第18話 動物好きなマリアナちゃん
あぁ、この
《激運が1上がりレベル5となりました》
えっ? なんで今スキルが上がった?
「おかしいわねぇ、この子『動物操作』が効かないわ」
目は大きく見開きビクッと体を震わせてしまう。なななな、一体なんだこの子。
『
「あら、私の言葉が分かるのかしら。学校の子じゃないみたいだし拾って帰ろうっと。ふふふ、メロディーちゃん、卒業式が終わったら一緒に帰りましょうね」
アウラと戦った時に『魔物操作』で操られた記憶。あの時みたく運よく回避できたのだとすると連発されたら危ない。
ワラワラ集まってくるフラッフルン、視線がすべて僕に集まっている。
『『『|誰だよお前、マリアナちゃんを独り占めするなー《キュー・キュー》』』』
ゆるい口調がかえって怖い。嫉妬の炎って怖いもんなぁ。
「今日は卒業式だから仲良くね。いつも通りみんなを癒してあげて」
フラッフルンの目の色が一瞬変わった気がする。『『
「あらマリアナ、相変わらずフラッフルンを連れてるのね。それにしても流石ねぇ、動物に言うことをきかせるなんてどうするのよ」
「ふふふ、私は動物と心を通わせることが出来るの。バーバラさんだって得意技あるでしょ」
バーバラ……あれ? 普通だ。初めて会った時のような表情、昨日の乱心感は一切なくなっている。
「私は頑張ることしか出来ないわ。両親がいい男を見つけてこいってうるさくてねぇ。マリアナが動物を手なずけられるように、私は男の人を手なずけられたらいいのに」
「大丈夫よ、バーバラさんだって勉強にスポーツに頑張ってるじゃない。それに可愛いから絶対にいい人が見つかるって! ねぇ、メロディーちゃん」
マリアナの言葉に屈託のない笑顔を返すバーバラ、その顔に思わずウンウン頷いてしまった。
《主はメロディーになりきっておるのぉ、その頷きは良くなかったのではないか》
あぁ、しまった。思わず……。
「凄いわね、このフラッフルン、マリアナの言葉に返事したわ」
遠くからバーバラたちを呼ぶ大きな声、「おーい、そろそろ卒業式が始まるから早く会場に入りなさーい」と教師が呼んだ。
ふたりは「「行きましょう」」と見つめ合って頷くと走り出した。
マリアナの包み込む手が強くなる。小さく「 (おかしわね、スキルが入ってないのになんで頷いたのかしら……まさか言葉を理解している?)」と呟いた。
「メロディーちゃんは私の言葉が分かるの?」
もちろんこの問いに反応してはいけない。辺りを見回すようにキョロキョロしてやり過ごした。
「そうよね、さっきの返事は気のせいよね。でもなんでスキルが入らないのかしら」とマリアナは首をかしげていた。
激運スキルに阻まれているのだろう。何度もかけられたらどうなってしまうのか……ウフフと笑いながらペットとして遊ばれてしまう妄想が浮かんでしまった。
《大丈夫なのじゃ。操作系のスキルは自分のレベル以下しか操れんでな。よっぽどスキルレベルが高ければ危ないが、あの年齢なら大丈夫じゃろうて》
あー、確かに彼女の頭上の数値は『12』って出てるもんなぁ。その辺を歩いているフラッフルンの数字は2~4程度だから、少なくてもスキルレベル4以上か。
インフェルザン王国首都マイアサウラには5つの中等部があり、今日は全ての中等部で卒業式が行われるのである。
この世界の学校は日本とは違って平民は中等部、貴族は高等部までが義務教育となっている。進級は本人の意思と家庭の状況で決めることができ、高等部の先は大学部、研究部と勉学の機会が多く設けられていた。
卒業という別れは新しい人生の門出でもある。
大人の階段を一段上った生徒たちの顔は晴れやかだが、感情を揺さぶられる式では涙する者や必死に堪える者、笑顔になる者など様々である。
……いや、というか僕は何を見せられているんだ。
『|知り合いなんでほぼいない学校の式を見ても感動しないぞー《キュー・キュー》』
