の目の色が変わる瞬間を見た。欲望を感じさせる目、悪意を感じる目、突き落とされたあの時と同じ……動揺して動けない僕の事情なんてお構いなしに集まってくる人々……


「その蜘蛛レオンはペット登録されてるわよー」


 マリアナの大きな声……その言葉に人々は動きを止めて僕の姿をマジマジと見つめた。

 首に付けられた魔法のリングに大きな落胆の溜め声がところかしこから合唱のように聞こえてきた。


「というか、蜘蛛レオンがペット登録されたなんて話しを聞いたことないぞ」

「もしかして他の国で登録されたのかもしれないぞ」

「じゃあ、どこかに飼い主がいるってことだよな」


 騒ぎは収まらない。わちゃわちゃガヤガヤやっているうちに僕はその場を逃げ出して家に逃げ帰ったのだった。


 一体何だったんだ……。変化へんげも使えなくなってるんだけど。


《我も忘れておったぞい、鬼族の一部には変化へんげを見破る力があり、有翼族にはそれを打ち破る力があるのじゃ。封印までされたという事はかなりの使い手なのかもしれんのじゃ』


 これからどうしよう。この街で僕が出来ることはないし……マリアナの言葉が気になって仕方がないんだけど。


「蜘蛛レオン様大変です」


 家に入って来たのはルミナ、僕の体アイギスの姉だが中身はドライニアさんだ。


「どうしたの姉さん」

「ふふふ、蜘蛛レオン様から姉さんって言われるのも変な感じね」

「ああ、ごめんごめん。体は異空間に収納してたんだ」

「そんなことより、魔王として七色のパティアが名乗りをあげたの。今回の『ペット登録令』もパティアの提案だって噂になってるわ」


 パティアってあのドールマスター、学級会のような会議を開いていた……とても同一人物だとは思えない。


「それと……バーバラの首を渡して欲しいの。『この地を守る者』として動く私へ直接命令が飛んできたわ。渡さなければ直ぐにペット登録されていようと蜘蛛レオン捕獲に1億ギラの懸賞金をかけると……素直に渡して国から出ろということです」


 繋がった……。学級会だと馬鹿にしていた集団だがとんでもない組織だった。戦ってた訳ではないが、完全敗北した気分……そうか、マリアナは僕を守ろうとしてくれたのか。


「姉さん、僕は街を出る。きっとこれから街は大騒ぎになると思う。僕は今の自分を作ってくれた恩人の頼みを叶えに行くよ」

「蜘蛛レオン様、私は『この地を守る者』として残ります。体から追い出されるという失敗がないようにガッチリロックもかけました」

「そんなことが……でも、ドライニアさん自身の力が使えないんじゃないの?」

「そうなんです……でも、私の仕事ってほとんどないから大丈夫、蜘蛛レオン様ひとの前にドライニアとして姿を現すことなんて数十年に1回程度ですから」


 にこやかに笑うルミナ、体に宿る力とよほど相性がいいのかとても明るい、一体アイギスとルミナってどんな姉弟だったのだろう。


「目的が達成したら一度戻ってくるから元気でね」

「はい、もし私がこの体を失っていたらどこかに縛られていますので探してください!」


 魔王となったパティアの正体、ユウノ、バーバラ、マリアナ……マインやシシリーだってそうだ……前世で人とあまり関りをもたずにきたせいか、ひとりひとりの状況がとても気になってしまう。


《厳しいようだが主はこのものがたりの登場人物ではない。今は各地を巡り時の女神を探すのじゃ》


 た……確かに……「僕はこの街の人間じゃないし、物語の中心にいるわけでもない」

「蜘蛛レオン様、それは私も同じです。どんなことが起きようと、この街で起きることには手出しは出来ません……」


 時に頭に浮かぶのはマリアナの笑顔とナデナデ……。


「僕はこれからこの街から発つよ。今までありがとう」

「はい! お気をつけて。この家はあなたのために空けておきます」


 僕はインフェルザン王国の首都を出た。時の女神の居場所は分からずじまいだが、多くの情報が集約する北にある商業都市アーメルダに向かうのであった。



 ◆ ◆ ◆



 商業都市アーメルダを目指して北上中。本体と体の同時制御を兼ねて街道をゆっくり歩いていた。

 ファンタジー系小説だとこういう旅立ちって華があるんだよなー……でも、女の子との旅なんて緊張しちゃうから自分には無理かー。


「イテッ」


《これ、アイギスの制御が疎かになっておるぞ。転んでしまったではないか。まったく主も男よのぉ……華が欲しいとはなぁ。分かっておるとおもうが、我は女神じゃぞ。女神なんじゃぞ、華じゃからな》


「──止めるでござる」


 額に一本角がある凛とした女性28が10数人の男に取り囲まれていた。


「お前は鬼族だろ。ボスのペットにしてやるから来いよ」

「そうだそうだ、お前がペットになれば俺たちのチームが勢力を増すんだよ」


 ジリジリと近寄ってくる男たち、鬼族の女性は背中に突き刺した長刀の柄を握った。


「ほー、この人数相手にやろうってのか。人族殺しは重罪だぞ、ちょっとでもケガをさせたら無いこと無いこと衛兵にチクってやるからな」


「なんと卑劣な……」


 鬼族の女性との出会い、時の女神はどこに、これからどんな困難が待ち受けているのだろう。蜘蛛レオンとウルドの旅は続くのであった。



===次章につづく。


===

おまけ:ステータス情報

       気粒素 魔粒素 攻撃力 防御力 魔力 速度

主人公:LV30  172  172   68   40   80  124

 種族:蜘蛛レオン

    進化→ノーマル→カバキコマレオン→ゴウシュウアンドレオン

ネフィリム:LV50  215  170   104   48  65  30

 種族:天人族→堕天使化 


 ※気粒素:ダメージを受けても頑張れる気力的な数値

 ※魔粒素:スキルを使うと魔粒素の流れが働き消費する

 ※攻撃力:言葉のまま

 ※防御力:言葉のまま

 ※魔力:同じスキルでも大きいほど強力となる

 ※速度:疾さ。大きいほど速い、魔粒素の流れが発生しない


 各数値が高い方が、確率スキルを取得しやすい傾向にある。


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