「あらダメよメロディーちゃん、静かに膝の上に座っててね」
はい……ごめんなさい。つまらないからといって式をぶち壊していいことにならない。
「あらぁ、やっぱり言葉が通じてるのかしらねぇ」
彼女の言葉に大きな溜め息をついてしまう。分かっていてもつい反応してしまう自分が嫌になる。
ひとりノリツッコミも悲しいので、丸くなって睡眠に入るのであった……卒業証書授与の生徒を呼ぶ声が念仏のように聞こえたおかげで直ぐに寝入ることが出来た。
「総代、ユウノ・グラッセスくん」
知ってる名前で目が覚めた。ユウノくんが総代なんだ。数日だけ入っていた僕の体、今はドライニアさんが入っているんだよなぁ。
『その地を守る者』であるドライニアさんがカチコチ緊張で固くなって壇上を歩く姿を想像してしまった。
壇上に上がって証書を受け取るユウノ。こういう式の流れは僕たちの世界と一緒なんだなぁ。
ユウノは壇上から卒業生たちを見下ろすように立った。視線は先生に向かっている。日本でいう答辞に当たる慣習だろう。
「今日、私たちは卒業します。……一度はグラッセス家を破門されましたが……先生たちのお力添えもあって……当主候補としてグラッセス家に戻ることが出来ました。………これから高等部に入っても先生方の教えを…………」
ユウノくんはグラッセス家に戻ることが出来たんだ。そういえば僕も蜘蛛レオンとなって直ぐに両親から破門されたんだったよなぁ。もしあのままの蜘蛛レオンとして生きていたらどうなっていたんだろう……。
「続きまして、皆さんの将来を祈りたいと素晴らしい人が来てくれました。魔王である堕天使ネフィリムを討伐したパーティーのひとり、ユマ・エリンさんです」
舞台袖から出てきたのは魔道士姿の女性……あれ? この人どこかで見たことあるぞ?
《広場に像が立っておったでな、それではないのか……》
うーん、もっと前。どこだろう……他人の空似ということか?
《おーあったのじゃ。主の記憶の中におったぞ、ネフィリムと人間に会いに行ったときに逃げられたおなごじゃな》
『
「こらメロディーちゃん、静かにしてなさい」
マリアナが僕の柔らかな背中に優しく手を落とした。僕は黙って膝の上に座った。
ユマはネフィリムを討伐するまでの経緯を端的に説明し、蜘蛛レオン討伐で失った仲間の事を偲び、さらなる魔王を討伐すべく努力していることを拳を握りしめて語った。
……この中から冒険者の道に進む人もいるでしょう。この世界を護り人々を救う誉れ高き仕事です。高等部での生活を通じてどんな未来が描けるのか探して下さい。また、中等部を卒業し一足先に社会にでる皆さん。君たちにしか出来ない努力があるはずです。どんな道を進もうと歩む時間は平等です。自分自身にとって後悔のない人生が送れるよう応援しています」
盛大な拍手が沸き上がった。これは噂に名高いスタンディングオベーション。良いことを言っているなぁと関心はするものの、少し冷めた心境になっていたのは魔物の心が半分入っているからだろうか。
つつがなく卒業式が終わると、最後に卒業生一同で全クラスを巡るのが恒例行事なようだ。
『 (結局僕は何のために呼ばれたんだろう……《キュー》』
ドライニアさんは何を見せたかったのだろう。あとでユウノくんのところに行って聞いてみることにするか。
《おかしいのじゃ……ドライニアの気配がユウノから消えておる。普通の人族の匂い……偽装だと良いのじゃが……念のためユウノに近づくのはやめておくとよかろう』
ウルドがそこまで言うなんて珍しい。今までの経験からウルドの言ったことの方が正しいのは分かってる……まぁマリアナから逃げられそうにないし成り行きに任せるしかないな。
卒業式全ての行程も終わった。別れを惜しみ合う卒業生の中、僕を抱えたままのマリアナに連れられるのであった。
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